終わる世界
ボクは世界を憎んだ。世界、と言えるのかはわからないが、とにかくわけのわからない巨大な力を、憎んだ。
「ねえ、これで終わりなんだね」
カナコは泣きそうな声でボクの手に指を絡ませた。やけに艶かしく体温が張り付く。
「……そうだね」
季節通りの金木犀が、季節外れの桜と混ざって空へと舞い上がる。世界の終わる日、ボクは世界一美しいものを見ていた。走馬灯というのだろうか、温かさを右手に感じながら、この数ヶ月を夢のように思い出す。
半年前、世界滅亡を食い止める組織に加盟した。
五ヶ月前、空が不思議なくらい澄んできた。同時に、太陽は赤黒くなっていった。
四ヶ月前、この国では季節外れの雪やひょう、ゲリラ豪雨が降って、砂漠には土砂降りの雨とかんかん照りの太陽が同時に出て、北国には熱湯の雨が降って。確か、その辺りで報道管制が無駄になったんだっけな。
三ヶ月前、あちこちで巨大地震が起きるようになった。組織に誘ってくれたミタカも、地面に飲み込まれて死んだ。涙は出なかった。
二ヶ月前、隕石が雨あられと降り始めた。今や夜中でも真っ赤な空にあった星たちは、ボクらに牙を剥く。地震について一緒に調べてたサワコも、隕石に当たって死んだ。
一ヶ月前、とうとう地球の軌道がおかしくなった。えぐり取られたアスファルトなんて、もう問題じゃない。一日の長さは毎日変わって、太陽は時間構わず出たり引っ込んだりした。
そして昨日、地球とちょうど同じくらいの早さで、同じくらいの大きさをした岩の塊が、地球の真っ直ぐ向かう先にあるってわかった。もう、誰にも止められはしなかった。
「ボクたちは、間違っていたのかな」
近づく岩石を横目に、ボクは星空を見上げた。もう、終わりの時はすぐそばまで迫っている。右手の温もりはもう、力なくだらりと下がっていて。
「ミタカが瞭子って呼んでくれるの、すごく好きだった。サワコの目の強さ、大切だった。エリカは泣き虫だけど優しくて、カオルは冷静に全体を把握してくれてた。組織のみんな、大好きだよ」
柔らかく手を摑んだまま、ボクは呟き続ける。命あるうちに、言いたいことを言っておきたいから。
「カナコは小さい頃からずっと一緒にいた。夢、叶えたところを見られなくて残念だな。たくさん旅しようって言ったのに、それも叶えられなかった。でも、一緒に過ごした時間は全部楽しかったよ」
ひときわ強く太陽が照らす。雲に遮られることもなく、世界が輝いた。
「……綺麗だ」
瀬戸際になっても、世界は美しい。ボクは笑った。
「後悔はたくさんあるけど、美しいモノの一部になって死ねるなら、本望かな」
こんにちは、淡野浅葱です。
ワンライのやつです。「世界が輝いた」っていうのをお題に。
もう少し書き込みたいなと思った作品でもあります。