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フューネラル  作者: 浦登 みっひ
『迷える魔女にくちづけを』 作者:小刈ダイア ジャンル:ハイファンタジー 
9/49

そしてセレニア王国へ

 私達は早速、町の南側の街道にやってきました。


「なんか勢いでここまで来ちゃいましたけど、そんなにうまいこと盗賊さんが現れるものですかね?」

「これしか方法がないんだから、現れることを願うしかないだろ。っつか、なんでついてきた?」

「どさくさに紛れてラーズさんに逃げられたらここまで来た意味がなくなっちゃうじゃないですか」


 本当はラーズさん一人じゃ不安だったからなのですが、彼のプライドを慮って嘘をついておきました。これでも気を使っているんですよ。


「足手まといにならないようにしろよ」


 南の街道は針葉樹林の中を縫うように敷かれた細い道で、視界が悪く、たしかに盗賊に狙われやすそうな場所でした。潜みやすく逃げやすい、そんな環境。でもさすがにいきなり賊が出てくるなんてことは……。


「おい、そこの兄ちゃんたち」


 ありました。


 前方の木陰から姿を現したのは、筋骨隆々とした体躯に蓬髪を振り乱し、ぎょろりと殺気立った目でこちらを見下ろす、いかにも悪党ヅラの大男でした。


「この辺じゃ見ねえツラだな。余所者か? まあ俺のことを知らねえってんなら余所者に違いねえ。誰も教えてくれなかったんだとしたら、気の毒なこった……」


 まだこちらが一言も発していないのに、見かけによらずおしゃべりな悪党のようです。


「俺達はペルシーダの町の食堂でこの街道に出る盗賊の貼り紙を見てここまで来たんだ。あんたがその盗賊か?」


 ラーズさんが言うと、その悪党は一転して高笑いをし始めました。


「ガッハッハ、なんだ知ってるんじゃねえか。ならどうしてわざわざここへ来た?」

「決まってるだろ、あんたを倒して金を稼ぐためさ」

「……クックックッ……聞いたか、おい」


 大男が手をかざすと、いつの間に回り込まれていたのか、私達の背後の木陰から二人の男が音もなく姿を現しました。こちらは中肉中背で、見るからに子分という雰囲気です。


「子分どもが『かわいい娘が迷い込んだ』と言うから来てみりゃ、随分おかしなことを言う兄ちゃんがついてきたじゃねえか。おもしれえ……」


 大男は腰に下げた大剣を抜き放ちました。ラーズさんも背中の大剣を構え、臨戦態勢に入ります。


「サフィアは下がってろ!」

「えっ? あ、はい!」

「さあ、かかってこいよブ男! お前を倒して500000Gゲットだぜ!」


「その減らず口を叩き潰してやるわ!」


 長剣を軽々と振り上げて、500000男はラーズさんに襲いかかってきました。振り下ろされた一撃をラーズさんは大剣で受け止め、一進一退の鍔迫り合いが始まります。

 いざ剣を交えてみると、500000男の剣はラーズさんの大剣と同じぐらい刀身が長いのですが、それが小さく見えてしまうほどに大男の体格は桁違いの大きさでした。互角に見えていた鍔迫り合いも、500000男の圧倒的膂力の前に、じりじりとラーズさんが押され始めます。


「ふはははは、兄ちゃん、さっきまでの減らず口はどこへ行った?」

「まだまだ!」


 その時、ラーズさんが柄の部分を何か操作したのが私にははっきり見えました。すると次の瞬間、ラーズさんの幅広の大剣は中央から真っ二つに割れてしまったのです。……って、ちょっと、妙なカラクリなんか仕込むから簡単に壊れちゃったのでは?


