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勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?  作者: 高菜あやめ


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14/29

14. 追跡開始

 私は提灯を作ることしか能のない、しがない提灯屋の娘だ。でも逆に言えば、提灯は作れる。


 ルイーズ様の後を追いかけようと決心した私は、何か役に立ちそうな物を届けたいと思った。そこでとっさに頭に浮かんだのが提灯だった。

 戦況が厳しいというならば、撤退する可能性もある……そう考えた私は、少しでもスムーズに撤退する助けになればと、提灯を作って届けることを思いついた。それも、ただの提灯ではない……『魔除けの提灯』だ。


 魔除けの提灯は、田舎ながらも老舗と呼ばれる、うちの提灯屋では売れ筋のヒット商品だ。

 これは父親の師匠、つまり私の祖父が開発した商品で、大層な名前の割には、からくりはとても単純な仕組みだ。


(単純だけど、わりと効果があって好評なんだよね)


 まず提灯の明かりの元となる油に、ニンニクのすりおろしたものを垂らしておく。黒い布に穴を二つ開け、油をセットした提灯の周りをぐるりと包むと出来上がり。

 まあ、元は普通の獣だった魔獣どから、臭いのキツいものは苦手だろうという、単なる野生の本能にうったえる単純なアイデアだ。でもこれが旅人によく売れる。


 うちの店は山間にあって、山越えする旅人が提灯買っとこうかなあ、と思うタイミングに目につくことと、夜道だしせっかくだから魔物避けの効果が付いてるといいな、という気持ちがあって、売れるのだろう。ちなみに値段は、普通の提灯と大して変わらない。小銭数枚程度を上乗せするだけだからと、コスパも悪くない。

 日が暮れてから山を越える際、この提灯を持って歩くと魔物はもちろん、危険な野生動物も寄せ付けない。しかも祖父によれば『二つの目玉をギラつかせる魔獣のように見えるから、山賊も追っ払ってくれる』らしい。


(南西の国境あたりは、山はないけど大きな森があったから、そこかな)


 魔物が発生するのは、自然豊かな山奥や森の奥だ。だいたいの行き先は検討がつくだろうと楽観的に考える。今は不安材料よりも、前向きな可能性にかける方が建設的だ。


(もちろんルイーズ様にとっては、ただのありがた迷惑かもしれないけど……)


 でも迷惑ならば、戻ればいいだけの話だ。何も試さず、ここで心配しながらただくすぶっているより、行動に出た方がよっぽどマシだ。


(それに今は、迷ってる場合じゃない)


 そうと決まれば、あとは実行に移すだけだ。

 パーティーが終わるまで、おそらく二時間くらいは猶予がある。でも私まで黙って抜け出したのがバレたら、さすがにまずい。


(でも大広間の正面から出て行けば、たぶんその後は監視されるだろうなあ……)


 なんせ、つい半日前まで執務室で軟禁状態だったのだ。当然、宰相様は私の動向を注視してるはずだけど、パーティー会場にはルイーズ様が『一緒』だから油断してる……と願いたい。

 正面から出て行けないのなら、道はひとつしかない。私は迷わず、バルコニーへと足を向けた。


(まさか、ルイーズ様と同じ脱出ルートを使う羽目になるとは)


 私はルイーズ様の後を追うように、バルコニーの手すりを乗り越えると、暗闇の広がる庭園へ突き進んだ。

 まあ普通ならドレス着てて、手すりを乗り越える暴挙に出るなんて思わないだろう。でも私はどこぞの令嬢でもなく、田舎育ちだから暗闇の中を歩き慣れてる。


(山道に比べたら、道が整備されてるだけ数段マシだからね)


 暗がりに慣れた目を凝らして、ルイーズ様が向かった方角を、なぞるように歩く。人影がまったくない、死角ポイントなのだろうか。途中シャベルやバケツ、リアカーが転がっていたので、庭仕事をやる人の物置兼作業場なのかもしれない。

