第2題 「どうか助けてください!」
ーー目が覚めた。
僕は周りの様子を確かめるべく身体を起こす。・・・が、起き上がる事ができない。何というか変な感覚なのだ。寝ているような感覚を感じるのに、実際は立っているかのような。・・・自分で言っていてよく分からない説明である。とにかくそのような感覚な為、立つ事ができなかった。
「それにしてもここはどこだろう?」
首も動かす事ができない故、まともに確認する事もできない。ただ目は開くので、正面は唯一判別できる。・・・何と表現すれば良いか分からないが。
僕の頭でひねり出た表現は“光の中”。非現実的なのが嫌いなのだが、こういった幻想的な表現しかできない。何故なら周りは白だから。一欠片の他色すらない、純粋な白色。そんな空間に僕はいたのだ。
「まさか死んだ訳じゃ無いよな・・・」
一応叔父さんの家にいたし、仏教徒の家に生まれているから、死後の世界について聞かされてはいた。だがどうもその知識とは結びつかない。限りなく近いのは極楽浄土ーー所謂天国みたいな所であるが、仏様が見当たらない。三途の川でも無さそうだし、仏教・神学に当てはまらない宗教の場所にでも着いたのだろうか。それとも何かの施設や、機械の中とか。・・・情報が少なすぎて結論が導き出せない。どう頑張っても考えが堂々巡りしてしまう。
「 ・・・・ 」
そんなスパイラルに陥っていると、何処からか変なものが聞こえてきた。はっきり聞こえないのだが、雰囲気的に日本語だろうか。もしかしたらこの状況を打破してくれるかもしれない。僕はありったけの声量を出す勢いで、その人物に向けて言葉を発した。
「おーい!誰かそこにいるのかー!?」
良かった、普通に声が出る。これなら間違いなく気付いてもらえるだろう。
「・・・あ・・・・・・み・・・た」
だが聞こえたのは予想にしないものであった。確かに声は聞こえたが、その声が電波の悪い電話の時のように聞こえてきたのだ。雑音みたいなのは混じっていないからマシではあるが、声が遠すぎてはっきり伝わらない。僕はそこをふまえつつ、もう一度声を出す。
「誰か、いるの!?よく、きこえない!!」
今度はゆっくり丁寧に、分かりやすく言葉を紡ぐ。その甲斐あったのか、暫くの沈黙の後、ある言葉が聞こえてきた。今度は幾分聞こえやすかった。・・・ただ内容が「ひゃっほい」という謎なものだったが。
ともかくこれで意思疎通はできるようになった。声を察するに女性の様だが、人物像は思い浮かべない。雰囲気的には大人な女性だが、先ほどの発言がある。一応相手に失礼が無いようにだけ気を付け、僕はその人との会話を試みた。
「私は日野本幸太朗と言います。失礼ですが、貴女は?」
すると直ぐに「神」という答えが返ってきた。・・・神?一体この人はどんな意味でそう言ったのだろうか。ふざけて言っているなら、まだ性格を疑うだけで済むが、本気で言っているのであれば精神科を紹介せざるを得ない。と言うかそんな人物に助けを求めたく無い。僕は確かめる為にも更に言葉を続けた。
「お名前を教えてもらっても良いですか?」
「エルフィア」
「ご職業は・・・」
「神」
「他に誰かいらっしゃいますか?」
「ボッチ」
・・・なんだろうこの人は。この応答で固まったイメージが、“自称神の痛いボッチな日本に来たばかりの外人の女性”って感じなのだが。こんな人に助けを求めるべきでは・・・無いよなぁ。救いは無いと諦めた。
ーーそんな時だった。突然呟いた女性の「繋がった」という言葉を聞いた瞬間、目の前があの時のように輝き始めた。だが今回は意識がはっきりしている。ただ眩しく感じるだけだ。・・・一体何が起こるのか。僕はただ正面を見て、光がおさまるのを待った。
「初めまして、幸太朗さん」
まだ物を認識できない強さであるのだが、だいたい正面から先程の女性の声が聞こえてきた。けれど少し雰囲気が違う。少し物腰が柔らかくなっている気がする。
「本来はこの様な話し方なのです。先程までは一文しか貴方に伝えることが出来なかったので・・・。本当に申し訳ありません」
