32話 自由が欲しい猫
しずくには帰ってもらい、ミイナはアリスにマリアまで運んでもらうことになった。
だが、しがみつく体力が無かったので九尾状態のアリスに服を咥えられて運ばれていた。
マリアの入り口に着いた途端、酷い倦怠感に襲われた。全く動くことができない。アリス曰く、完全な魔力切れだそうだ。
アリスは慌てた様子で、僕を置いて走り出していった。
おい。主人を置いてどこへいく。
そう心の中で突っ込みながら、地面に突っ伏していた。
周囲の人が、僕を中心に囲んでいる。触れもしない。まぁ人間なんて、そんなものだよな。他人をわざわざ助けようなんてしない。
「あっれー? 面白いもんでもあるんですかいー?」
能天気な声が聞こえた。どこかで聞き覚えのある声。
人込みをかき分け、その声の主が僕に近づいきた。僕からは足元しか見えない。
「おやぁ? 誰かと思えば、いつぞやの召喚士のダンナじゃないですかい」
にゃははは、という独特な笑い声と共に、僕の顔を覗き込んできた。猫だ。
「お前か……」
「なんでこんなところに寝っ転がっているんですかい? 風邪ひきますぜ?」
「魔力切れだよ」
「にゃはははは! 魔力切れですかい! これはこれは愉快愉快!」
僕に指差して笑う猫。バカにしているなコイツ……。
「にゃはははは! 魔術師のくせに、自分の魔力がわからないだなんて滑稽滑稽! 愉快愉快!」
「わかるものなのか?」
「そりゃわからないと致命的ですぜ? わからないのですかい?」
「ああ、知らないな。コツがあるのか?」
「産まれてから、感覚でわかるもんなんですがねぃ……そうだ。ダンナァ、良いものをあげますぜ」
猫は小さなポーチから、ブレスレッドをしたものを僕の右手首にはめた。
「……なんだこれは」
「そんなのも知らないので? 魔術師初級用の道具だぜぃ。それを付けているだけで、今魔力量がいくつあるかを大雑把に魔力量が多い順から青、緑、赤、白と色で教えてくれるんですぜぃ。今のダンナのブレスレッドは白だから完全に魔力切れですぜ」
「ほう。それは便利だな」
「その代わりと言ってはなんなんですがね?」
「なんだ? 金はないぞ」
「いやいや、金はいらねぇ。欲しいのは自由」
「というと?」
「巫女にかけ合ってほしいんですよ、召喚士のダンナの言うことにゃぁ、巫女も聞きざるおえませんからねぃ」
「猫に自由に動ける権利を渡せ、ということか?」
「そうなりますなぁ」
猫は、自慢げに自身の顎を触りながら答えた。
「断る」
「にゃんと?!」
猫は両手を上にあげてオーバーにリアクションした。
「そんな面倒なこと僕がするわけないだろ?」
「そ、そんにゃ……そこを何とかできませんかねぇ? あ、ほら! お金ならいくらでもやりますぜ!」
「それも盗んできた金だろ」
「うぐっ!! なぜそれを……!」
「やはり図星か。そんな汚れた金はいらないな」
すると猫は、急に座り込んで頭を地面につけた。……土下座だ。
うつ伏せで突っ伏している僕と、それに向かって土下座する猫。変わった光景だ。
「ダンナ、頼みます!! 自由が欲しいんです!!!」
「お、おい……」
「ダンナ、お願いします!!!」
「あー、もー、わかった。やるからもう頭上げろ」
猫は顔を上げた。目をキラキラと輝かせ、とても嬉しそうに飛びついてきた。
「ダンナァ! 感謝感激ですぜ~~~!!!」
「痛い!! 離せ!! というか、僕を宿まで連れていけーー!!」




