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聖夜は恋の雪に埋もれて  作者: 桜坂ゆかり
第1章 12月22日まで
6/15

遊園地デート

 土曜日の午後、鹿里君と私は遊園地にいた。

 この「モカショコランド」は、うちの街で唯一の遊園地で、規模もそこそこ大きい。

 夜にパレードを行うくらいだから。

「今日は俺のために時間を割いてくれて、ありがとう」

 殊勝な様子の鹿里君。

「いえいえ、こちらこそ」

「ナイトパレード、大評判すぎて、俺も気になって気になって。今から楽しみだね」

「う、うん」

 やっぱり、できれば奏とも一緒に見たいなぁ。

 あ、今そんなことを考えるのは、一緒にいてくれている鹿里君に失礼だ。

「ところで、さ。麗って呼んでもいい? 俺のことも『鉄平』でいいから」

 ああ、そういえば、こないだから瑠璃も名前で呼ばれていたっけ。

「うん、もちろん」

「よろしくね、麗。それじゃ、まずはあそこのアトラクションから行ってみよう」

 元気よく歩き出して言う鉄平君のあとをついていった。




 そして私たちは、色々なアトラクションを楽しんだ。

 その間、ものすごく優しくしてくれる鉄平君を見て、彼がなぜ人気者なのかを理解できた気がする。

 ただ、それでもやっぱり……「奏と二人で来たい」と思う私の心は変わらなかった。

 7年前に気づいたこの想い。

 実は幼稚園時代から続いていた可能性もある、この想いを、そうそう簡単に断ち切れるわけがない。

「早くも、もう4時か……。それでも、パレードがある7時まではまだ3時間もあるね」

 鉄平君が時計を見ながら言う。

 辺りは、次第に夕暮れ色に染まりつつあった。

「だいぶ夕方って感じになってきたから、このへんで観覧車へ行っとく? 景色、綺麗だと思うよ」

 鉄平君の提案に、二つ返事で賛成する私。

 そして、私たちは観覧車へと向かった。


 観覧車もそこそこ混んでいたので、順番待ちの列に並ぶことに。

 すると―――。


 1周を終えてゴンドラから降りてきた二人の姿に、私は驚かされた。


「ああ~! 鉄平君と麗じゃん!」

 瑠璃がよく通る大きな声で言う。


 そんな瑠璃の後ろにいるのは―――。

 奏!


 奏も私と同じく驚いたようで、黙ったままだ。

「瑠璃と奏も来てたのか。まさか、そっちもナイトパレード目当て?」

 笑顔で聞く鉄平君。

「もっちろーん!」

 白い歯を見せながら、瑠璃が嬉しそうに答える。


 私はというと、ショックのあまり、すっかり放心状態だった。

 心への打撃が大きく、言葉が出ない。

 まさか、奏と瑠璃が言ってた用事って、このことだったなんて……。

 胸が痛む。

 でも、「どうして二人とも、言ってくれなかったんだろう」とは思わなかった。

 だって、私もこうして、二人に知らせずに、鉄平君と出かけているし……何より、私は奏の彼女でも何でもないんだから、言わなきゃならない理由などないから。

 瑠璃だって、きっと後で教えてくれるつもりだったんだろう。

 私の、奏への片思いのことは、瑠璃ですら知らないんだから……。


「麗も楽しんでる?」

 急に瑠璃が話を振ってきて、私は我に返った。

「あ、う、うん……」

 慌てて答えるけど、やはりうまく言葉が出ない。

「あんまし楽しそうじゃなさげ~。鉄平君、しっかりしろぃ!」

 おどけた調子で瑠璃が鉄平君を叩くと、「ええ~、俺だって頑張ってるぞ!」と言う鉄平君。

 私は慌てて、「あ、楽しんでるよ!」と言った。

 奏は、きまり悪そうにきょろきょろしている。

 長い付き合いの私でなくても、奏のその様子を見れば、「気まずいんだなぁ」ってはっきり分かるはずだ。


「じゃあ、ここからはダブルデートってことにする?」

 突然、奏がそう言って、他の三人は一斉に奏を見た。

 幼稚園時代ほどではないにしても、人が多いところでは寡黙な奏が、こうして自らの意見を発信することは極めて稀だったから。

「え~、私と二人っきりが嫌なのかぁ?」

 口を尖らせる瑠璃。

「そ、そういう訳では……。でも人数が多くても、楽しいかなって……」

 奏はそう言って口ごもった。

 私は大賛成なので、すぐに「うん、そうだね!」と奏に同調する。

 すると、今度は鉄平君が寂しそうな表情でつぶやいた。

「うう……瑠璃の言う通りだよなぁ……。俺と二人っきりだと、全然、麗を楽しませられていないみたいだし……」

 肩を落とす鉄平君。

「い、いえいえ、そういう訳じゃないの」

 私は慌てて言う。

 すると、瑠璃がまた口を開いた。

「だったら、今日のところは別々に行動しない? んでね、次回、みんなでもう1回来るのだ! どう? 名案でしょ?」

「そいつは名案だ! さすが瑠璃!」

 元気を取り戻した様子で、鉄平君が言った。

 うーん……鉄平君には申し訳ないんだけど……今日だって、奏と一緒がいい。

 でも、そんなことを言える空気じゃなかったし、そうじゃなくても、私には言えない言葉だ。

「おおっと、ほらほら、もうすぐ順番が来るよ!」

 瑠璃の言う通り、鉄平君と私の前には、5人ほどの人しかいない。

「ってことで、私たちはこれで! 鉄平君も麗も、目いっぱい楽しむんだぞ! ゴンドラから見下ろす風景、綺麗なんだから! じゃあ、奏君、行こっか」

 そう言うと、軽く手を振りながら、歩き出す瑠璃。

 奏は「それじゃ」と、鉄平君と私に向かって言うと、静かに瑠璃の後を追う。

「じゃあな~!」

 元気良く二人に向かって手を振る鉄平君。

 私も小さく「じゃあ、またね」と言って、手を振った。

 そこで、ちょうど順番が来て、鉄平君と私は、係員さんに促されて、赤いゴンドラへと乗り込んだ。


「いや~、まさかあの二人と、ここで会うなんてね~」

 明るく言う鉄平君。

「う、うん、そうだね」

 私にはそれぐらいしか返す言葉がなかった。

「さーて、景色を楽しまないと、すぐ終わっちゃうよ。ほら、麗。どんどん高くなってきたぞ」

 鉄平君はそう言って、窓の外を指差す。

 心のショックが抜けきれていなかったけど、落ち込んでばかりいると鉄平君に申し訳ないので、なるべく平静を装って、私は窓の外へと視線を向けた。

 鉄平君と二人っきり。

 つまり……さっきまで同じように、奏と瑠璃が二人っきりだったわけだ……。

 楽しげに窓の外を見る鉄平君の手前、私は、何ともない様子を取り繕うのに必死だった。




 やがてゴンドラは地上へと戻り、私たちは相次いで降りる。

 そして、鉄平君の提案で、また別のアトラクションへと向かった。

 私の気分は、全く晴れないままだったけど。


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