7.猫又さんと美人さん
バシャア!
「なによ!このアバズレ!」
タタタッ
「…」
「あらあら大丈夫?」
「あーあ、服濡れちゃった…ん?猫がしゃべってる?」
「私は猫又だからしゃべれるのよ。猫又さんってよんでちょうだい。」
「そうなんだ。猫又なんて初めて見たわね。」
「あら?驚かないの?」
「人間やってたらね、そんなことにいちいち驚いてたらきりがないのよ。今や歴代首相が美少女になる時代よ?」
「すごいわね、あのおじさんたちが。」
「ええ、はるな○いもびっくりだわ。」
「ところで、あなたの名前はなんて言うの?」
「そうね、適当に美人さんとでも呼んで頂戴。」
「自分で言っちゃうの?」
「ええ。何か?」
面白い人だなと思ったので、ちょっとお話していくことにしたわ。
よいしょっと。
「あなた猫なのに、椅子にもすんなり乗れないのね。太ってるからじゃない?」
「! あ、あなた乙女に向かってなんてことを!」
「まあ触り心地はいいけどね。ほーれ、ぐるぐるぐる。」
「にゃ、にゃふっ…ごろごろごろ」
「なんだ、やっぱり普通の猫と変わんないじゃない。」
「もう、いきなりのどを触るなんて…それに私は猫じゃなくて猫又なの!すごいのよ!」
「へー。たとえば?」
「たとえば、そう妖術とか使えるわよ!さっきあなたに水をかけた人を懲らしめたりとかも」
「あ、別にいいわそれは。」
「でき…?いいの?」
「ええ。あれは私が悪いから。」
「そうだったの。」
「そんな複雑なことでもないけどね。町でたまたま知り合いのあの子がデートしてるところに出くわして、彼氏が私の方に惚れちゃったってだけ。全部私が美人なのが悪いのよ。ああ、美しいって罪ね。」
「す、すごい自信だこと。」
「話を戻すけど、あなたはなんか変な術が使えてしゃべれるってこと以外、普通の猫なのよね。」
「それをすごくないっていうあなたがすごいみたいだけど…でもそうね。あとは長生きくらいしかないかも。」
「あなたそんなに長生きなの?」
「ええ。生まれは江戸時代よ。」
「そっか。じゃあさ、一個お願いがあるんだけど。」
「? いいわよ。タイムスリップとか?それとも降霊?」
「そんなんじゃないわよ。」
「あなたが生きてきた中で、美しいなと思ったものの話を聞かせて頂戴。」
「…」
「どうしたの?」
「いえ、今までそんなことを頼んでくる人、いなかったから。ちょっと面食らったの。」
「いなかったんだ。意外ね。」
「そう、そうね。私が美しいと思ったもの…」
―猫又さんと美人さん、続く