 とツッこもうとしたところで、ラーズさんは素早く大剣の片割れを左手に持ち替えて、500000男のがら空きの脇腹目掛けて突き出しました。


「500000頂き!」

「ぬうっ!」


 異変を感じた大男は素早く身をかわします。しかし、その脇腹には確かに一筋の傷がつけられていました。


「ちっ……カラクリ武器か! 小癪な真似を……」


 そうです、ラーズさんは二つに割れた大剣を両手に持ち、二刀流になっていたのです。


「仕留め損ねたか……さすがにやるな、500000G男」


 とても勇者とは思えない、悪役みたいな台詞がラーズさんから飛び出しました。まあ、かくいう私も、相手がお金にしか見えていないんですけども。


「まだまだこれからよ……へへへ」


 すると500000男は、戦いの行方を見守っていた二人の子分に目配せを送ります。二人の子分はニヤニヤといやらしい笑いを浮かべながら私の方へにじり寄って来ました。


「へへ、悪く思うなよ嬢ちゃん、元はと言えばこんなとこに来て親分に喧嘩を売ったあんたの彼氏が悪いんだぜ」

「ちょっと! ラーズさんは彼氏じゃありませんよ! 私は聖職者ですから!」


 全力で否定したのですが、彼らは破れたローブから覗く私の脚に釘付けで、私の話なんて聞いちゃいません。


「サフィア! 逃げろ!」

「おおっと! お前の相手はこっちだぜ!」


 私に気をとられた一瞬の隙をついて、500000男がラーズさんに襲いかかります。不意を突かれたラーズさんは二本の剣をクロスさせて相手の斬撃を受け止めましたが、勢いに負けてそのまま押し倒されてしまいました。それとほぼ同時に、二人の子分も左右から私に飛びかかってきます。

 私の脚しか見ていない子分たちは頭部のガードががら空き。随分なめられたものです。

 私はまず右からやってきた子分の頭部にハイキックを叩き込みました。


「う……?」


 ノーガードで側頭部にクリーンヒットしたハイキック。子分(右)は、おそらく何が起こったのかもわからないまま気を失い、その場に崩れ落ちました。


「なっ……!?」


 それを見ていた子分(左)は、すんでのところで立ち止まりましたが、自ら勢いを殺したため中腰の不安定な姿勢に。もちろんこの隙を見逃すわけがありません。


「えいっ!」


 相手の頭部を押さえこんで強烈な膝蹴りを顔面にお見舞いすると、子分(左)はそのまま意識を失い、地面に倒れ込みました。私をただの女だと思ったのが運の尽きでしたね。


 ラーズさんはと見ると、まだ500000男に押さえ込まれています。押し返すどころか、むしろそのパワーに押されて絶体絶命の状況でした。私は素早く駆け寄り、


「はあああっ!」


 と気合いを入れて、500000男の頭部に右脚で全力の蹴りを叩き込みました。私の掛け声を聞いて男は一瞬顔を上げましたが、時既に遅し。


 バキャッ


 ものすごい音と共に、男の頭部が揺らぎます。

 男はそのまま白眼を剥いて、ゆっくりと倒れていきました。


「ラーズさん、大丈夫ですか?」


 ラーズさんは仰向けになったまま、気まずそうな表情をしています。


「サフィア……すまん……」

「いいんですよ、困った時はお互い様です」


 ラーズさんは私の手を取って立ち上がりました。でも、目的の500000男を倒したのに、ラーズさんの表情は曇ったままです。


「すまん……見えた……」

「え?」


 見えた?


「サフィアが蹴りを入れた時……その……ローブの中身が……」


 私が500000男の頭部にキックを放った瞬間、押し倒されていたラーズさんは私の足元で仰向けになっていました。キックを放った私のローブはひらりと捲れて……。


「きゃああああ! ラーズさんの変態! スケベ! ロリコン!」


 私は無意識のうちに、ラーズさんの顔面に全力の正拳突きをぶちこんでいました。






 それから私は三人の盗賊を、彼らが持っていたロープで縛り、木にくくり付けて町に戻りました。町の住民にその旨を伝えると、住民たちは大喜び。私達は町の広場へ案内され、わざわざ町長がやってきて感謝の言葉を述べられました。周りには続々とペルシーダの住民が集まってきます。


