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0話 雑魚社員の又楽さん

我が社は最近FdVRMMO用の新タイトルを発表する…らしい。


らしい、というのは新作ゲームの内容は機密扱いになっていて、私のような広報部には特に情報規制がかけられているからだ。

その理由は勿論、広報部の耳に入れば止める間も無くポツッターやらフェースブック、果てには自営しているブログで即座に拡散される。


そりゃあもう、買って!!の意味を込めてなのだ、悪意はない、無いったらない。


MMOは言わずとも知れた、インターネットに接続するタイプのゲームである。VRはヘッドギアと呼ばれる物で視界を覆い360度を楽しめる臨場感のある画面を楽しめるという物だ。

ではFdとは何か、これは"フルダイブ"の略名である。脳波を直接電子空間につなぎ、肉体をレム睡眠状態まで落とし込む事で明晰夢のように電子空間を体験できるというものである。

元は医療機関で植物状態の患者とコンタクトを取るために開発された技術であるため、意識をはっきり持った状態で活動する事が可能なのは勿論、安全性も確認されている。

備考を一つ付け加えるなら開発責任者の名前はロバート・エクスプレスというイギリス人というところか。


「まあ、概ねそういった認識で間違い無いでしょう、最後のは必要ないと思いますが…」


「それで人事部の方が何かご用ですか?部長なら今出先ですが」


「ああいえ、間山君ではなく君にですよ又楽さん、まあ間山くんがいらっしゃらないのは残念ですが…」


しくじった、部長をくん付けで呼ぶなんてこの人かなりの地位だ。まあ人事部ってだけでそれなりの地位ではあるが…広報部の一社員が目をつけられていい相手じゃないのは確かだ。

茶でも用意した方がいいかな…なんて思うが後の祭り、どうやらしっかりロックオンされたようで、今は自分のパソコンの前で人事部の…名札は松囃子とある…松囃子さんと立ちながら向き合っていた。

身長は大体同じくらいで、パンプスを履いている分私の方が高い。気まずいの一言に尽きる。


「ふむ…何かスポーツはやっていましたか?」


「え?いや、スポーツはしてません、田舎出身なのでクラブも何もありません」


「なるほど、運動神経の方は?」


「体育の成績は並ですが…」


「そうですか、なるほど、平均ということは良い事です」


何かよく分からない事を聞かれる中でチラリとこちらのパソコンを覗かれたり体を見られたり、何か品定めをする目に『面接か何かかなぁ?』なんて思いながら冷や汗を垂らした。

しかし松囃子は満足したようにウンと頷くと胸元から紙を取り出した。


「取り敢えずコレ私の名刺です、間山くんが帰って来たら人事部に顔出すように言ってください、では私はこれで」


「え?」


突然の事に思わず一言だけ口から飛び出るが、松囃子は気にした様子もなく「お邪魔しました」と広報部を出ていった。


「えぇ…ナニ…」


呆然と閉まりゆく扉を見ながらポツリと呟く、しかしこの日を境に私の生活は大きく変わる事になる。





翌日、昨日は定時に上がり何事もなく出勤したが、今日はデスクに着くとパソコン起動も程々に会議室への呼び出しを食らった。


「お前何したんだよ」


先輩に小声で聴かれたがそんなもん私が聞きたい、しかも指定さてた会議室は小さい割に重役が集まる事で有名なG室だ。別名GODの会議室なんて呼ばれてる。

まさか広報部の雑魚社員が入る事になるなんてこのドアも思ってなかっただろう、貫禄も何もない手で神と空間を分ける偉大な板を叩いた。


「広報部の又楽です」


『どうぞ』


どうぞと言われれば入らないわけにもいかず、そっとドアノブをひねって室内へ顔を出した。


「失礼します」


「来たか又楽、まあ座れよ」


「間山部長」


どういう事だと視線を向けるも無視されて椅子を勧められる、会議室の中には他には誰もおらず二人向き合うような形だ。


「二人だけなら別に広報部でも…」


「機密性の高い内容で他に聞かれたくない、お前も他には言うなよ…これ読め」


「は、はぁ…」


差し出された紙の冊子を受け取る、表紙は白紙でわざわざ中が透けないように加工がされていた。そのままだとなにもわからないので一枚めくる、そこには【β版[チャメ]プレイ記公開企画書】とあった。


