【e1m10】ステルスゲーム
忙しくて投稿が遅れました。御免なさい。
「ハァ……」
こうべを垂れると、気だるいため息がもれた。カレンに代わり、これから校旗を盗みに行くのだ。
ここ北校舎1階は、日に隠れると暗い。おまけに、職員清掃区域なので誰もいない。風が吹き込む音が聞こえる中に佇む俺は、泥棒だった。
偶然出くわした情報科に教えてもらったが、本日校長は定例校長会のためセンター出張で、直行直帰である。そのため、校長室は終日空であるが、隣接する事務室からの往来がある。校長室のドアは、U99シリンダーとか何とか呼ばれる錠がかかっている。ピッキングスキル0の俺には、到底破ることはできまい。
窓から入る方法もある。しかし、警備会社の保証に入っているので、もし失敗するとヘンテコなロボットとか、ハンマーを持った衛兵とかが殺到するかもな。
となると事務室からの侵入となるが、ここには事務長以下8名の職員さんがいる。つまり、みなさんを気絶させずに進むという、完全ステルスが要求される。
「サイレントアサシン難易度だな……」
改めて考えると、カレンを行かせなくてよかった。結局甘やかせてしまったが、アイツには無理な芸当だ。一応策を考えたが、それが上手くいくのやら……。
事務室前に来た。なんだろう、後ろめたい気分が膨れ上がった。体を傾けて、ドア窓から室内を覗き見る。事務員さんらは、キーボードを叩いたり、書類を書いたり、ファイルをめくったりしている。観察しているうちに、あることに気がついた。単純なルーチンワークに従って行動しているのだ。
例えば……あの女性は、キーボードタイプをしていたかと思うと、立ち上がって湯呑みを洗っている。その繰り返しだ。別の男性は、定期的に印刷機と事務長の机を行き来している。つまり、彼らの行動パターンを予測して、校長室へ至るドアに進めばいいのだ。
あとは、視力・聴力がどのくらい敏感なのかを確かめる必要がある。
「ふむ。俺が中腰になったら、所謂ステルスモードになるのか?」
「大宮」
後ろから急に呼びつけられ、ビクッとした。振り返ると、担任の梅本先生だった。
「何だその顔は……?」
「あ……あの、その……」
ステルスが露見した顔をしていた。言葉が詰まって何も返せない。
「お前、また桜と悪巧みしているんじゃないだろうな?」
不本意ながら正解です。先生は訝しげに周囲を見回した。諸悪の根源はここにはいませんけど。
「いや、モップが汚れているので、床を拭いても汚れが広がるんです」
インベントリから体育館モップを装備した。
「本当かぁ? お前のその、中腰で両手を前に構えている姿勢、明らかにステルスモードじゃないか……」
「……」
ですよねー。どう考えてもこんな姿勢になるのは、マスターシーフかエシュロンエージェントですよねー。
「とにかく、これ以上厄介は起こさないように!」
そう釘をさすと、深く追求せずに去っていった。先生、釘を刺すのは俺じゃなくて、バカレンにしてください。いや慣用句じゃなくて、文字通りネイルガンをセーラ服に撃ち込んで拘束すべきだ。
「……」
気を取り直そう。このまま事務室前で突っ立っていても、他の教師の警戒レベルを上げてしまうだけだ。さっさと仕事に取り掛かろう。事務員さんにモップパッドの交換を願い出て、それを取り出してくれている間に校長室に侵入、校旗をインベントリに入れればよいのだ。よく考えたら、これって変だよな。校旗のような長物が入るなんて。
「まあいい。行くぞ」
俺は平静を装って扉を開けた。全職員の頭上にビックリマークが表示される。まだ敵対状態じゃないから落ち着け……。
「失礼します」
「あら大宮さん。こんにちは! どうしたの?」
にこやかな中年女性が対応してくれた。
【選択肢】
① Hands on the air! (Start the HEI$T.)
② すいません、このモップを取り替えて欲しいんですけど。
ちょっと①って何するんですかねぇ? ②を選択する。
「すいません、このモップを取り替えて欲しいんですけど」
彼女はまじまじとモップを見た。
「壊れたの?」
「いえ、パッドが汚れているんで、床に汚れが広がるんです」
「おかしいわね……このモップ番号、先週取り替えたはずなんだけど……」 【!説得失敗!】
【選択肢】
① Hands on the air! (Start the HEI$T.)
② Bye.
「Bye.」
「ごきげんよう!」
「というわけで、すまんカレン。ソーシャルスキルが足りなかったんで、事務員さん説得できんかったわ……」
Shinichi was flagged by Karen’s mop.
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