「いや〜あ、本当に助かりました。あの盗賊どもには相当やられていてね」


 小太りで赤ら顔の町長が謝意を述べると、周囲の住民からもワッと歓声が上がります。


「いえ、全てはこの、勇者ラーズさんのお手柄ですから」

「ええ、私も先程伺いました。そちらが、魔女を退治された、あの……?」


 町長は、私に背負われたまま未だ目を覚まさずにいるラーズさんの顔を見ます。


「はい、今は疲れて少し眠っていますけれど、ええ、すごかったんですよ、戦いぶりが……」


 実は全員やっつけたのは私なんです、とは口が裂けても言えません。どこまでもラーズさんの顔を立てる私です。


「ほう、では今夜はこの町の宿屋を一部屋無料でご提供いたしましょう。ゆっくりと戦いの疲れを癒していってください」

「あ、あの……」


 私達が戦ったのは、もちろん人助けの一環ではありますけれど、懸賞金が欲しかったからなのです。


「非常に申し上げにくいのですけれど、懸賞金の方は……」

「おお、おお、私としたことが、すっかり忘れておりました。500000Gでしたな。すぐに届けさせますので、ご安心ください」


よっしゃ! 500000G、ゲットだぜ!



 宿屋に移動し、用意された部屋に到着すると、そこは二人部屋でした。きっと気を使ってくれたのでしょう。まあ、私は特に気にしないんですけどね。ラーズさんをベッドに寝かせてのんびり外の景色を眺めていると、程なくしてラーズさんが目を覚ましました。


「ん……」

「あ、ラーズさん。ほら、ちゃんと貰えましたよ、500000G」


 ラーズさんが目を覚ますより先に、懸賞金の500000Gが部屋に届けられていました。貧乏シスターの私には見たこともないような大量の金貨です。金貨の入った袋をじゃらじゃらと鳴らしてみせると、寝ぼけ眼のラーズさんもうっすらと微笑みました。


「おお……よかった」

「やっぱり私がいなきゃダメですね、ラーズさんは」

「けっ……俺一人ならあんな小悪党に不覚を取ることはなかった」

「またそうやって強がる」

「……ありがとう」

「えっ?」

「ありがとうって言ってるんだよ」


 それはとてもぶっきらぼうな言い方ではありましたけれど、だからこそ、私にはとても心がこもっているように感じられました。胸の奥の方にじんわりと、温かいものが広がっていきます。


「どういたしまして。私は足手まといなんかにならないって、わかってもらえました?」

「ああ……でも、お前はどうも向こう見ずなところがある」

「……それ、ラーズさんにだけは言われたくないんですけど」

「俺のことはいいんだよ。お前はもっと自分の身を大事にした方がいい……明日、ちゃんとした動きやすい服を買ってやるからな」


 まるで500000Gもの大金を一人で稼いだみたいな言い草でしたけれど、まあ、不器用なラーズさんから感謝の言葉も頂けたことですし、許してやりましょう。


 ラーズさんはそれからすぐにまた眠ってしまい、まだ夕方だというのに、そのまま朝まで目覚めることはありませんでした。きっと、昨夜私にテントを譲ったためによく眠れなかったのでしょう。いえ、もしかしたらずっと起きていたのかもしれません。


 昨日の今頃は、まだロードグラムの王城にいた時間です。二人でご馳走を食べていたころでしょうか。

 あのナントカ大臣、もとい財務大臣はとっても嫌なやつでしたが、もしあの人が私をラーズさんに同行させるよう提案しなかったら、私は今も宿舎の自分の部屋で、一人膝を抱えていたかもしれません。そう考えると、縁とは本当に不思議なものだと思えます。もしあの提案がなくても、私はラーズさんを追いかけていたでしょうか……いえ、無理です。何事にも理由はあるし、理由が必要なのですから。


 考えごとにも疲れてしまった私は、夜になるとすぐに眠ってしまいました。


 二人部屋の私たちに何かの間違いが起こることもなく。




 翌朝、昨日の雑貨屋で無事にテントを買い終えたあと、私達は洋服店に向かいました。


「動きやすい服装ってどんなのでしょう……私、子供の頃はボロきれみたいなものしか与えられなかったし、大司教さまに拾われてからはローブしか着たことないんですよね」

「へえ……年頃なのにな」

「お金もありませんでしたし。ちょっとスカートも履いてみたいなあ」

「ダメだ。せめて皮のズボンにしろ」

「ええぇ、せっかくたくさんお金があるんだから、もっとかわいいのが欲しいです」

「ちゃんと身を守れるものでなきゃダメだ」

「はぁい」


 ラーズさんを店の外で待たせて、私一人でお買い物。ラーズさんは皮のズボンと言ってたけど、皮のズボンだと動きにくそうだしなぁ。それに、せっかくだから大胆にイメージチェンジしてみたい。というわけで、私が選んだのは……。


