才色兼備、元カレを作る
5月某日、土曜日。
綾音と三条の約束の日がきてしまっていた。
事前に綾音と三条は週末とあやふやになっていた日を土曜日に決め、駅前に12時集合と決めていた。
結局、実咲は弟の看病で来ることは出来ずその代わりに優人の姉、潤が来てくれることになった。
男物の服や靴などは優人がいたため幸いにも揃わせることができ、潤自身も仕事の関係でウィッグなどを持っていたため長髪を短髪にみせる事ができた。
そして、綾音は優人の付き添いと言う事で潤に会いにお店に足げに通い、細かい設定なんかを練って準備を万全にしその日を迎えた。
足げに通うため優人と放課後帰るため強引に付き添いを申し出た綾音を川上が全力で止めたり芽衣が全力で勘違いしたりといろいろあったがなんとかすることができた。
時間は11時。
待ち合わせの一時間前に駅前の近くにある喫茶店に綾音と優人と潤は3人で入っていた。
それぞれ好みの飲み物を頼み最後の確認事項なんかをお互いに確認しあっていた。
「それじゃあ、初デートはここの近くにある遊園他ってことでいいね?」
潤はメモを取ってある紙を見ながら綾音に確認をした。
「はい!それでお願いします。その時のエピソードなんかも読んでいただけました?」
「あぁ、これね。うん。大丈夫。」
潤は少し引き気味にこたえた。
そんな潤を見て優人も綾音の書いたメモを横から覗き込んだ。
「うわ…。なんだこれ…。」
優人はメモを見てあまりの内容に思わず声がこぼれた。
その理由は、綾音の書いた設定エピソードがいかにも少女漫画に出てきそうなありがちの初デートの内容だったからだ。
(いやいや、綾音ちゃん…。初デートでこりゃ無いでしょ…。この設定だと私、やたらと綾音ちゃんの頭撫でまくってるし…。)
潤はこの綾音の作ったメモを読んでいて、いくつものツッコミを心の中で入れていた。
「綾音ちゃんってさぁ、今まで付き合った子とか好きだった子とかいたりしたのかな?」
綾音を傷つけないよう、潤は慎重に綾音に聞いた。
「お恥ずかしながらすいません。いなかったです。」
綾音は頬を赤らめ恥ずかしながらいった。
普段はクールな綾音が照れるとその威力は凄まじいものでその姿を見ながら潤は彼氏がいなかった事が不思議でしょうがなかった。
「なんで?今まで結構言い寄られたりしてきたでしょ?その容姿なら…。」
「いやぁ、それどころでは無かったというかそっちに興味がいかなかったとゆうか…。」
綾音は煮え切らない答え方をした。
それもそのはず、綾音はリアルの男共なんかよりも少女漫画を読むことの方が重要で漫画の中で綾音は恋をしていたからだった。
「なんか、あんまりいい人が現れなかったんですよね。」
「綾音ちゃんって結構ハードル高いんだね。」
「それで、恋愛経験がない会長がこの設定だけでいかにも遊んでそうな三条を騙せるの?姉貴の男装はたぶんそうそうは見破れ無いだろうからそっちの方が重要じゃない?」
潤の男装は誰から見ても完璧でイケメンの男にしか見えなかった。
それに騙すのは三条で、三条はそこまで頭がいい方ではなかったため優人は今重要なのは潤ではなく綾音の恋愛経験の無さだとふんだ。
「綾音ちゃんには悪いけど私も優人に一理あると思うかもしれない…。」
潤は申し訳なさそうに優人に賛同した。
綾音は2人からそう言われてたが本当のことで本人も自覚していることなのでそこまで傷つくことはなく冷静に答えた。
「確かにお2人の言うとおり、私の経験のなさがネックになってしまうかもしれません。でも、どうしましょう?今更経験なんて詰めませんし…。」
「じゃあ、こうしよう!綾音ちゃんのこの設定はこのままでいいよ。でも、今日1日乗り切ればいいだけだからそこまでこの設定について自分達から答えていくのはやめよう?聞かれたことだけ答える形にしよう。答えにくい部分なんかは恥ずかしとか理由をつけてはぐらかして具体的にしていくことだけは避けよう。」
