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「…ア…ヤネ……」


苦しそうな声に呼ばれて振り向いたのと、マナが地面に崩れ落ちたのはほとんど同時で


「…マナっ!」


急いで駆け寄って抱きとめた


ゆっくりと地面に寝かせて私は荷物を確認する


包帯くらいしかなかったけれど、何もないよりはまだ良い


マナの服を捲り上げて包帯を当てるけれど、一瞬にして赤に染まって


私の手を伝って地面をも赤く濡らす


どれだけ強く巻いても、布を当てて圧迫しても、血が止まる気配はない


このままじゃ、マナが…


「…献身の、天使…アールマティ」


何となく思い浮かんだ言葉


「我に…友を癒す、光の…」


並べると文章になって


「手を、与えよ…」


口からこぼれる


すると急に周りから身体に凝縮されていく光の球が、右手を伝ってマナの傷口を優しく包む


体の内で渦巻く何かが外に流れ出せば流れ出すほど視界がどんどん霞んでいく


頭に鈍い痛みが走り、心拍数が上がる


意識が飛びそうになった瞬間、腕を掴まれた


「…ア、ヤネ……」


少し瞳に光が戻ったマナは何かを言いたげに唇をうごかして、でも閉じてしまう


迷うように視線を彷徨わせる


どうしたの?と声を掛けようとした瞬間、周りから流れ込んでいた光が不意に途切れた


もう一度、呪文を唱えてみても何の変化もない


「…なんで?」


右手に全神経を傾けて、何度唱えても、何も起こらなくて


流れ出す血の量も少しづつ増えていく


もう一回、と口を開いた瞬間、今度は頬に手を添えられた


「もう…これで、充分だから…


ありがとう、アヤネ…」


ふっと笑みを浮かべてマナは目を閉じる


頬に当てられた手も力が抜けたみたいに地面へと落ちていく


「…マナ……マナっ!」


手を握って声を掛ける


返事どころか、目も開けてくれない


「マナっ!」


涙が溢れて視界が霞む


いい、と言われたけれど私はまた呪文を唱える


でも、やっぱり光は集まってこなくて


何度も何度も唱えていると、不意に肩を叩かれた


振り返るとそこにいたのは淡紫のローブを着た女性


「この辺りにはもう因子がないから、何回やっても魔法は使えない」


魔法が、使えない……?


だったらマナは……


すっとマナの方に視線を向けると、マナの胸元からほんの少し光が出ていて


「…マナ…?マナ……?」


マナにすがりつこうとした私を女性は手を制する


「触れたら、いけない……」


光はだんだん広がっていって、やがてマナを包む


「あなたの持つ全ての魔力とこの場の因子を使って回復魔法を掛けても塞がらないほどにこの人の傷は深かった


たぶんマナは闇の力を持ったものに傷付けられたのだと思う……」


マナに伸ばした手は女性に腕を掴まれて虚しく宙を掴む


光はだんだん強くなって次第にの姿は見えなくなる


そしてその光は一気に弾けた


辺り一面にキラキラとした何かの破片が舞う


それが吸い込まれていった地面にマナはもう、いなかった


ただ抜け殻になったマントと白銀のレイピア


そしてアルブの紋章の形をした冒険者証だけが、そこにあった


「……マ、ナ……?」


手に取った紋章の中心にある玉は色を失っていた


深い黒をしていた


女性は呆然とした私の横に膝をつく


細い指がレイピアの柄を撫ぜる


「その冒険者証はあなたが持っていてあげて


それがマナの生きた証だから……」


ぎゅっと冒険者証を握りしめる


腕を掴まれて立たされて、マントを抱えた女性に連れられ砂浜へ向かう


静かに寄せて返す波打ち際のギリギリ濡れない所にマントを置く


赤く染まったマナのローブは白い砂を色付ける


女性が手をかざすとローブに火がともった


広がっていく火はローブを灰へと変えていく


全てが燃え尽き、火は消える


白い女性の指が灰を集め手にすくう


穏やかに揺れる水面に落とされた灰は波に飲まれ沈んでいく


「……さようなら…」


悲しみに震える女性の声に、私が手にすくった灰へと涙が吸い込まれる


まだほんのりと熱を持った灰は指の隙間から地面へと流れていく


「……マナ…」


私の微かな呟きもまた、小さな波へと飲まれていった

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