「ラーズさん、どうですか? これなら私も冒険者って感じしません?」


 新しい衣装を身につけた私は、ラーズさんの前でくるりと回って見せました。どんな反応を見せるかな?


「……ちょっと、露出多すぎないか?」


 私が選んだ衣装は、レザーのショートパンツに白いシャツ、その上にレザーのジャケット。ブーツもこれまたレザーブーツです。邪魔にならないように、長い髪も後ろでまとめてポニーテールにしてみました。


「言われた通りちゃんと皮にしたじゃないですか!」


 まあ、あんまり身は守れないですけど。


「脚が出すぎじゃないか……見てるだけで寒そうだ」

「大丈夫ですよ。これからセレニア王国に行くんでしょう? シノンよりはかなり暖かいそうじゃないですか」


 なんか、思春期の娘を持つ父親みたいなことを言いますね、ラーズさんは。


 最初は少し難色を示していたラーズさんでしたが、私の強い意思に根負けしたのか、最終的には認めてくれました。まあ、お金を稼いだのは私ですもんね。実はこの他に、こっそりもう一着かわいい服も買ったのですが、これを着る機会はあるかしら……。乞うご期待です。


 洋服店を出ると、ラーズさんは私を防具店に連れてきました。


「服はそれでいいから、少しは防具もつけろ」

「ええ、防具ですかあ」

「万が一のこともある。胸当てとすね当てとグローブぐらいは着けなきゃだめだ」


 と、半ば強引に防具を選ばされ、心臓のあたりを防護する鉄の胸当てとすね当て、拳と前腕の部分を鉄で補強してある皮のグローブが新たな装備として追加されました。


「よし、まあ、これでいいだろう」


 どこから見ても格闘家みたいになった私の姿を見て、ラーズさんは満足そうに頷いています。なんか、そういう反応が欲しかったわけじゃないんだけど。


「これ、似合ってます?」

「え? ああ、うん……ローブよりはだいぶ防御力が上がってるし、いいんじゃないかな」

「そういうことじゃなくて……」

「……なんだよ」


 なんか一言ぐらい褒めてくれてもいいじゃないですか、と言いかけて、それをぐっと飲み込みました。私はラーズさんに何を求めているんだろう。私達はただ一緒に旅をしているだけ。しかも、国王からの指示があったとはいえ、私の方から一方的に押し掛けてついてきたに過ぎないのです。

 この胸当てだって、ラーズさんなりの気遣いなのでしょう。私の安全を思って。


「なんでもないです……ありがとうございます」

「?? ……まあいいか。準備ができたらすぐに出立するぞ。いざ、セレニア王国へ!」


 ラーズさんは意気揚々と歩き始めました。やっぱり、ほんの少しずれている私達です。




 それから数日間、私達は歩き続けました。

 テントで夜を明かしたこともありましたし、ふらりと立ち寄った町の宿屋に泊まったこともありました。セレニア王国に近づくにつれて、少しずつ気温が上がっていくのがわかります。セレニア王国はもともと温暖な気候で知られていますが、火の魔女が支配している影響でさらに暑くなっているとも聞きます。

 一度、大司教さまから手紙が届いたことがありました。シノン国内にいれば自ずと動向が伝わるのでしょう、滞在した宿屋に先回りして手紙が届けてあったのです。手紙には、ペルシーダの町での私達の武勇伝がロードグラムにも伝わったらしく、国王は大変お喜びだということ、それから私を気遣う言葉が書いてありました。

