6話 女神アリア
目が覚めると、見慣れない風景が視界に入る。
「ここは……? ああ、グラッドが部屋を用意してくれたんだったな……」
そのまま寝たからカーテンが開けっ放しだ。朝日がまぶしい。
「朝に起きるなんて……久しぶりだな……。
前は、朝が来る前にカーテンを締め切って寝ていたし……」
昔は日差しを部屋に入れたくなかった。
部屋の中が誰かに見られるような気がして、カーテンは常に閉めっぱなしだった。
2階なのにな。おかしな話だ。
ベッドの近くにあった時計を見る。6時50分をさしていた。
「7時頃、1階に来るように言われてたな……はぁ、面倒だな。このまま寝たいが……仕方ない」
ゆっくりと起き上がり、洗面所へ向かって顔を洗おうとした。
「……お湯がないのか?」
蛇口が1つしかない。水しか出ない。
「……どうしたものか……」
かといって、外に出るのに洗わない訳にもいかない。気合いで洗った。
「つめたっ! ……まったく、お湯くらい出せれるようにしておけよな」
不満をもちつつ顔を近くにあったタオルで拭き、部屋を出た。
1階へ着くと、グラッドが待っていた。
こちらに気付き、爽やかな笑顔を見せた。
「お。ミイナ、おはよう」
「……おはようございます」
「ここに座って。朝ごはん、何がいい? メニューあるぞ」
座るとメニューを手渡された。ざっと見ると主食がパンか、パスタ、スープしかない。
ご飯ものがない。まぁ、僕は朝はパン派だから別にいいがな。
「……なんでもいい」
「そうか。じゃあ、勝手に決めるぞ」
「ミイナちゃんには、これがいいと思うわ。パンケーキアイス乗せストロベリーソース! 美味しいわよ~」
ヌッと死角から現れたアリシアに、思わずミイナは「ひっ!」と悲鳴をあげた。
「うおっ、アリシア急に出てくるな! びっくりするだろ」
「ミイナちゃんがいる所、私が現れる! と思っておいて頂戴。注文してくるから待っててね〜!!」
「じゃあ、俺のも頼む」
「自分でやりなさいよ」
「はいはい」
グラッドとアリシアは2人で食堂らしき受付へと向かっていく。会計を済ませて戻ってきた。
アリシアは、僕の隣に座って話しかけてきた。隣に座るなよ……。
「で、ミイナちゃん。昨日色々調べてみたんだけれど……。残念ながらミイナちゃんの情報はなし。ミイナちゃんの住んでる所ってどこ?」
「埼玉県だが……」
「さいたま? なにそれ? 聞いたことがないわね……」
「俺も聞いたことがないな……」
どういうことだ? 2人の表情からすると嘘を付いているようには見えない。
「まさかとは思うが……ここは、日本じゃないのか?」
「にほん……? ここは、アリアだぞ?」
「アリア?」
「そうだ。女神アリアが作った世界と言い伝えられている。……そんなことも知らないのか?」
「知らないな」
「あ、ご飯来たわよー」
ウェイトレスが運んできた、のかと思ったらトレイに乗った食事が、ふわふわと浮かんだまま、こっちに来て机に着地した。
「な!」
「どうした? ……ああ、魔法みたことなかったんだよな。これすら見たことないのか。」
……魔法……。日本ではない……。ベランダから飛び降りたのに川に落ちた……。
ここは……まさか……異世界……?
「ふふっ。ふふふふっ」
「な、なんだ? 急に笑ってたりして……」
「初めてミイナちゃんが笑ったわ! 可愛いぃ!!」
なんてことだ。僕が異世界に来ていたとはな。薄々勘付いていたが……。
興味のある世界に来たものだ。面白い。死ぬ場合じゃない!
女神アリアだか、神様の気まぐれか知らないが、楽しませてもらおうじゃないか!!
「いただきます」
今までの希望がなさそうな顔が一変し、多少希望が満ちた顔で両手を合わせ、ガツガツと食べ始めた。
「笑ったと思ったら、がっついて食べてるぞ……?」
「ふふっ、よくわからないけれど良かったわ。ミイナちゃん、美味しい?」
「……美味しい」
アリシアは嬉しそうに笑って僕の顔を見つめていた。
とりあえず、食べたら魔法を覚えよう。
どうやって覚えられるかは知らないが接近戦なんてごめんだからな。
情報収集も大事だ。冒険者になろう。楽しそうだし。