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矢をつがえ右手を弦に掛ける
視線を上げ的を見据え、そこに意識を飛ばす
弓を持つ左手を上げる
その手を下ろすと共に 弦を引き込む
肩甲骨を寄せながらゆっくりと
最大限に引き込んでいる状態で的に照準を合わせる
そして右手を後ろに解放すると同時に矢が的へと吸い込まれて行く
「命中、お見事だね」
少し後ろの木にもたれていたマナが手を叩く
「まさかこんなに上達が早いなんて、正直予想外
ここまで出来ればしばらくは大丈夫そうね」
魔法だけだと心配だからと言われてマナに弓矢の使い方を教えてもらってから1週間
アルブの外れにある森の少し開けた所でテントを張って生活していた
マナも任務が終わったばかりで特に急ぎの用も無いらしいし
私の特訓に付き合ってくれていた
「ありがとうございます」
頭を下げるとマナは微笑み返してくれる
「私お礼を言われるような事はしてないよ
というかごめんね
魔法の事はわからないから教えてあげられなくて…」
マナはレイピア使い
ヒールやキュア、ライトなど簡単な魔法は使えるけど実践的な攻撃魔法や防御魔法はわからないらしい
「いえ、そんな……
弓の使い方を教えて頂けるだけで十分です」
するとマナは大きく伸びをして歩いてくる
「そう言ってもらえるのが救い、かな…」
マナと出会って一週間と少し
特に自己紹介とかをした訳じゃ無いけどマナについて少しづつわかってきた
とても親切な人だという事
ソロの冒険者として生きていけるだけの強さを持っている人だという事
本当に些細なことばかりだけど
それでもマナの事をわかってきた気がする
それが今の私には嬉しかった
そういえばさ、とマナは立ち止まる
「私の知り合いに魔法使いがいてさ
その人ならたぶん魔法教えてもらえると思うの
だから行ってみない?」
本当にありがたい申し出だった
「いいんですか?」
でもたまたま会っただけの人間なのに
マナがここまでしてくれる理由って何だろう
不意にそんな事を思った
「快く引き受けてくれるはず
アルブの外に家があるから少し危険な場所を通る事になるけど」
たまたま出会ったから?
パーティを組んでいるから?
「はい、大丈夫です
いずれは外に出る事になるでしょうし」
でも、そんなの理由にならないような気がする
じゃあただの気まぐれ?
「それもそうか
じゃあこの後、町にでて準備しようか
武器も防具も買わないとね」
………
こんな事考えたくはないけれど
「危険な場所…って何があるんですか?」
けど何か裏があるような気がする
「猛獣とか使い魔とかがよく出る一帯を通らないと駄目でさ」
ただ一つ言えるのは
マナが私のために冒険者として必要な事を教えてくれている事
「猛獣に使い魔………」
これは紛れもない事実
たぶん今はこの事実だけで十分なんだ
きっと……
私は頭を緩く横に振り、笑顔をマナに見せる
「マナと一緒だから大丈夫
なんかそんな気がします」
だから何も疑わないでついて行こうと思う
マナの背中に…




