第一部(8)
今度はゆすっても声をかけても全く起きない。
明は寝室を探すことにした。
志保の家は本当に大きく、寝室を探すのも何回かドアを開ける必要があった。
靴や、部屋の雰囲気でどうやら一人で暮らしてるらしい。
明は寝室の場所をつきとめて、玄関で寝かせたままの志保をつれに戻った。
志保はまだ熟睡してるみたいだった。
志保を抱えて、寝室に行く。
寝室はベッド以外何もないこの家で1番小さい部屋だった。
静かに志保をベッドに寝かせて明は部屋を立ち去ろうとした時だった。
「亮太、うちを裏切らないって言ったじゃん。」慌てて明は志保の方を振り返った。
そこには夢にうなされて志保の姿があった。
泣きながら
「亮太」と囁いてる。
明は辛くなり、急いで志保の家をあとにした。
鍵は郵便ポストに入れた。
帰り道、明は法定速度なんて無視をしてバイクを飛ばした。
光が細い光になり、明の目に入ってくる。
目の前にテールランプが見える。
それも、1や2ではなく何十台ものバイクの集団が明の前を遮る。
明は小さい隙間を見つけてその集団をかわす。
明の行動に止まってたバイクの集団がいっせいに動き出した。
爆音を出して明のバイクに近づいてくる。
明はアクセルをさらに強くまわした。
コーナーを120キロで曲がる。
曲がり切れずにコーナーのガードレールにぶつかるバイクの音が聞こえる。
明はさらにアクセルスロットルをまわす。
まだしつこく数台のバイクがついてくる。
明は面倒になってバイクを止めた。
そこは人気のない閑散とした公園だった。
「お前、誰の許可受けて俺らの前走ってんだ?」バイクからおりてきたノーヘルの金髪が言う。
「道はしんのに許可なんていらねぇ〜じゃん。その金色のオツムは飾り?」明が答える。
「まぁ〜良いや。今日でお前死ぬんだからな。」そう言って金髪の男、紫頭の男、スキンヘッドの男が明に殴り掛かってきた。
とれぇ〜。
明はくる攻撃を全てかわし、ボディーを全員に5発づつくらわせた。
3人は明の目の前でうずくまり、嘔吐した。
「あんたら意気がってるだけでよえ〜じゃん。」明はそう言うと3人の顔を順番に蹴り上げた。
男達はバイクにまたがり逃げ去った。
明はネクタイを緩めて空をあおいだ。
明の瞳には寂しそうに浮かぶ月が浮かんでいた。
暴走族を撃退してから明は毎日喧嘩にあけくれるようになった。
街で肩がぶつかっただけで相手を殴り飛ばし、意気がってる不良に自分からからんでいった。
「よぇ〜のに調子にのるなよ」明は倒れてる鼻ピアスをしている金髪野郎に唾を吐く。
「覚えてろよ。必ず報復してやるからな」うずくまりながら強がり、鼻ピアス男は意識を失った。
明はその男を蹴り倒し、バイクに跨がりその場をあとにした。
次の日明がジムに向かう途中20台のバイクに囲まれた。
爆音を出しながら明のバイクの進路を塞ぐ。
一つのバイクが明のバイクの前輪に鉄パイプを突っ込んできた。
明のバイクはジャックナイフのように前のめりなり、明を空中に押し出した。
明はガードレールにたたきつけられそうになるが猫のように上半身と下半身を逆方向にひねり仰向けだったのを四つん這いになり足と、ライダークラブをしている手を地面にこすりつけて摩擦でギリギリガードレールに衝突を回避した。
「あっちいー」明は右手を振った。
「焦げちゃった…」やけどのように皮のむけた右手を見て明は呟いた。
明は立ち上がり後ろから突っ込んでくるバイクの軍団を見据えた。
爆音を出して明に突っ込んでくる。
3台がウイリーをして明に向かってくる。
明はバイクに背をむけてガードレールに立った。
そんな明を構わずにバイクはウイリーで突っ込んでくる。
明バイクが明にすれすれに近づいてくるのを見計らってバックテンをして3台のバイクの後ろをとった。
