1話
意識がもうろうとしている。
やっとの思いで起き上がると、がやがやとした室内にはタバコの煙とアルコールのにおいが漂っていた。
ハァーっと息を吐くと、自分の息もアルコール臭かった。
……おかしい。俺はまだ高校生で、酒には興味も縁もなく、飲んだ記憶もない。
「おい、しっかりしろよ宏和。」
そう言われるのと同時に、俺は頭をわしづかみにされ、ゆすられる。
声の主は目の前にいる、はげかかった中年男性らしかった。
……だれだこのおっさん。でも、どことなく見たことのある顔だ。
「……あんた誰。」
俺は隣でタバコを吸いはじめた中年男性に尋ねる。
「あぁ?お前どうしたんだよ。飲みすぎか?」
「俺が酒飲んだわけねえだろ!まだ高校生だぞ?」
「でもお前、酒くせえぞ。」
そう言った俺の隣にいる中年男性は煙を吐きながらこう言った。
「そうか、わかった。お前はこの同窓会で高校時代が懐かしくなって、夢を見てたんだ。」
「同窓会?」
「まだ寝ぼけてんのかお前。いいか、お前は飯田宏和。38歳、会社員独身。んで、俺は高橋信行。高校の同級生だろ、大学ん時以来会ってねえけど。どうだ、思い出したか?」
確かに信行は俺の友達だ。だが、俺も信行もちろんまだ高校生のはずだ。
…そうか。これは夢か。そう気づいた俺は一所懸命に目を覚まそうとする。
ふと周りを見渡すと数十名の中年の男女が座敷に座り込んで、酒を飲んでいる。
いや、ここどこだよ。
そう思い立ち上がると、体が重かった。
アルコールのせいではない。物理的に重いのだ。
ついよろめき、再び元の場所に座り込む。
「そういえば今日、由紀子ちゃん来れなくて残念だねぇ。」
目の前にいた女性が話しかけてきた。
「あ、私覚えてる?米川真知子。20年ぶりだねぇ。」
もちろん真知子の事は覚えている。家が近所で、ちなみにおととい会ったばかりだ。
「なあ、由紀子って、誰。」
聞きなれない名前だったので、尋ねてみる。
「ハァ?お前ホントどうしたんだ?ほら、堀由紀子だよ。高2の秋に転校してきた。」
「高2の秋って、今俺高2の夏のはずだぞ。何で知ってんだよ。」
「お前はいつまで夢の話してんだ。」
「そういえば飯田君、高校のとき由紀ちゃんと付き合ってたよね。どうなったの?」
「あぁ?真知子、お前知らなかったのか。こいつ大学入ってから振られてさ、そん時ぁ大変だったんだよ。俺んち来てさあ。」
マジか。夢とはいえ、聞き捨てならない。
「おい、それってどういう…」
ピリリリリリリリリリリリリリリリ……
俺は無慈悲にも響き渡る携帯の目覚ましで目を覚ます。
まあ、由紀子とかいうのもどうせただの夢だ。知る必要もなかっただろう。
……今日は8月31日。俺はそんな夢の事よりも、溜めこんだ宿題の事を思い出し、ため息をついた。
最後までお読み頂き有難うございました。
不定期な連載になると思うのですが、これからもよろしくお願い致します。