潤は今日一日、三条達を欺けばいいと知っていたため、このような打開案を出した。
「そうですね。潤さんに従います。」
綾音は素直に首を縦に振り賛同した。
優人は作戦が上手くまとまり問題が解決したため集中を解き、頼んだカフェオレを1口飲み、肘をつきながら店の外を見た。
「おい…。あれって…。」
優人は窓の外を見るなり驚きながら外を指さした。
綾音と潤は優人の言葉と外をさす指に反応し、優人の見る方向を見た。
「え?なんで?」
「あらら〜。」
綾音と潤は違うテンションで驚きを口にした。
そこには、待ち合わせのまだ三十分前だと言うのに駅前にいる三条達と何故か足立 健人がその場にいた。
健人は必死に三条達に話かけているが三条達は面倒くさそうにまったく相手にしていなかったのが綾音達の所からもよく見えた。
「あいつ…。何してんだ。」
「三条さん達、来たとしても遅れてくると思ってました。」
「あいつら見た目チャラいけどそゆとこ意外と律儀らしいな。クラスの男子達は三条のことそんなふうに言ってたぞ。」
「へぇ〜。あれが三条さんね。確かにギャルっぽいけどそこまでケバケバしてないしあれナチュラルメイクだと思う。かなり時間かけて凝ってるわね。」
潤は三条のメイクを見て感心していたが優人は何故三条のメイクがそこまで凄いものなのかよく理解出来ていなかった。
「ナチュラルメイクって自然にみせるメイクだからあんまし化粧とかしないんじゃねぇの?時間かかんねぇだろ。」
「ハァ、これだから男は…。」
「優人さん…。それはあまりにも女性に失礼ですしオシャレを知らなすぎです…。」
潤は優人の鈍感さにため息をし、綾音は少し説教をするように優人に言った。
「いいですか?ナチュラルメイクって言うのは自然にみせるためにナチュラルに、光や影をうまく使って薄くメイクをするんです。スッピンに近いようですがかなりのテクニックと時間がかかるんですよ?手抜きメイクみたいに言ったら失礼です。」
「ごめん。そんな深いものだとは知らなかった。」
綾音の圧力に押され、優人は謝罪した。
「アンタはもっと女の子を知った方がいいわね。そうゆうデリカシーがないとモテないわよ。」
「それより、綾音ちゃん。健人君だったかしら?こっちに向かって手を振ってるわよ。」
潤は話が脱線したあたりで健人がこちらに気づき手を振っていることに気づいていた。
「三条さん達にもバレてしまってますね。行きましょうか…。」
まだ待ち合わせの時間まで時間はあったが綾音達は自分の荷物を持ちレジへ向かった。
「おっせーよ!優人!!」
健人は喫茶店から出てこちらへ歩いてきた優人達に向かって言った。
「いや、なんでお前いんだよ。三条が呼んだの?」
「呼んでない呼んでない。ここで待ってたら絡まれちった。」
「あぁ、なるほど。健人、お前帰れ。」
事情を知った優人は邪魔者をあしらうように手を払い健人に帰るよう言った。
「え?酷くね?俺も参加したい!!女子と男子の比率あってないしイイじゃん〜。」
「駄目、途中でお前以外の男拾うから別に男は足りてる。」
「ウチらも間に合ってま~す。」
三条達と優人は寄ってたかって健人を帰そうとした。
そこで、綾音はひとつ思いついた。
(ちょっと待てよ…。足立さんはさっきから三条さんにもうアピールしてるし、このまましつこくアピールするならこの後、上手く使えるかもしれない。)
「待ってください、皆さん。せっかくですから足立さんも連れていきましょ?流石に可哀想です。」
「え?」
綾音の申し出に優人は思わず声が漏れ、三条達もおどいた表情をしていた。
「ありがどぉ〜。」
健人は綾音をまるで女神かのように拝みながらお礼を口にした。
「いいのか…?健人いると余計にややこしくなるぞ?」
優人は誰にも聞かれないよう綾音に耳打ちをした。
「大丈夫です…。おそらく足立さんは三条さんに付きまとって私達のアシストをしてくれるはずです。」