明はそのまま運転手を蹴り倒し、最後にバイクを倒れてる暴走族の上に律義に置いてあげた。
3人は
「うっっ」と唸りながら気絶した。
残りあと、17台…。
明は自分のバイク目掛けてダッシュした。
それを見逃すまいと17台のバイクが明を目指して突っ込んでくる。
ギリギリ髪の毛を掴まれそうになったがジャブでそいつの手をかわして、自分倒れてるバイクに跨がりアクセルを全開にした。
急にアクセルを全開にしたもんだからウイリーしたバイクをなだめるように明は優しく、そして力強くバイクを操縦した。
明はバイクの群れを引き連れて、走り出した。
明の華麗な運転に半数はついて来れず、転倒したり、他の車両にぶつかったりした。
そしてようやく明はバイクを止めた。
そこは人が一人やっと通れるくらいの幅のビルとビルの間だった。
明はその中にダッシュで入り、暴走族を待った。
明の考え通り一列になり明に近づいてくる。
明は得意のジャブをくるやつ全員におみまいした。
この日明は20人全員を倒した。
顔と体に傷をおった明が帰宅すると遥がこう言った。
「あんたどうしたのその傷」
「なんでもねぇ〜よ」
「親にその口の聞き方は何」
明は
「うっせーんだよ」と吐き捨て遥の顔を平手で叩いた。
明の罵声に反応して居間にいた勉が玄関に顔を出した。
「姉貴どうした?」倒れてる遥をみて勉の表情が変わった。
「おい、明お前女に手をあげるなんてどういうことだ?」
「そこのばばあがうるせぇ〜から調教したんだよ。」そういって明は自分の部屋に行こうとするが勉は明の右手を取りそれを妨げようとする。
その手を振りほどこうとするが勉の手はなかなかふりほどけない。
そして明は左拳で勉の顔を何回も殴った。
何度も鈍い音がするが勉の手は明の右手を握ったまま放さない。
「あんた俺の親父じゃないだろ?なんでこんなガキに殴られてなぐりかえさねぇ〜んだよ。」明はその場に泣き崩れた。
「ジムに通って力ついたの解るがな、俺は全くおまえが強くなったなんておもわねぇ。」ボコボコに腫れた顔で明の目を見つめる勉に明は吸い込まれそうな感覚を覚えた。
「本当の強さってやつは人を守るためにあるんだ。他人を傷つけるためのものじゃない」勉はそういって明の手を放した。
明の目からは涙がとめどなく流れた。
次の日、久々にジムに行くことにした明は寝ている遥に置き手紙をして出掛けた。
「母さん、昨日はごめん。たった一人の大切な母さんを傷つけてしまって…。俺、本当の意味で強くなるから。母さんを守れる男になるから。本当にごめん。」遥はその置き手紙を大切にしまって時間を確認してまた横になった。
朝7時の事だった。
「おはようございます。」明はまだ暗いジムの扉を開けてそう言った。
奥から人影が動く。
あくびをしながら夏川茂次が顔を出した。
「なんじゃ?久々に顔を出したかと思ったらお前か」明は会釈した。
「またご指導お願いします。」明はさらに頭を下げた。
「なんじゃ?目の中の闇が綺麗になくなっておるな。どうしたんじゃ?」明の顔を覗き込む茂次に明は照れながら
「秘密です」とはにかんで答えた。
明がトレーニングウェアに着替えてロッカー室から出て来ると茂次が明に
「今日は右ストレートを教えてやる。」明はうれしそうに
「ありがとうございます」と茂次に頭を下げた。
明はサンドバッグと対峙して茂次から教えをこう。
「まずは体重移動が大切じゃ。」
「はい」
「右足から体重を左足に移すと同時に右手を突き出すんじゃ。その時左手を引くとスムーズに右手が出るぞ。」明はその通りにやってみる。
「スドンッッッ!!!!!!!!」大きな音を出してサンドバッグが跳ね上がる。
「相変わらず飲み込みが早いな」茂次は感心して明に右ストレートを続けさせた。
明が右ストレートを出すたびに大きな音を出して大きくサンドバッグが揺れた。