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フューネラル  作者: 浦登 みっひ
七人のアマチュア作家殺人事件
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cremate

「終わった……」


 男はしみじみと呟いて、重い木製のハンマーを床に放り出した。


 ゴン、と鈍い音が響く。床に散らばったノートパソコンとスマートフォンの破片が、振動でガチャリと音を立てた。

 それから男は、その向こうで折り重なったまま放置されている数体の骸を眺めた。殺したのは勿論彼だ。コーヒーに睡眠薬を混入して眠らせ、ナイフで心臓を一突き。皆即死だった。だが、何事にも慎重な彼は、心臓を正確に刺すということが意外に難しいものであると知っていたので、心臓を刺したのみでなく、喉をも深く切り裂いた。なるべく返り血は浴びないようにと注意してナイフを抜いたつもりだったのだが、予想以上に服が赤黒く汚れてしまった。血ってこんなに出るものか、と思った。しかしそれも、今回の計画に大きく支障をきたすものではない。


 彼は今一度室内を見渡す。血の海の中に散らばった金属とプラスチック片が、なんとなくベリー系のスイーツみたいに見えた。ヘモグロビンとアントシアニン。黒い塊はベリーの果実で……いや、これはなんてひどい連想だ、と男は苦笑する。そもそも彼は、スイーツが好きなわけではなかった。

 全てが計画通りに運んだわけではない。一つ大きなハプニングがあった。計画そのものは完璧だったはずなのに、いざ実行するとなると、なかなかうまくいかないものである。それでも彼は、この機会を逃すわけにはいかなかった。この日のために全てを準備してきたのだから。


 窓の外には一面の雪景色が広がっていて、月明かりを反射した真っ白い雪は、闇の中で淡い光を放っているようにさえ見える。まるで天然の蛍光塗料だ。

 幼い頃、天国というものが雲の上にあると信じていた時分には、空に浮かぶ雲を眺めながら、あんなに白く清らかな世界に住めたらどんなに幸せだろう、と夢想したものだった。

 地上がどんなに曇っていても、ひどい風雨だったとしても、雲の上だけは常に晴れているという。それも魅力的なポイントの一つだ。住むとしたらどの雲がいいだろう、なるべくユニークな形の雲に住んでみたい、とか。きっと当時見ていたテレビアニメの影響もあったのだろう。

 あまりに非科学的すぎて大人になった今では笑ってしまうけれど、当時の彼は真剣だった。自分で言うのもなんだが、なかなか純粋で夢のある少年だったのではないかと思う。その感性は随分摩耗して、汚れてしまったけれど。

 ここから眺める雪はメレンゲのように滑らかで、天国の風景とはこんな感じだろうか、と想像してしまう。この日のために予約した雪山の貸しコテージ。部屋の中央に設えられた石油ストーブ、その上部が、熱気のために蜃気楼のように揺らめいていた。


 彼は突然かぶりを振った。

 感傷に浸っている暇はない。この計画には最後の仕上げが残っているのだから。

 血塗れのナイフを拾い上げ、一ヶ所に積まれた死体に灯油を撒く。


 彼は呟いた。


「これは、君達八人の、盛大な火葬だ。きっとよく燃えてくれるだろう」


 ほんの僅かな逡巡ののち、彼はマッチを擦る。

色々ごちゃごちゃとタグが付いていますが、本作はミステリ風の筋立て(ミステリとは言っていない)と複数の作中作によって構成されています。


一応シリーズものではありますが、過去作を読まなくても何の問題もありません。

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