綾音は健人を見てそう断言した。
しかし健人は綾音の予想外にも三条の連れてきた他の子に話しかけ始めた。
「ねぇねぇ!君って彼氏いたりするの?友達からでいいからLINE交換しよーよー。」
「え?アタシ?ごめんキープしてる男の人たくさんいるから間に合ってるわ…。」
「オーケー、オーケー。じゃあ何番目でいいから!!」
「健人…。お前必死過ぎ。」
健人の必死さに優人は少し可哀想に思えた。
「てか、不味くないか?会長の予想は大きく外れたわけだけど…。」
「大丈夫です。想定の範囲内です。」
綾音の明らか引きつっている表情をみて優人は思惑が外れたことがわかったが下手なことは言わないようにした。
「三条さん。あらためましてこんにちは。今日はいつもよりも化粧は控えめなんですね?今の三条さんもかなり素敵ですよ!」
綾音は三条に微笑みかけながら挨拶をした。
「オッス〜、流石は会長だね!メイクの腕あげるためにいろいろやってんだ〜。」
三条は綾音に褒められ嬉しそうにしていた。
「それで、会長の元カレっていうのは私達と同級生の金城 優人ってことでいいんでしょ?」
「え?」
「いや。」
三条の言葉に綾音と優人は驚きながら否定をしようとした。
「だってぇ〜この場に男子ってそれ以外いなくね?会長さんの後ろにいる人って女でしょ?なんで男装してるかわからないけど。お仕事の帰りかなんか?」
三条の鋭さに綾音と優人、そしてまだ一言も発してない潤はおどろきを隠せなかった。
「え?ちょ、どしたの?そんな目ん玉飛び出るような顔して。流石にわかるでしょ、男装しててもそれが女か男かなんて…。」
「うっそ〜、イケメンの男にしか見えなかった〜。雪凄すぎ。」
「流石、スタイリスト本気で目指してる人は違うね!」
綾音達は練ってきた作戦が根本的から崩れ、しばらく放心状態だったが、このままではマズイと思い綾音はスグに作戦を変更した。
「そうそう、こちらは優人さんのおねぇさまでモデルやってらっしゃるんです。今日は面白企画かなんかで男装をやるらしくてこうゆう格好をしてたんですよ。」
「へぇ〜。でもホントすごいね…。たぶんわかんない人には全然わかんないと思うよ。」
三条は素直に感心しながら潤をじろじろ観察した。
「いつも、優人がお世話になってます。これからもよろしくね?」
潤はバレてしまっているのでいつもの口調で答えた。
「いえいえ、もしモデルやっててスタイリストとかつかなかったりした時は呼んでください!絶対に後悔させないんで。」
三条は潤がモデルをやっているというのを聞いて、スタイリストになりたい自分を売り込んだ。
「はい!今度お願いしますね?」
「こちらこそ!頑張ります。」
三条は潤との話を切り上げ再び綾音のほうに振り返った。
「それで、いつ付き合ってたの?金城弟と。」
「え〜と。入学したての頃かな?」
綾音はテキトウにぼんやりと答えた。
「ふ〜ん。学校一の美男 美女が付き合ってよく広まんなかったね。」
三条は疑ってはいなかったが少し引っかかるようなしっくりこない感じを出していた。
(ヤバイ。このままじゃスグにボロが出てバレる…。)
「会長さん。このままじゃ…。」
「ええ。とりあえず場所を移しましょ。」
優人と綾音は小声でやり取りをした。
「三条さん。ここじゃあれだからどっかお店入りません?」
「そだね〜。もっとゆっくりした所でいろいろ聞きたいし。」
三条はそう言いながら何故か潤の方にも視線を向け、潤にもなにか聞きたいことがある様子だった。
「それじゃあ、さっき私達が使ってた喫茶店にでもとりあえず入りましょうか…。」
「了解。」
そういって綾音は三条達を率い喫茶店に向かった。
(マズイ。なんとかせねば…。とりあえず、優人さんと2人きりになって話を合わせないと。)
そう思いながら優人に目をやった。
そんな思いをくみ取ったのか優人は綾音に頷いた。