お誘い
翌朝、奏と二人でいつも通り登校した。
奏の様子が全然変わっていなくて、ちょっとだけ安心する私。
瑠璃との関係に変化があったのかなぁ、とか、私は勝手に心配していたから。
学校に着いてしばらくすると、瑠璃が教室に入ってきて、挨拶を交わしたけど、瑠璃の様子は少し違うようだ。
いつもテンション高めではあるけど、なぜか今日はそのテンションがいつも以上に高いみたい。
理由は分からないけど、「嬉しさを抑えるのに一苦労」といった様子。
すぐに私は聞いてみた。
「昨日は、ほんとにありがとうね。で、どうしたの? 何かいいことあった?」
「ふっふっふ。あったけど内緒」
まさか、ほんとに、奏と何かあった?
心配で心配で、しょうがなくなる。
でも……奏と私は幼馴染ってだけだから、もし二人が良い関係になったとしても、抗議したり文句を言ったりする権利はない。
瑠璃も私の大事な親友だから、むしろ祝福するぐらいの気持ちでないといけないって思うから。
でも……でも…………。
「え~、教えてよ~」
私が追及すると、瑠璃は「いずれ分かるから。少なくとも、クリスマスイブには教えるよ。今はワケあって話せないだけ」と、笑みを隠し切れない様子で言った。
何なんだろう……。
ほんとに気になる……。
しかしそれ以上は何も聞き出せないまま、お昼休みまで、特に何事もなく過ぎた。
お昼休み、前の席の松嶋さんが、仲良しのクラスメイトに「モカショコランド行ってきたよ~。ナイトパレード最高!」と言ったとき、私は思い出した。
そうだ、奏を遊園地に誘わないと。
「ねえ、今週末、遊園地に行かない? 今、期間限定のパレードをやってるみたいだから。予定あいてるかな?」
奏の席まで行って、私は声をかけた。
すると……。
奏はすぐに答えてくれたんだけど、その直前、ほんの一瞬、奏の身体がピクリと動いたのが気になった。
よくよく見ていないと気づけないほどの、些細なことだけど、私たちはかれこれ13年以上の付き合いだから、すぐ分かる。
「ごめん、今週末はちょっと無理だ。また今度でもいい?」
「そっか、予定が入っているなら仕方ないね。こちらこそ、突然誘ってごめんね」
「気にするなって。今度、行こう。土日で予定あいてる日をまた調べておくから。たしかあのパレードって、今月いっぱいやってるんだったよな?」
そうだっけ。
奏が近くにいたクラスメイトに聞いて確認してくれたところ、どうやら奏の言うとおり、12月いっぱいはパレードをやっているみたいだった。
「またこっちから誘うよ。ほんと、ごめんな」
「ううん、気にしないで」
何度も謝ってくれる奏に、逆にこっちが申し訳なくなってくる。
今週末に行けないのは残念だけど、今月中には一緒に行けるみたいで、心がうきうきした。
でも……。
二人でロマンチックなパレードを見に行くってこと、奏は何も思わないのかな。
やっぱり、奏にとっての私は、単なる幼馴染で、恋愛対象にはなりっこないかもしれないんだということを、改めて感じさせられた。
少し……切ない。
そこへ、お手洗いから帰ってきた瑠璃が、教室に戻ってきたので、私は奏に「じゃあね」と言ったあと、自分の席へ戻った。
いつも私の席で、瑠璃や他の友達と一緒に、お弁当を食べているから。
ほんとは奏とも一緒に食べたいんだけど、奏はよく仲良しの男子と一緒に食べていて、誘う勇気がなくて……。
「瑠璃、今週末また一緒にカラオケでもどう?」
瑠璃とはしょっちゅうカラオケへ行っているので、いつも通りの感じで聞いてみた。
今週末は奏とも遊べず、バイトもないし、暇だから。
「土曜は無理だけど、日曜はオッケー! またカラオケへ行こう行こう!」
瑠璃は、嬉々とした様子で答えてくれる。
日曜、また楽しみ!
その後、私たちはいつも通りに、一緒にお弁当を食べた。
お昼休みも残り僅かというところで、鹿里君が私の席までやって来た。
「上園、こないだの約束、覚えてる?」
あ、もしかして、お食事に連れていってくれるっていう、あれかな。
「お食事のこと?」
「そう、それ。俺のバイト先のお店でね」
笑顔で鹿里君は続ける。
「でね。ついでって言っちゃ、何だけど、遊園地のパレードを見に行かない? 今、大評判でしょ」
「えっ、私と二人で?」
びっくり。
まさか、鹿里君から誘われるなんて、思わなかった。
「俺と二人じゃ、嫌? 一人で見に行くのも寂しいから、一緒にって思ったんだけど……」
少し切なそうな様子になる鹿里君。
でも……二人で行くのなら、奏がいい……。
「あ、うん……」
私は口ごもる。
すると、鹿里君は見るからにしょげた様子だ。
「迷惑だよね、突然ごめん……。もし、嫌なら、お食事だけでも……」
「えっと、そんな迷惑なんかじゃ……。じゃあ、遊園地も行こっか」
鹿里君の落胆しきった様子を見ていられなくて、私は言った。
すると、途端に表情が明るくなる鹿里君。
「いいの? やった! じゃあ、今度の土曜は、どう?」
土曜は何も予定がないし、大丈夫。
奏にも断られちゃったし、瑠璃もその日は忙しいって言うし。
「うん、大丈夫」
私が答える。
「じゃ、決まりだね」
明るく鹿里君がそう言ったところで、チャイムが鳴った。
そして、瑠璃たちクラスメイトが続々と教室に戻ってくる。
「詳しい時間は、またあとで連絡するね」
鹿里君はそう言うと、自分の席へと戻っていった。
その後、メアドを交換した鹿里君と私。
土曜のお出かけについて相談し、待ち合わせ時間と場所を決めた。
まさか、奏以外の男子と二人っきりでデートするなんて……。
でも、鹿里君だって、私を誘うことにそんなに深い意味はないと思うから、大丈夫かな。
あんなにクラスの女子から大人気なんだし、私なんかを特別に誘ってくれたわけでもないと思うし。
実際、瑠璃だって、こないだお食事に誘われていたからね。