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部屋の中央にある机に本を広げる
分厚い表紙を捲ると余す所なく文字が敷き詰められたページが
かなり崩し字で読みにくいけど、何とか読めなくは無い
どうやら呪文のような文字の羅列が書かれているようで
何から始めたら良いのかわからないから、とりあえず始めから見ていく
文字を見失いそうになるから左の指で追う
上から順に部屋の中でも出来そうなものを探す
「献身の天使、アールマティよ……
我に、友を癒す
光の…手を…」
右手に神経を集中させて本に書かれた文字を読む
………
………………
何も、起こらない
「……なんで?」
片っ端から呪文を読み
次々とページを捲る
それでも、何も
全く何も、起こらない
どれくらい時間が経ったのだろうか
一枚ページを捲るとそこには何も書かれていなかった
気がついたら背表紙に辿り着いたらしい
「結局、全部失敗…」
本を閉じて溜息をつく
そして改めて部屋を見回す
この部屋も向かいの部屋と同じ様に本棚がある
ただ、続き部屋はないみたいだ
端から順番に背表紙を目で追う
装丁が色褪せて字が読めなくなっている本も多くある
地理学に天文学、人類学、神話
魔道書もあれば絵本まで…
ジャンルも年代も違う本が同じ本棚に空間を余すことなく立ててある様はもはや一種の芸術の様で
そんな中にふと一冊の本に目がとまった
深い青色の背表紙に書かれた金色の文字だいぶ古いようで題名は読めないけれど“歴史”や“思想”だろう単語が辛うじてわかる
出てこないだろうな、と思いつつも本に指を掛けて力を入れると案外簡単に本が抜けた
勢い余って思いっきり尻もちをつく
床の上の本も落ちた衝撃でページが開いた
そこにはこの世の理が書かれていた
…カタン……
何かの物音で我に返った
周りを見回しても特には何も起きていない
かなり長い時間 本の文字を追っていたようで、部屋は薄暗くなっている
机にあった蝋燭にマッチで火を灯し燭台へと置く
本を元にあった場所に戻す
そしてドアに近づく
マナにはこの部屋にいるように言われているけど、少し廊下を覗くだけなら…
音を立てないように慎重にドアノブに手を掛ける
すると私が回すより先にドアノブが回った
私は慌てて後ろに飛び退く
誰だろうと少し身構えたが、ドアの影から顔を見せたのマナ
マナは一瞬だけ不思議そうな顔をした
「ごめん、急に部屋を追い出して…」
そういえばマナは向かいの部屋の続き部屋を覗いた直後に 私を部屋に近づけないようにした
あの時のマナの様子からすると結構大変な事が起こっていたみたいだったけど一体、何が……
「マナ……」
口を開いた瞬間
マナの人差し指が私の唇に触れた
私が紡ごうとした言葉をわかっていて、それを阻むように
「今はまだ、聞かないで」
指で唇の形に沿ってなぞられて、じっと見つめられてしまったら
もう頷く事しかできなくて…
私は何度も首を縦に振った