僕が人物像を改めている際、唐突に女性はその様に答えた。・・・内容から察するに、僕が考えてたことに対する回答である。一言も話していないのにどういうことなのだろうか?そう思った時、またも女性は回答した。
「だって神ですから。人の考えを読むのは容易いのです」
成る程、読心術を使うのか。流石神を自称するだけの自信はある。だがその程度では、まだ痛い凄い人程度なのだが。
「む、それは酷いのです」
「そうとしか思えませんよ。・・・それより読心術はもう止めていただけないでしょうか」
自分から話をせず進んでいくので、なんとなく状況が整理し難い。それに心を読まれるのはあまり良い気はしない。それを聞いた女性は「分かりました」と申し訳なさそうに呟き、言葉を続けた。
「では普通にお話ししましょうか。まず何からーー」
「その前にまだ視界が戻らないのですが」
僕は女性の話の腰を折って言う。やはり相手の顔が見えないのは少し嫌だ。それに今どういう状況かも分からない。なので戻るまで待ってもらおうとした。
・・・そう、待ってもらおうとしたのだ。だが現実は、女性の「ああー」という声とともに“一瞬”で治ってしまったのだ。驚愕する僕を尻目に、声の主であろう金髪の綺麗な女性が自慢げな表情を浮かべていた。
「これで大丈夫ですよね」
女性はそう言うが、僕は驚きが強すぎて返事が出来なかった。
理由は二点。一つ目はいきなり視界が治ったこと。普通は段々と治っていくものであるのだが、前述した通り一瞬で戻ったのだ。彼女の一声で。
もう一点は彼女の雰囲気。美人であるし、洋風の神様のような服装をしているから、色々感じるはずなのだが・・・。簡潔に述べれば、神々しさがある。この人は神である、本当にそう納得してしまう“何か”が感じ取れるのだ。
「もしもーし」
反応がなくて心配したのか、女性ーーいや、エルフィアさんが俺の顔を見つめる。僕は簡単に返事をして、なんでもない事を伝える。すると安心したようで、胸を撫で下ろす仕草をした後、改めて僕を見た。
「改めて初めまして。私はエルフィアと申します。職業は神です!!」
「こちらも改めて、初めまして。日野本幸太朗といいます」
取り敢えず改めて自己紹介をした僕ら。神は職業なのかという疑問があるが、まぁ気にしないで進めるとしよう。それよりも聞きたい事は沢山あるし。
早速疑問をぶつけるべく僕は口を開く。だが、僕よりも早くエルフィアは声に出した。「どうか助けてください!」と。僕が唖然となる中、エルフィアは話を続けていった。
「実は私の管轄する世界がピンチでして・・・。私ではどうしようもできないので、助けを呼ぶ事にしたのです。けど中々チカラがある人がいなくて困っていたのですが、丁度貴方がいたのでお願いしたのです!勿論タダではありませんよ!!強い能力もバンバンつけるので、凄い事になれるのです。如何ですか?」
・・・如何ですかって。急に話を進められて理解不能なのだが。世界?チカラ?能力?その単語を聞くだけでも頭がいたい。これで「いい」という人はいないとーー
「あ、良いのですか!?」
「・・・は?」
「いや、今頭の中で“いい”と聞こえたので」
なんだろう、少しでも神と認めた僕が馬鹿らしく思えてきた。なんだこの自己解釈というか、せっかちな感じは。早めに訂正しないとヤバいかもしれない。僕は口を開くが、また遅かった。
「ではお願いします!限りなくチートにしておきますので!!」
「ちょ、まーー」
その瞬間、また光が僕を包んだ。
なんでもいいから話を聞けよ・・・
そう思いながら、また意識がフェードアウトした。
さて、そろそろ我が主人が来るかや?恐らく何も聞かされずここに来るじゃろうから、説明してやらんとなぁ・・・。全く、位が高い神でなければ、わっちが消し炭にしたのにの。
・・・じゃが再び実体を手に入られた。それに我が主人とも会話できる。こればかりは感謝せねば、か。
何にせよ主人を守らねば。命を救ってくれた御恩。食べ物を与えてくれた御恩。笑顔を向けてくれた御恩。きちんと終わるまで返さないと。
不安じゃが、今後が楽しみじゃーー