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第1題 僕ときつねと白い花

白い花を見つけてから数時間後。学校が終わり、僕は神社に帰って来ていた。鞄を片付け、制服から袴に着替えると、玄関先にある愛用の竹箒を持って境内の掃除を始める。・・・4月初めとはいえ、動くと結構暑いな。汗はかかなくとも、少し蒸れている感じがする。

「勉強もあるし、少し急ぐか・・・」

汗をかかない程度に、スピードを上げて掃除を進める。だからと言って適当にはしない。もちろん綺麗にしたいからもあるが、参拝者の方が意外にも多いからだ。まぁ多いと言っても4,5人程度だけど。小規模な神社にしては多いほうだろう。これも叔父さんパワーのおかげだ。

「あら、幸太朗。こんにちは」

そうして掃いている内にも、もう一人参拝者の方がいらっしゃった。僕は「こんにちは」と笑顔で答え、叔父さんがいるであろう場所を案内した。荷物を見るにお裾分けだろうか。本当に感謝しきれない。

「さて、と。急ぎ足だけど綺麗にするぞ」

そんな参拝者の為にも綺麗にしないとな。そう思いつつ掃除を進め、何とか30分くらいで表の掃除を全て終えた。少しばかり汗をかいてしまったが・・・まぁ気にする程度ではない。僕は一息つけるためにも社務所の方に向かった。

「お、幸太朗君。掃除終わったみたいだね」

すると丁度社務所前で、参拝者さんとお話ししている叔父さんを見つけた。因みにお話ししてるのは先程のお裾分けを持っていた方だ。僕は改めて挨拶をした後、叔父さんの方を向いて口を開いた。

「いえ、まだ裏の方が終わっていません。きりが良かったので一服しにきました」

「なるほどね。社務所の冷蔵庫にスポーツドリンクがあるから、それを飲んでもらって構わないよ」

「ありがとうございます」

僕はそう言ってお辞儀をし、箒を立て掛けてから、社務所の中に入っていった。広さはあまり無いが、冷暖房は完備してるし、冷蔵庫以外にテレビも置いてある。僕は冷蔵庫のドリンクをとり、適当な椅子に座った。そうしてから蓋を開け、一気に飲み物を飲む。

「ああ、美味いなぁ」

体に水分が行き渡るのを感じる。ちょっと水分とらなすぎたかな。程よい疲労感も回ってきている。・・・このままだと後が嫌になってくるだろう。座って5分経たずに立ち上がり、掃除を再開するための準備を始めた。

「あ、そういえばアレを持っていかないとな」

準備が終わって、いざ行こうとした時だ。僕はある物を忘れていることに気づいた。冷蔵庫の扉を開け、上の段に置いてあるその物を持つ。その物とは油揚げだ。僕はそれをしまわず、手に持ったまま社務所から出た。

「あれ、もう行くの?」

叔父さんは少し心配そうに言った。

「これ以上休むとだらけそうだったので。・・・それにこれをあの子に渡さないと」

そう言って手に持つ油揚げを見せると、叔父さんは納得した様子を見せた。

「じゃあ気を付けて頑張るんだよ」

「はい」と、僕は短く言い、再び箒を持って神社の裏に回る。・・・さて今日は来るのだろうか。少し楽しみにしながら掃除をして待っていると、小さな動物の鳴き声が聞こえた。声のした方を振り向くと、そこには白くて綺麗な毛並みの狐がいた。どうやら来てくれたようだ。僕は掃除を止め、狐にあの油揚げをあげた。

この狐は、僕がここに住むようになって一週間ほど経ってから、見かけるようになった子である。初めは病気とか気にして見向きもしなかった。だがお腹を空かせているようだったので、試しに食べ物をあげると、とても喜び、僕にすり寄ってきてくれた。それからというもの時々来てくれるようになった。なお叔父さんに餌をあげた事を話すと・・・

「ここは稲荷神社だからね。責任を持ってするなら大丈夫。なーに、ご飯は気にしなくていいよ。お狐様には日頃お世話になっているからね。日頃の恩返しも兼ねて僕が払うから」

