9.猫又さんと美しい人
「と、いった具合かしら。私の一番はやっぱりこれかしらね。」
「なるほどねー。うん。ごちそうさま。」
「にしても、美人さんはどうしてこんな話を聞いたの?」
「そんなの決まってるじゃない。その人の持ってる一番美しい思い出を聞いて、それよりも美しい私を誇りに思うためよ。」
「えー…」
「あ、今性格悪って思ったでしょ。」
「いえいえ、そんなことは。」
「まー冗談だけどね。」
「…本気にしか聞こえなかったけど。」
「本当はね、私は私を美しくさせ続ける義務があるの。こんなのでも一応美人と言われるようには生まれてきたもの。だったら最後まで付き合わなきゃってこと。」
「でもそれは、とっても難しいんじゃない?」
「ええ。何が難しいって、美の形って千差万別なのよ。大きな目が好きな人も細い目が好きな人もいる。背が高いのが好きな人がいれば、ってね。時代なんて跨げば、もう本当に。だから私は、いろんな人のいろんな美を感じて、自分を磨いていくの。あの人の好みは変だから、みたいな言い訳は認めない。少なくとも私にあった人がみんな私に美しいっていうようにするためにね。」
「でも、あなたがいくら努力しても、老いというものはやってきてしまうわよ。」
「あら、老いが美しくないって誰が決めたの?」
「え、だって、髪は抜けてしまうでしょうし、肌だって…」
「いい?本当に美しい人は、髪が抜けようが肌にしわが寄ろうが美しいのよ。むしろ死に近づくほど、その美しさは洗練されたものになっていくの。」
「うーん、そんなものかしら。」
「きっとね。それと、あとは願いと意地かしら。」
「願いと意地?」
「ああ、私がこの質問をした人が、いつか別の人から同じ質問をされて、そういえばって言いながら私のことを話してくれたらどんなにいいだろうって。これが願いね。あとはそうやって言ってもらったからには、その人とまた会ったとき、絶対にまた美しいって言わせてやるっていう意地。」
「はぁ~。なんか、とてもすごいけど、とても途方のないことね。あなたはそうやって生きていて、疲れたりとかはしないの?」
「そんなの!こうして誰かの美しい話を聞くことができるんだもの。こんな幸せで、やりがいのあることはないわ。」
「…」
「?」
「…あなた、美しいわね。」
「…うふふ、知ってる。」
―猫又さんと美しい人、完