9話 夢の中で
「ん……?」
なぜ眠っていたのだろう? ……ああ、そうか。
おばあさんに何かされたんだったな……。立ち上がり周囲を見渡す。真っ白な世界。
物語なんかであるよな。特別な能力を手に入れる為に、こんな世界にいる展開。
「あ、ミイナ起きたー! おはよー!」
少女らしき声がしたと思ったら目の前に急に現れて抱きついてきた。
ピンクのツインテール。色白だ。
「うわっ!」
「ふえーん。ずっと寝てるから、一生起きないのかと思ったよぅ」
すりすりと頬ずりしてくる。
「君は、なぜ僕の名前を知っている? 君は何者だ? ここはどこだ?」
「感動の再開だと言うのにー。ミイナ冷たい……。
ここは、本の中だよ。るんは、るんだよ」
本の中。つまり、ここは『大いなる召喚士の伝承者』の中ということか。
「そうだよ~」
「……人の考えてることがわかるのか?」
「うん、るんは、光のシモベ。
人の心を読めるし、その子がどんな過去だったかわかるんだー」
「つまり、僕の過去も知っているんだな。不愉快だな」
「うん。大変だったね。るんが居たら同い年の子達、皆殺しにしてたのに」
「皆殺しにするな。あいつらだって、自分の身を守るのに必死だったんだ」
自分の身を守るには、誰かを犠牲にしないといけない。
それに選ばれたのが僕だ。もっとも、僕は自分を守る為に引きこもりになったが。
今は他の奴が犠牲になっているんだろうな。
「その経験がなければ、ミイナは、純粋で可愛い女の子だったし、自殺しようとなんて
思わなかったのに。でも、それがなければ、るんはミイナに会えなかったから
るんは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか……よくわからないよ」
「それは、もうどうでもいい。君は、僕に一体何の用なんだ?」
「あ、ごめんね。るんは、第1のシモベ。ミイナのシモベになりにきたんだ」
「具体的に、何が出来るんだ?」
「えっと、るんは、治癒魔法とか、辺りを明るくしたりとか……そのくらい、かなぁ?」
「かなぁって……。自分でわからないのか?」
「うん! るんを使うのは、主人になるミイナだもん。使い方は特に無いよ」
そういうものなのかよ。……ん? 第1のシモベってことは…他にいるのか?
「うん! 6人いるよ! みんな、強くてカッコイイよ!」
「……人の心を読むな。そうか、6人いるんだな。で、契約とかするのか?」
「わかった。読まないよ。るんと契約して欲しいなー。お願いー」
「何か条件とかあるのか? 何かを犠牲になるとか」
「そんな怖いのないよー。じゃあ、契約しようね!」
明るくて、どこかふわふわしている、るんが急に真剣な表情に変わる。
「新たなる主人よ。私は、汝に忠誠を誓う。如何なる時も守ろう。
例え、この身が朽ち果てようとも」
そう言って、僕のおでこにキスをした。
「なっ!」
「新たなる主人に幸運あれ」
にこっ。と、るんは笑った。可愛らしい笑顔だ。
「……儀式はこれで終わりか?」
「あ、ううん。ちょっと待ってね」
るんは、右手を出した。手のひらが光り始める。
その光が消える前に、ぎゅっと握り、僕に差し出した。
「はい。どうぞ」
「……どうも」
なんだろうか。受け取ると、手にはペンダントがあった。
ハート型のプレート、真ん中には白い薔薇。
プレートには、6個の石が入りそうな穴があり、
そのうちの1つがダイアモンドよりも綺麗な澄んだ白い宝石が入っている。
「ミイナは、女の子だからペンダントの方が良いと思って。どうかな? 気に入った?」
この宝石綺麗だ。とても気に入った。
「……まぁ、君がやったにしては上出来なんじゃないか?」
「よかった。気に入ってくれたみたいだねー」
「人の心を読むな。……他の穴はなんだ?」
「これは、残りの6人と契約していくうちに埋まっていくよ」
「1つ、穴ないじゃないか」
「最後はバラの色が変わるの」
契約の印といったところか。……まてよ?
「他の奴と契約するときは、どうするんだ?」
「えっと、みんなは様子を見てるの。
他の子が主人になって欲しいと思ったら、今度は、るんが迎えにいくよー」
「わかった。じゃあ、帰してくれ」
「あ、待って。召喚士に必要な知識をあげるから」
るんは、僕の頭に手のひらを乗せた。光ったと同時に頭の中に膨大な知識が入ってきた。
「う……! うああ……!」
頭が痛い。一気に知識を無理矢理つめこまれた。
情報処理が追いつかず、景色が歪む。座り込んだ。
「ごめんね?すぐ終わるから」
すぐ終わるからといって、一気に詰め込むな。……あぁ、だめだ。
凄く頭が痛くて他のことが考えられない……。この知識を整理するんだ……。
色んな場面が現れる。きっと、今までの召喚士たちだろう。
召喚の仕方や、主な使い方。自己流でも使い方を変えることができるらしい。
他には魔法で召喚される者たちの性格やら、今までの召喚士の性格……この情報、いらないだろ。
まだまだ知識が入ってくる。というか、ほとんどが今までの召喚士との戯れの映像だった。
頭の中の知識を整理するのに時間がかかったが、何とか終わった。
「終わったみたいだね。じゃあ、ご主人様またね! 必要な時、いつでも呼んでねー!」
るんは元気よく手を振っている。意識が遠くなって……また倒れた。