と言ってくれた。流石は叔父さんである。

と、そんなことで、僕はこの狐にご飯をあげるようになった。最近では結構体を触らせてくれるまでになった。感染症は・・・まぁ気合いでなんとかすればいい話だ。

「お、もう食べたのか」

気が付けば、油揚げを平らげてこちらを見ていた。もう少し欲しかったのだろうか。もう少しあげたいし、眺めていたいが今日は勉強をしなければならない。それに・・・うん、やっぱりこれ以上汗をかく前に終えたい。

「ごめん、今日はこれだけなんだ。明日いっぱいあげるから、ね?」

そんな感じに狐に向かって話す僕。周りから見れば痛い人に見えるかもしれない。だけど、確信を持って言える。この子は人間の言葉を理解していると。実際に狐は少しションボリして、毛づくろいを始めている。うん、改めてこの子は利口かもしれない。できれば一緒に暮らしたいが、この子にはこの子の生活がある。無理に飼うのはやめた方がいいだろう。

僕は狐の食べカスを片付けた後、再び掃除を始めた。時々狐がいる方を見るが、大人しく座ってこちらをまっている。うん、急ぐ理由がもう一つ増えた。僕はさらにペースを上げ、素早く尚完璧に掃除を終わらせた。・・・あの場所以外。

「さて、次はあの白い花のところか」

そう、朝掃除していた、あの花がある場所である。何度も言うが、花自体は綺麗で気に入っている。だが例の伝承はどうも受け付けない。どうもこういった非現実的なのは嫌悪感を持ってしまう。できれば行きたくない。が、その場所だけ掃除しないわけにはいかないだろう。嫌々ながら、僕はあの花の場所に向かうことにした。

「お前さんも来るかい?」

だがその前に、ついてくるか狐に聞いてみる。すると狐は小さく鳴いた。・・・多分ついてくる、という意味なのだろう。歩く僕の後ろをちょこちょこついてきている。これを見るだけでも頑張れそうな気がする。

「さて、もう少しで着くんだ、が?」

ここからちょっと角を曲がるだけの距離の筈なのだが、なんか変な感じがする。別に距離が伸びた訳ではないが、どうも言えない違和感がある。気のせいだよ、な。そう思いつつ、角を曲った。

「ふぇあ!?」

思わず変な声をあげる僕。理由は一つ。白い花がありえない程増殖していたからだ。ざっと見た感じでも100以上はある。朝は1つだけだったのにだ。

「一体どういう事なんだよ・・・」

もう頭がついていけない。非現実的が起きて、頭がおかしくなりそうだ。思わず頭を抱えていると、あの狐が唸りながら花の中に入ってしまった。

「お、おい!」

僕は思わず、その狐の後を追う。絶対行かない方が良いが、狐に何かあっても嫌だ。白い花を足でかき分け、狐を探して奥へ奥へ。呼びかけながら進むが反応はない。少し不安になってきたその時、目の前に突然小さな社が現れた。・・・こんな物がここにあったなんてビックリだ。僕は一時不安を忘れ、好奇心でその社に近付いた。特に変わった様子はない。少々古く、扉が閉められているくらいしか特記する事がない。

「全く、何の社なんだ?」

僕は御神体を確かめる為にも、社の扉に手をかけた。

ーーその時だった。

手をかけた瞬間、勝手に扉が開き、光が社から溢れ出してきた。何が起きているのか分からない。理解が及ばない。思考が停止している中、狐の姿を確認したのを最後に、俺の意識は途切れていった。

・・・さて、幸太朗はお掃除の続きに行ったようだね。どうやら油揚げも持って行ったみたいだけど、何に使うんだろうなぁ。

本人は狐にご飯をあげてるって言っていたけど。僕はその狐を見た事がない。あげてる仕草は見るが、そこにはいつも狐は“いない”

・・・これが俗に言う厨二病なのかな?そろそろやんわりと伝えていかないといけないかもなぁ。やっぱり高校生は大変だ。

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