 私は嬉しくて、すぐに返事を書きました。心配することは何もありません、ラーズさんは優しくて頼れる勇者さまです(こんなところでもラーズさんの顔を立てる私)などなど。


 セレニア王国に入ってしまったら、なかなか連絡が取れなくなるでしょう。生まれてこのかたシノンを出たことのない私が、ローブを脱ぎ捨て、男の人と一緒に、魔女と戦うために隣の国へ行こうとしているのです。思い起こすと、改めて不思議な感じがします。

 ラーズさんとの生活にもここ数日でだいぶ慣れてきて、相棒とまではいかないものの、仲間とは呼べる雰囲気になってきています。ペルシーダを出てからはこれといったトラブルに見舞われることもなく、私達はシノンとセレニア王国の国境までたどり着きました。


 そこにあったのは、無人となりすっかり荒れ果てた砦でした。


 軍事大国だったセレニア王国は、常に国境に多数の兵を配置していたと聞きます。ただ、土地が貧しい小国であるシノンはほとんど相手にされていなかったので、もともと配備されていた兵が少なかったのかもしれません。しかし、それにしても無人ということはないはずです。小規模とはいえ、ここにこうして砦が存在することが何よりの証拠でしょう。このことをシノンの国王が知ったら、セレニアに侵攻すると言い出す可能性すらあるのです。魔女がセレニア王国にいなければ、ですが。


「ここまでとはな……」


 ラーズさんは目を眇めて砦を見ています。


「みんな、魔女にやられてしまったんでしょうか……」

「いや、どうだろうな。軍人だって仕事でやってるんだ。国の体制が崩れて給料が貰えなくなったら、こんな辺鄙なところにいる理由はないだろう。国が滅びるときってのは、案外こんなもんさ」


 その時のラーズさんの視線は、セレニアではない、遥か遠くを見ているように感じられました。まるで何かを懐かしむような。ラーズさんの過去……私は、ずっと聞きそびれていたあの質問をしてみようと思い立ちました。


「そういえば、ラーズさん、ティアンナって……」


「きゃあああああああ!!」


 突然、私の質問を遮るように、女性の悲鳴が辺りに響き渡りました。それに続いて、複数の野太い男の声が聞こえてきます。


「いいじゃねえかよ、減るもんじゃあるまいし」

「そうだよ、これだってお前らの仕事だろ?」

「いや! 助けて! 誰か!」


 私達は無言のまま頷き合って、声のする方へと駆けていきました。するとそこには、露出度の高い衣装を着たセクシーな女性と、その髪を掴んで引き倒そうとしている二人の男の姿が見えます。鉄の兜を被り制服のようなものを着ていることから推測すると、男の方は軍人でしょうか。

 ラーズさんは咄嗟に背中の大剣を構えて躍りかかりました。


「おいお前ら! そこでなにやってるんだ!」


 ラーズさんの姿に気付いた兵士たちは恐れおののいたようでした。兜は被っていましたが武器を持っておらず、突然の敵襲に狼狽えたのでしょう。ひい、と情けない悲鳴を上げながら、兵士たちは一目散に逃げていきます。


 私は地面に倒れ込んだ女性のもとへ駆け寄りました。踊り子でしょうか、一見すると下着に見えてしまいそうな衣装には細かい刺繍や装飾が施されていました。頭には白く短いヴェールを被り、その上に煌びやかなティアラ。中央に大きなルビーがあしらわれた、綺麗なティアラでした。セレニアほどの大国ともなると、踊り子でもこれほど豪華な宝石を身に纏えるのかもしれません。

 褐色の肌に銀色の髪。大粒のエメラルドのように輝く緑色の瞳がこちらを見返してきます。目鼻立ちがすっきりと整っていて、長い睫毛が印象的。とても綺麗な人だ、と私は思いました。

 ならず者の兵士たちを追い払ったラーズさんもこちらへ戻ってきます。踊り子さんは立ち上がり、私達に頭を下げました。


「ありがとうございます……なんとお礼を言ったらいいか……」


 その声が、思っていたよりずっと若かったのに驚きました。もっとこう、色っぽい雰囲気を想像していたものですから。


「私、フェイと言います。もしよろしかったら、近くの町まで一緒に行きませんか? ぜひ、今回のお礼をさせてください」

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