世はまさに、大評論家時代
「集団的自衛権についてどうお考えですか」
「そうですね、近隣諸国との緊張も高まる昨今、やはりどこかで、必要になってくるのではないでしょうか。しかしながら、議論は慎重にやってほしいものです。」
「なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。」
「…あの、答えた後で言うのも何ですが。」
「なんでしょう。」
「何故、その質問を私に。」
「…なぜって言われても、評論家に政治的な質問をしたらいけないんですか?」
「いや、私は確かに評論家ですけども。」
「はい、そうでしょうとも。」
「私、ラーメン評論家ですよ。」
「え?」
胸ポケットから手帳を取り出し、今日のスケジュールを確認する。
□10:00 ~ 経済評論家 Y氏
□11:20 ~ 映画評論家 M氏
□13:00 ~ 政治評論家 S氏
□15:00 ~ ラーメン評論家 A氏
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「えーっと、貴方は、Sさんでは…」
「いえ、私はAと言いますが。というか、さっき名刺交換したでしょう。」
「ああ、道理で、名刺にドンブリのイラストがあったんですね。」
「いや、その時点で気づきましょうよ。」
「…なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。」
「なるほどって、貴方ねぇ…」
何という事だ。スケジュールを前後逆に書いていたらしい。
「すいません、今日これで3軒目なんですよ。申し訳ない。」
「3軒目?」
「ええ、評論家。」
「評論家を居酒屋みたいに言わないでくださいよ。というか…ちょっといいですか?」
A氏は私からスケジュール帳をふんだくり、書かれている本日の日程を、
指でなぞりながら言った。
「えーっと、10時に経済評論家。次に映画評論家に、そして経済に、ラーメン。
…貴方、そもそも何者なんです。インタビューの幅、広すぎるでしょう。
糸井重里にでもなる気ですか?」
「いや、何者と言われても、名刺交換したじゃないですか。書いてあるでしょ。」
「名刺には、ただ『フリーライター』と書いてありましたが。
にしても、フリーすぎますけど。」
「そうでしたそうでした。僕は表向きにはそういうことになっていたのでした。」
「表向きには? 世を忍ぶ仮の姿とでも言いたいんですか?」
しょうがない、こうなったら、この際言ってしまおう。
「僕は一見しがない、三流フリーライター。して、その実態は…」
「実態は?」
胸元から、もう一枚の名刺を差し出した。
「評論家評論家」 : 【角 漬男】
「評論家……評論家?」
「はい。 昨今は、SNSの台頭により、誰でも評論家を気取ることができます。
これでは、評論家全体の質の低下を招き、ひいては国家の学力の衰退に繋がるでしょう。そこで、我々『評論家評論家』が、評論家を評論し、評論家業界の質を…」
「急に長々と語り出さないでくださいよ。 評論家って、
何度言えば気が済むんですか」
「おっと、失礼。僕はやはり、評論家評論家なので、評論家の事を語り出すと、
止まらなくなってしまうのですよ。」
「…まぁ、それは、私もラーメンの事を語り出すと止まりませんからね。
そこだけは、同意できますけども。」
おお、さすが僕が目を付けた評論家だ。
僕の評論家評論の腕は、やはり素晴らしいな。
「なんと、物わかりのいい方だ。よろしい。『すごい!』に入れておきます。」
「『すごい!』ってなんです。 フェイスブックみたいなものですか。」
「違いますよ、評論業界で、『すごい!』って言ったら、アレしかないでしょう。」
額に手を当て、考えるポーズを一寸とったあと、A氏は口を開いた。
「ああ、『このマンガがすごい!』とか 『このライトノベルがすごい!』
とかいうあれですか。まさか、『この評論家がすごい!』ってのもあるんですか?」
「えーっと、惜しいですね。」
「惜しい?」
「良く考えてみてください、貴方も『すごい!』を作ったじゃないですか。」
「…確かに、いつぞやグルメ雑誌で『このラーメンがすごい!』という
特集記事を書きましたが。それがどうかしたのです。」
「それですよ!まさにそれを、『すごい!』に入れると言っているのですよ!」
「すいません、ちょっと意味が解らないのですが。」
しょうがない、この際、言ってしまおう。
「僕は一見しがない、評論家評論家。して、その実態は…」
「しがない評論家評論家ってなんですか」
「してその実態は!」
胸元から、もう一枚の名刺を差し出した。
「評論家評論家」
「この『すごい!』がすごい! 編集委員」 【角 漬男】
「この『すごい!』……がすごい! ?
「はい。 昨今の、『すごい!』が乱立しています。 これでは、一体何が
『すごい!』のか解らなくなり、日本経済は混乱を極めるでしょう。
そこで我々、この『すごい!』がすごい! 編集委員が……」




