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猫又さんの優雅な日々  作者: 出島優
10/14

✳︎猫又さんの優雅な日々 番外編 猫又さんの昔話

「そういえばなんだけどさ。」

「? どうかした?」

「その露花って子は、その後どうなったの?その武士の人とは結ばれた?」

「…」

「ひょっとして、それ、あなたが妖怪になったのと関係があったりするの?」

「…はぁ、あなたは本当にたくさんの話を聞いてきたみたいね。」

「話したくなかったら話さなくてもいいのよ。」

「それは聞かせなきゃ力づくでもととっていい?」

「ふふふ」





その夜の後、武家の方は度々足を運んで、露花と話していたわ。

あの子はその時だけ、何もかもを忘れて楽しそうにしていたの。

でも、私が最後に見たあの子の顔は、まるで陶器のように白くて、悲しみも喜びもなくなっていて。

雑踏も、ひそひそ声も、私の耳には入ってこなかった。



私にはどうしても、どうしても、それを許すことはできなかったの。





「それがきっかけで、気がつけば猫又になってたのよね。」

「ふーん、なかなかに重い話だったわね。でもその割に今は丸いじゃない。性格も体も。」

「! 乙女に向かってなんてことを!」

「あら?デジャビュ?」

「…まぁそれは置いておくとして、そうね。その時に聞いた話で、下手人と雇い主は分かっていたの。武家の方の父親が、息子が入れ込んでいる遊女がいると知って、彼と別家との縁談のために露花を手にかけさせた。要は武家の体裁とプライドかしら。」

「プライドね。誇りって言うとなんかかっこいい気もしなくもないけど、変わらず厄介なものではあるのよね…で、まぁ復讐したわけ?」

「あー、それなんだけどね。」






私は猫又になって、人の言葉もわかるようになったけど、体自体は 普通の猫だった。

ただ長生きであることはわかったから、彼らに復讐するために術の修行を始めたの。

そして、そうね、100年くらい経ったかしら。

私は差し当たって幾つかの術を覚えて江戸に帰ったら、もうすっかり街が様変わりしていたの。私が憎いと思っていた人達は、もうとっくの昔に死んでしまっていたのね。


『おー、どうしたね、そんな顔をして。』

『師匠、今江戸へ行ったらね、何もかもが変わっていたの。私の知っている人は誰もいなかったわ。』

『あー、だろうね。』

『師匠は知っていたの?知っていて私を…』

『おいおい、何言ってる。人の命がそんなちっぽけなものだなんて、お前が一番知ってるんではないかい?』

『…』




『…私はこれからどうすればいいのかしら?』

『ふん、それが分かれば、私もここで修行なんてしてないだろうね。』

『どういうこと?』

『お前の考えていることは、この世にある全てのものが考えなくてはいけないことで、この世にある全てのものが考えても仕方のないことなのだよ。』

『意味がわからないわ。なんで考えても仕方のないことを考えなくてはならないの?』

『するべきことと、しなくてはいけないことはけして同じではない。しても意味のないことも同様にね。』




『つまりそれだけ、世界は広くあるということさ。』





「答えは出たの?」

「差し当たってね。」


私は、いろいろな人の話を聞いてみることにした。

今まで、いろんな人に会った。

強い人。弱い人。強がりな人。弱くありたい人。強さを求める人。弱さを蔑む人。強さを憎む人。弱さを慈しむ人。

会った人だけの答えがあって、会った人だけの人生があった。それは頭ではわかっていたのだけれど、目で見るとやはり違うものだった。


もし私に神様が「人間を滅ぼすか?」と聞いてきたら、私は「いいえ」と答える。

どこかの死神ではないけれど、人間は面白いのだ。





「なるほど。」

「こんな感じね。私の、まぁ昔話。」

「ここで不安になってくるのが、私はどう映ってるかってことよね。」

「あら?不安になるの?」

「そりゃなるわよ。私だってね。」

「あなたは、美しくて強い人だと思ってるわよ。」

「なにそれ。当然じゃない。」

「美しいって見た目だけじゃないわよ。心も、ね。あなたはとても強い芯を持って、強い信念を持って生きている。」

「…」

「さっきもそう。よく頑張ったわね。あの怒ってた子、友達だったんでしょ?」

「…うん。」

「すごく仲良しだったんでしょう。」

「…うん。うん。」


「大丈夫。分かってるわ。私はこの世の真理なんてわからないけど、少なくとも目の前のあなたのこと、少しは分かってるつもりよ。」

「…うん。う、う。」

「…よしよし。」








ー猫又さんの昔話、終わり


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