2
誰かわからない声に名前を呼ばれて目を覚ました
暗いテントの内をランタンの淡い灯が辺りを優しく照らしてる
体を起こすと少し頭が重かった
「おはよう、気分はどう?」
落ち着いた柔らかい女性の声がとても心地いい
「少し頭が重いですけど、大丈夫です」
横にいる女性に目を向ける
薄紫の綺麗な瞳に、淡い紫色のローブ
白い肌に尖った耳
本当に私と同じ人間なのかと思う美しさだった
「私は魔法使い、リーアって呼んで
貴女は?」
言葉を失っていた私はリーアの声に我にかえる
「私、紗音です
一応、魔法使いなんですけど、まだ全く魔法使えなくて…」
私の言葉にリーアの眉は少し上がった
「全く使えない…?
それなら、あの障壁魔法は….」
…障壁、魔法……
急にこめかみの辺りが痛み出す
そして走馬灯のように情景がフラッシュバックする
木の上にいる私に下からナイフを投げようとしている男
飛んでくるナイフに両手を突き出す私
正面に出てきた光る壁に刺さったナイフ
そっか、あれが障壁魔法…
「前に魔術書みたいな本を見ながら練習してみた時はできなかったんですけど…」
リーアは不意に私の腕を掴んだ
袖を捲り上げて肘の少し上に手をかざす
「…リーア?」
恐る恐るリーアの顔を覗き込む
とても真剣な表情に思わず息を飲んだ
リーアは徐に目を閉じて何かを呟く
その瞬間、私の腕とリーアの手が光った
私の腕は白く、リーアの手は紫に
眩しさに目が眩んだけれど徐々に光は弱まっていく
「…サオシュアント、か……
…なるほどね」
納得したようなリーアの声に私は腕に目を向ける
リーアの手から肘にかけて龍が、私の肩から肘にかけて一角獣の模様があらわれていた
え、何…この模様……
こんなの今まで見た事、ない…
「アヤネは他の人とは違う
私と一緒で他の人よりも身体に秘めている魔力と、魔法に対する適性が格段に高い
だから魔導書に書いてある呪文を唱えても上手く魔法を使えない事もある
その証が、この模様」
証…
魔法に対する適性が高い、証……
「アヤネや私にとって魔法は話す事と同じ
私達は声を発する時にこうやって声帯を震わせて発音する…なんて事、普通は考えない
それは話すという能力を持って生まれきてるから」
そっと腕の一角獣に指を這わす
「無意識的に魔法を使える、という事ですね」
リーアは静かに頷く
「そういうこと、貴女には素質があるから強くなれる
だからその素質を最大限に生かせるようになって欲しい
アヤネ、貴女はその魔力どうしたい?」
もしも、また何かと戦う時がきたとすれば
今のままだと私は何もできずに逃げる事しかできない
でも、その時、私に魔法が使えたとすれば…
白銀のレイピアを構えた女性の後姿がふと脳裏に浮かぶ
私もあの女性の横に立って一緒に戦えるのかな
それなら、私は…….
この力を自分のものにしたい
「私に……私に、魔法を教えてください」
目を閉じて頭を下げる
布を擦れる音に目を開けると、リーアは立ち上がりテントを出ていた
私もリーアの後を追いかける
波打ち際に立つリーアの背中はさっき浮かんだ女性とは似ていなかった
けど、腰に差していたレイピアを静かに抜いたリーアさんの後姿を見て思った事は、さっきの女性に対して抱いたものと同じ
「強く、なりたい…」
自信を持ってあの人の横に立てるように
何かあった時にあの人を助けられるように
無力な自分を捨てたい
彼女と一緒に歩いていくのにふさわしい強さが…
「力が、欲しい」
呟いた私の頭上、遥か高い所で一つの星が流れた




