10.猫又さんと十三月さん
猫又さんはその人を、十三月さんという名前でしか知りません。
十三月さんに会ったのは、本当にただの偶然でした。
猫又さんは彼に名前を聞きました。
彼は、十三月さんだと言いました。
猫又さんは、なんで十三月さんという名前なのと聞きました。
彼は、それは自分が十三月から来たからだよと言いました。
猫又さんは、十三月とは何と聞きました。
十三月さんは、十三月は、叶うか叶わないかというくらいの、淡い願いを持ったものの世界だよと言いました。
猫又さんは、そこは幸せなのと聞きました。
十三月さんは、さてね、ただ夢のようであることは確かかなと言いました。
十三月さんは、見た目は普通です。
少し無造作目な黒い髪。黒い瞳。高くはない背。
ただ、猫又さんが十三月さんに会った時、彼はいつも学生服を着ていました。
彼はいつも、全てを理解したかのような、全てを理解できていないような表情をして、「やぁ猫又さん。」と声をかけてきます。
猫又さんが十三月さんに会う時は、いつも入り組んだ路地の、奥の奥にある小さな家です。十三月さんはそこの庭で、いつも本を読んでいます。
「ねぇ、十三月さん。」
「なんだい猫又さん?」
「前から聞きたかったんだけどね、十三月さんの持っている願いって何?」
「それは、きっと猫又さんが知ってもしょうがないことだろうね。」
「そう」
「そうだよ」
「そんなものかしら」
「そんなものだよ」
「願いというのは、自分のものだから願いなのさ。他の人から叶えられた願いは、それは願いとは言わないんだよ。」
ー猫又さんと十三月さん、続く