 やがて突き当たりの生垣までたどり着くと、そこには人一人分くらい抜け出せそうな穴を発見した。のぞきこむと、開けた場所に、多くの馬車が停められているのが見えた。


(なるほど、ここから外へ出られそうね)


 確認だけ済ますと、再び庭を通って、今度は自分の部屋を目指した。だいたいの見当はつくので、暗がりを利用しながら慎重に進んでいく。気分はまるで侵入者だ……見つかったら、苦しまぎれに道に迷ったという他ない。


 幸いなことに誰に見つかることなく、なんとか自力で部屋へ戻ってきた私は、休む暇もなくドレスを脱ぎ捨てた。


(はあ……疲れた。でもバレる前に出発しないと)


 まず『動きやすい』服装に着替える必要がある。私は少し考えて、中央棟の制服に着替えることにした。

 手早く着替えを済ますと、今度はクローゼットの奥から、旅行鞄を引っぱり出した。


(たしかこの中に、携帯用の提灯をいくつか入れておいたはず……)


 実家を出る前に両親から、王都でお世話になる人にお土産として配れるようにと、無理やり持たされた。携帯用だから小さく折りたためて、それほど嵩張らないが、ひとり旅でなるべく荷物を減らしたい私は、ありがた迷惑に思ったものだ。


(まさか、こんな風に役に立つとは思わなかったな)


 携帯用の提灯は全部で五つ。しまう場所に困って、旅行鞄に入れっぱなしだった。念のため一緒に持ってきた、提灯用の魚油一瓶も入ってる。

 あとニンニクが必要だが、厨房で頼めば分けてもらえるはずだ。これまでも数度、自炊するからと調味料やあまっている食材を分けてもらったことがあるから、たぶん問題ないだろう。


(あとは、黒い布だけど……どこかにないかなあ……?)


 部屋の中をウロウロ探し回っていたら、ふと視界の端に、先ほど脱ぎ捨てた夜会用のドレスが飛びこんできた。

 白いレースが重ねられた優雅なデザインで、そのレース部分をめくると、厚手の素材でできた深緑色のスカートがのぞく。このスカートの部分を、薄いレースが覆うことで、全体的に淡い緑色のグラデーションに見える工夫が凝らされている。


(黒じゃないけれど、このくらい濃い緑色なら、黒い布の代わりになりそう……)


 しかし、これは借り物のドレスだ。しこも、かなり高価なのは間違いない……私の月給の何ヶ月分だろう。


(……後で一生懸命働いて、弁償するか)


 もったいなくて胸が痛むけど、有事なのだから仕方ない。私は決心してハサミを手に取ると、思いきってドレスに刃を入れた。






 王宮には通いの従業員も多い為、街と王宮を結ぶ乗合馬車の定期便が出ている。

 私はどうにか、その最終便に乗ることができた。


「あら、お疲れ様。あなたも残業だったの」


 席に着くと、隣に座る清掃員の女性に声をかけられた。私と同じ制服姿をなので、クリスティンさんの元で働いている人なのだろう。


「はい、南棟のパーティー準備のお手伝いをしてまして」

「ああ、夜会があったものね。私は中央棟のゲストルームの準備だったの。今夜は泊まり客が多いから、時間かかっちゃったわ」

「それは大変でしたね」

「お互い様よ。だいたい夜会とか舞踏会とか、多すぎるのよね……前はこんなじゃなかったのに」

「えっ、そうなんですか?」


 女性は大きくため息をついた。


「ここ数ヶ月かしら、以前の倍以上開かれてるわよ。なんでもレードル卿が復帰されてから、特にひどくなったと噂よ」


 聞き覚えのある名前だ。


(そうだ、たしか宰相様の名前が、そんなやつじゃなかったっけ。え、宰相様が?)