「β版…[チャメ]?何ですかこれ」


「新作ゲームのタイトルだ、お前も知ってるだろ、FdVRMMOの自社開発タイトルだよ」


「はい?え?機密情報ですよね?それ」


新作ゲームなんてアイディアの塊だ、他に漏らすのはいけないので大抵はゲーム開発部内部で作られ、他の部署には機密のはずだ。

特に広報部なんて、ほっといても口が回る人に知らせていい内容じゃない。

慌てて冊子に目を通すが確かにFdVRMMOのゲームらしい、β版公開日時から何まで書かれていた、ダメだろこれ。


「え?こ、これ言いふらせばいいんですか?」


「違わい、普通に読め、普通に」


「ほ、本当にいいんですね?」


「クドイぞ」


軽く睨まれて『ならいいか』と目を通す、そこにはβ版の抽選に落ちた人向けと、完全版への広告の布石としてブログを開設することが書かれていた。更にゲーム開発部から二人がプレイヤーとして推薦されているのが分かった。


「ははぁなるほど、私はブログを作ればいいんですね?ゲーム開発部さんのお手伝いですか」


「いや、お前にもプレイをしてもらう」


「ほわっつ」


思わず奇声を発しながら顔を上げる、間山の顔は『うわなにそのなきごえ』だった。表情豊かだな部長、主に蔑み顔。


「ブログの管理はサイバー管理局の人が請け負ってくれてるっつって書いてあるだろ、お前はその下で呑気にブログ作ってりゃいいって話」


「いや。だってゲーム開発部の方が二人も派遣されてるんですよ?それこそプロじゃないですか、素人が立っていい土俵じゃないですよ…」


「それだよ」


「はい?」


ピッと指を刺されて疑問符を飛ばす、すると間山は「しろうと」を強調した。


「プロ目線だと新しい発見とか無いだろ?だったら一人くらいど素人ぶち込んだ方が新しい発見とか、新規ユーザーもゲットしやすくなるかも知れんだろ、そこで広報部に鉢が回って来たんだ、お前は関西出身でライター経験もあるし、普段ボツにしてるけど面白いレビュー考えたりするからネット民にも親しまれるだろ」


「まぁ、その節ははい…」


「だから、やれ、上司命令だ」


機材なんかは会社で用意してやるから、なんて太っ腹な言葉を聞いて、もう私には頷く以外の選択肢は無くなってしまった。





又楽が退出しG会議室には間山だけが残される、すると不意に間山の後ろの壁がスッと横にスライドした。

どうやら引き戸だったらしい、神の会議室は一味違う、中から出て来たのは人事の松囃子だった。


「それなりにスンナリ引き受けましたね、彼女」


「一二もなく飛びつくよりは良いだろ、ったく無茶なこと言いやがるな…よりによってうちの部署に目ぇ付けやがって」


人手不足が悪化する、と言う睨みを、広報部なら本件には適任でしょう?と柔らかい笑みで返す。どうやらこの二人は表情で会話をするらしい、傍目にはよく分からないがそうなのだろう。


「しかし社長もよく決めましたね、3人体制でゲーム紹介させるなんて」


「確か他の二人にはプレイスタイルの指示があったよな、堅実なスキルを組む奴とガンガン行こうぜなやつ」


「ゲームのプレイスタイルで人を選ばされる人事部の身にもなってほしいものです、ゲーム会社に入った人なんて大抵ゲーム好きでしょう?素人らしい素人なんて中々見つかりません」


やれやれと首を振る松囃子、事実、他の二人についてはゲーム開発内部で簡単に見つかったのだが、素人プレイについては適任らしい人がいても仕事が立て込んでいたりと見つからなかったのだ。

そのせいで人事部も外部に漏れる事を承知で広報の人間に目をつけたと言うわけである。


「断られたらどうしようかとヒヤヒヤいたしましたよ、ええ、本当に、機密を漏らさせるわけにはいきませんから」


「断られたら海に沈めるとか?」


「ええ、まあ、それも良いですね…冗談ですよ?」


「嘘くさい…あぁ何で俺こんな奴と同期なんだ…」


項垂れる間山とニコニコ笑う松囃子、力関係は明白だった。

不定期人生

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