5. 猫又さんと「いじめっ子」
昨日は男を殴り飛ばした。
一昨日はババアだったか。
それより先は覚えてもいないし、昨日とかも覚えてんの以上に殴ってんのかもしれない。蹴っている可能性もあるだろう。
暴力を振るうのは、別に好きなわけではない。
ただ、目の前にあったからやっただけという感じだ。
勇者がツボを叩き割るのと同じことだ。たとえ大したものが入ってないと知ってても、なぜか体が動く。
別に金が目当てってことでもないけどな。
「おっす、ショウゴくん。」
「…」
「なんだよくれーな、ダチが挨拶してんだぜ。」
こいつは金田智樹。別に友達ではない。俺の後ろについて歩いて、俺が殴った相手に金をせびるのがこいつの役目だ。
俺自身が困るわけではないし、こいつを殴る気もしないから、テキトーに放っておいている。
たしか学校ではあだ名がコバンザメとか呼ばれていたが、なんとなく言いえて妙な気もしてならない。となると俺がでかい魚だと思われているわけか。別に嬉しくもなんともないが。
なぁ〜お
「お、猫だ。猫だぜショウゴくん。」
「…それがどうしたんだよ。」
「どうしたって、やんねーの?いつもみたいに。俺見てんの好きなんだよね。なんつーか、スカッとする?ってか。」
「知らね。猫なんか殴らねぇし。」
「あれ?ひょっとしてショウゴくん猫派?」
「猫派でも犬派でもねーよ。」
「あっそ。じゃー俺がやっちまうわ。おらっ!」
ドカッ
道を歩いていたその三毛猫は、声をあげるでもなく蹴り飛ばされて、あっけなく地面に落ちた。
「はっはー!結構飛んだな。俺サッカー選手なれんじゃね?!」
「何バカなこと…?」
コバンザメの顔色が変わっている。真っ青になり、脂汗が吹き出している。体がガタガタ震え始めて、地面に崩れ落ちた。
「うわぁ、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
コバンザメはそのまま、まるで化け物から逃げるように走り去った。
何が起こったのかわからなかった。とっさに振り返ると、さっきまでそこに倒れていたはずの猫が、何事もなかったかのように歩いていくのが見えた。
ー猫又さんと「いじめっ子」、続く