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世はまさに、大評論家時代

掲載日:2014/06/02

「集団的自衛権についてどうお考えですか」


「そうですね、近隣諸国との緊張も高まる昨今、やはりどこかで、必要になってくるのではないでしょうか。しかしながら、議論は慎重にやってほしいものです。」


「なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。」


「…あの、答えた後で言うのも何ですが。」


「なんでしょう。」


「何故、その質問を私に。」


「…なぜって言われても、評論家に政治的な質問をしたらいけないんですか?」


「いや、私は確かに評論家ですけども。」


「はい、そうでしょうとも。」


「私、ラーメン評論家ですよ。」


「え?」


胸ポケットから手帳を取り出し、今日のスケジュールを確認する。



□10:00 ~ 経済評論家   Y氏

□11:20 ~ 映画評論家   M氏

□13:00 ~ 政治評論家   S氏

□15:00 ~ ラーメン評論家 A氏

       ・

       ・

       ・

       

「えーっと、貴方は、Sさんでは…」


「いえ、私はAと言いますが。というか、さっき名刺交換したでしょう。」


「ああ、道理で、名刺にドンブリのイラストがあったんですね。」


「いや、その時点で気づきましょうよ。」


「…なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。」


「なるほどって、貴方ねぇ…」


何という事だ。スケジュールを前後逆に書いていたらしい。


「すいません、今日これで3軒目なんですよ。申し訳ない。」


「3軒目?」


「ええ、評論家。」


「評論家を居酒屋みたいに言わないでくださいよ。というか…ちょっといいですか?」


A氏は私からスケジュール帳をふんだくり、書かれている本日の日程を、

指でなぞりながら言った。


「えーっと、10時に経済評論家。次に映画評論家に、そして経済に、ラーメン。

…貴方、そもそも何者なんです。インタビューの幅、広すぎるでしょう。

糸井重里にでもなる気ですか?」


「いや、何者と言われても、名刺交換したじゃないですか。書いてあるでしょ。」


「名刺には、ただ『フリーライター』と書いてありましたが。 

にしても、フリーすぎますけど。」


「そうでしたそうでした。僕は表向きにはそういうことになっていたのでした。」


「表向きには? 世を忍ぶ仮の姿とでも言いたいんですか?」


しょうがない、こうなったら、この際言ってしまおう。


「僕は一見しがない、三流フリーライター。して、その実態は…」


「実態は?」


胸元から、もう一枚の名刺を差し出した。


     「評論家評論家」 : 【角 漬男】 

     

「評論家……評論家?」


「はい。 昨今は、SNSの台頭により、誰でも評論家を気取ることができます。

これでは、評論家全体の質の低下を招き、ひいては国家の学力の衰退に繋がるでしょう。そこで、我々『評論家評論家』が、評論家を評論し、評論家業界の質を…」


「急に長々と語り出さないでくださいよ。 評論家って、

何度言えば気が済むんですか」


「おっと、失礼。僕はやはり、評論家評論家なので、評論家の事を語り出すと、

止まらなくなってしまうのですよ。」


「…まぁ、それは、私もラーメンの事を語り出すと止まりませんからね。

そこだけは、同意できますけども。」


おお、さすが僕が目を付けた評論家だ。 

僕の評論家評論の腕は、やはり素晴らしいな。


「なんと、物わかりのいい方だ。よろしい。『すごい!』に入れておきます。」


「『すごい!』ってなんです。 フェイスブックみたいなものですか。」


「違いますよ、評論業界で、『すごい!』って言ったら、アレしかないでしょう。」


額に手を当て、考えるポーズを一寸とったあと、A氏は口を開いた。


「ああ、『このマンガがすごい!』とか 『このライトノベルがすごい!』

とかいうあれですか。まさか、『この評論家がすごい!』ってのもあるんですか?」


「えーっと、惜しいですね。」


「惜しい?」


「良く考えてみてください、貴方も『すごい!』を作ったじゃないですか。」


「…確かに、いつぞやグルメ雑誌で『このラーメンがすごい!』という

特集記事を書きましたが。それがどうかしたのです。」


「それですよ!まさにそれを、『すごい!』に入れると言っているのですよ!」


「すいません、ちょっと意味が解らないのですが。」


しょうがない、この際、言ってしまおう。


「僕は一見しがない、評論家評論家。して、その実態は…」


「しがない評論家評論家ってなんですか」


「してその実態は!」


胸元から、もう一枚の名刺を差し出した。


      「評論家評論家」

      「この『すごい!』がすごい! 編集委員」 【角 漬男】


「この『すごい!』……がすごい! ?

       

「はい。 昨今の、『すごい!』が乱立しています。 これでは、一体何が

『すごい!』のか解らなくなり、日本経済は混乱を極めるでしょう。

そこで我々、この『すごい!』がすごい! 編集委員が……」




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