「ええと、私まだ王宮に来て日が浅いのでよく知らないんですけど、レードル卿が復帰とは……?」

「ああ、長いことご病気で、つい最近まで出仕されてなかったのよ。それが回復された途端、王宮でパーティー三昧ですもの。私たちが病気になっちゃうわ」


 あの宰相様がパーティー好きとか、まったくイメージが沸かない。それに夜会だなんだで、激務に追われて寝不足な王子を見て、あんなに心配そうにしてたのに……まさかあれは演技?


(それは、あり得ないでしょ)


 キッパリ否定できる程度には、私は宰相様を信頼し始めていた。向こうが私のことをどう思ってるなんて、知らないけど。

 そんなことを話していたら、馬車が中央広場に到着した。そこで女性とは別れたけど、先ほどの会話で少しモヤモヤしていた。変な誤解があるようだから、後でちゃんと事実関係を確認して、宰相様の悪評が立たないようフォローを入れておかなくては。


(さてと……次は長距離馬車か。どこか開いている店に入って、呼んでもらえるか聞いてみよう)


 運よく、広場の向かいのレストランが開いていた。


「いらっしゃいませ」


 暗い場所から突然、明るい店内に入って、私は目を瞬いた。少し高級な店らしく、出迎えてくれた接客係の男性は、黒いフォーマルな服装をしてる。一瞬怪訝な表情を向けられたけど、私の姿を確認して、笑顔を向けてくれた。


「王宮にお勤めの方ですね。本日もお疲れ様です」

「あ、どうも……」


 私は恐縮しつつも、できるだけ丁寧にお願いを口にした。


「あの、長距離を走れる馬車を呼んでいただきたいのですが」

「お食事されてない場合は、手数料がかかりますけどよろしいでしょうか」


 接客係の男性は躊躇いがちにそう言って肩をすくめた。


「構いません。できるだけ早くお願いします」


 少しくらい手数料がかかっても、外でウロウロしながら通り過ぎる馬車を捕まえるより効率がいい。それに馬車の停留所も知らないし、むやみに歩き回るにはこの町は不案内すぎる。


(なんせ王都に到着して、すぐに王宮に連れて行かれたからなあ)


 馬車を待つ間、昨日ルイーズ様と街に出かけたことを振り返っていた。ドレスの店とカフェへ連行された後、『約束通り街を案内する』と言い張るルイーズ様をなんとか説きふせて、急ぎ王宮に戻った。

 王宮に戻ってすぐに、ノーラさんとクリスティンさんに仕事の途中で中座したことをあやまると、ルイーズ様が代わりのメイドさんを手配してくれたから心配いらない、と言われた。


 そう、ルイーズ様は人一倍、責任感が強い方だ。だから、自分の国が魔物に襲われて、戦況が悪いと聞いてしまったら、居ても立っても居られないはずだ。


(でも、このままじゃルイーズ様が倒れちゃうよ……)


 早く馬車が来ないだろうかと、入り口近くのテーブルでじっと外の様子をうかがっていたら、目の前に湯気の立つカップが置かれた。


「え……頼んでませんけど」

「後で王宮に請求しますので、構いませんよ」


 接客係の男性は、冗談ぽく笑っている。私はお礼を言って、ありがたくいただくことにした。そして頼んだ馬車がやってくると、男性は「お茶をご注文されたので」と、最後まで手数料を受け取ることを拒んだ。


(次のお休みの時に、改めてお礼に来よう)


 私は急いで馬車に乗りこむと、さっそく御者のおじさんに行先を告げた。すると御者は驚いた様子で振り返った。


「……え、南西の国境までだって? ここからだと、飛ばしても二時間はかかるよ?」

「一時間半で着くよう、頑張ってもらえませんか。馬車代多めに払いますから」

「南西の国境で森の近くってことは、ナイラの村へ行くんだね。家族でもいるのかい」

「ええと、家族というか……大事な人が」


 すると馬車の御者は『ようし、おっちゃんに任せとけ』とノリよく応じてくれた。


「恋人がいるんじゃ、そりゃ急いでかけつけたいよなあ」

「……」


 新たな誤解が生まれたが、なんとか急いでもらいたい私は、黙って受け流すことにした。

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