第一部(4)
がに股で周りを威嚇しながら歩く不良歩きで2回目の南雲高校を訪れた明にとって想定内の悲しい事が起きた。
誰も明を見ようとしないのだ。
「ガラガラ」と音を立てて扉が開く。
明は教室の後の扉から教室に入った。
一瞬教室内にいた人達数人が明を見たが、すぐに視線を別のところに移した。
そしてさも、誰も来ていないかのように今までの行為の続きをやる。
やっぱり氷室達はこのクラスで大きな権力をもっていた。
まぁ、仕方ないか、俺も逆の立場なら俺みたいなやつに関わらないもんな。
明は小さくため息をつき、廊下側の1番後の席に座り、机に伏せるように寝た。
昨日の走り込みで体が重かった。
目をとじるとすぐに深い闇の中に吸い込まれていった。
「キーコンカーンコン」明が起きたのはチャイムの音でというか、周りの雑音のせいだった。
色んな言葉が飛び交い、一つの騒音と化していた。
目を擦りながら黒板の上の時計で時間を確認する。
どうやら昼休みのようだ。
皆それぞれ自由な席に座り、中身の無い話しをしている。
明は立ち上がりのびをし、地下にある学食に向かった。
学食には誰もいなかった。
営業してないのかな?
明は不安になり
「すみません!!」と叫んだ。
奥から新聞を畳む音が聞こえる。
「あん?どうした?」怖い顔のおっさんが出てきた。
「あ!!」明は思わず叫んだ。
「あぁ。お前かぁ。そういえばずっと授業中寝てたな。」
「てか何であんたここにいんの?」
「趣味で学食のおっさんやってんだよ。つ〜か担任にむかってあんたって何だ?」明の担任、早乙女みのりは顔面凶器を近づけてくる。
「ご、ごめん。」
「まぁ良い。それより何しに来た?」
「普通に飯食べにきただけ」
「あぁ〜そっか。したら何食べたい?。」
「カツ丼」「分かったカツ丼な。出来たら呼ぶから好きな席に座ってろ」早乙女は調理場に姿を消した。
明は1番後の角の席に座った。
席に着いてまた、ため息をつく。
何でここ誰もいないんだ?
10分くらいで調理場から
「飯、出来たぞ!!」とどすのきいた声が聞こえた。
立ち上がり、カツ丼をとりに行く。
見た目は悪くないな。
明はカツ丼を持ってまたさっきの席につく。
見た目は悪くないから大丈夫だろうと思い、箸を持つ。一口食べてみた。
「うめぇ」思わず声が出てしまうくらいの美味しいカツ丼だった。
つか、何でこんなうめぇ〜のに誰も来ないんだ?
食べ終わり、金を払うためにレジに向かう。
早乙女がその様子を見て、レジに来る。
「5250円な」
「え?一桁間違ってない?」
「いや、間違いなく5250円だ」明は渋々金を払い食堂をあとにした。明が食堂から出るのと入れ代わりにどう見てもモデルのような白衣を着た女性が食堂に入って行った。
それと同時に早乙女の声が聞こえた
「待ってましたよ。今日は何にします?」いつものドスのきいた早乙女の声とは違う声だった。
どうやらあの人は常連らしい。
そして何でこんなに甘美味い学食が閑古鳥が鳴いてるのかは明らかだった。
学食なのにアホなくらいに値段が高いのだ。
明は財布を見てため息をついた。今月の小遣いもうないや…。
その日は結局氷室達は学校に姿を現さなかった。
内心ホッとし、気がぬけた明は放課後ジムの時間まで学校の屋上で寝ていた。
「君、2ヶ月後に人生が変わるよ。幸せになる。僕には解る。したらおやす。おやす。」その声にたたき起こされた明は声の主を探す。
探すまでもなかった。
明の目の前数センチにでかい気持ち悪い顔があったからだ。
明は思わず
「わっ!!」と言いそうになったが、必死でこらえた。
目の前の声の主は自分の言いたい事を言って横になったままコロコロ転がり、はじの方で、もういびきをかいて寝始めている。
そいつのいびきのせいですっかり夢の中から現実に引き戻されたので少し早めに明はジムに向かう事にした。
太陽はもうオレンジ色を放っていた。
夏川ジムはこの前の閑散とした感じとは違っていた。
「こんにちは」明は扉を開き挨拶をする。
また奥からハゲた親父が出てきた。
「よう、来たな。では早速始めるか。着替えてこい。」
「それより今日はなんだか騒がしいですね」明の問いに答えるようにジムの中の一点を見る親父が
「なんか朝からあやつが来てな、サンドバッグを打たかせろと言うから勝手に打たせてるのじゃよ。お陰でわしは寝不足じゃ。」明は親父の目線の先を見たが見ていないふりをした。その顔はどこか見覚えがあった。明は確かに親父が
「南雲高校にはあんなのしかおらんのか」と呟いたのを聞いた。
この日も明は倒れるまで走らされた。
また顔に水をあびせられ起こされた明は今までの疑問を親父に問う事にした。
「親父さん、走ってばっかりで強くなれるんですか?」
「わしの目から見てお前はやっぱり余計なものがつきすぎとる。だから今はそれをとりながら、スタミナと体にキレをつける段階なのじゃ。お前は脂肪という重りを体につけてた分、それを落とせば筋肉の鎧に覆われてるはずなのじゃ。とにかく今は体をしぼる事に専念するんじゃ。なんだかんだで昨日より10分は長く走ってるんじゃぞ」
「そっかぁ。ありがとうございます。」明は立ち上がり着替えて帰宅した。
明が帰宅した時には遥はすでに帰宅していた。
「お帰り」遥の声だけを確認し、明も
「ただいま」と返した。
疲れていて、俯いた顔を上げる事も辛かった。
そんな明を英雄も出迎えた。明の足に尻尾をふりながら擦り寄る。
「この前買ったtoto当たってたのよ。実は。」
「うん。おめでとう。」感心のない反応をする明に遥は
「6億円って重いのね。」
「ん?6億円?え!!あれ当たったの?」
「そうなのよ。さっき言わなかった?」遥は居間から台車に乗った6億円を出してきた。「母さんこれどうすんの?」明は台車のお金を見ながら尋ねる。
「とりあえず車買って残りはスイス銀行に貯金しとくわ。好きな車あったら言ってね。あと明日からあんたバイクの免許とりに行きなさいよ。」
明はただただ唖然として
「はい」と言うしかなかった。