31話 風は一時、貴方と共に
「ちっ……」
リアリーは舌打ちすると、しずくに向けて動こうとした瞬間。
「『火炎』! 行きなさい!」
サッカーボールの大きさの火の玉が現れ、リアリーに向けて飛んでいく。
リアリーは、すぐさま後方に避け、アリスを睨みつけ舌打ちした。
アリスは、腕を組み見下した目で言った。
「貴方のお相手はわたくしですわよ?」
「……そう。なら、徹底的に痛みつけてあげる……!」
リアリーが、アリスの元へと走った瞬間──
「『氷壁』」
しずくがそう言うと、アリスを守るように氷の壁が発生した。
その氷の壁は、四方八方、全てを包み込みリアリーを氷の牢屋に閉じ込めた。
……終わった……のか……?
──そう考えた次の瞬間。パキッ……パキッ……と氷にヒビが入る音がした。
勢いよく走ってきたしずくが、ミイナを抱きかかえ、氷の壁から遠くへ離れた。
アリスも、狐姿になって離れていく。
ガラスが割れたような大きな音をたて、氷の壁が壊れた。氷の破片が四方八方に飛び散った。
白い水蒸気が立ち込める中、一人の影が浮かび上がる。リアリーだ。
しずくを睨みつける。そこには殺意しかない。ミイナは恐怖を感じ鳥肌が立つ。
「ご主人様。大丈夫ですよ。私が命に代えてもお守りします」
しずくは、優しく微笑み、そっとミイナを下ろした。
「『氷矢』」
しずくは、氷の弓矢を作り出し、リアリーに向けて矢を放った。
矢は、緑色の光を纏った足で回し蹴りをして粉々に砕かれた。
そのまま、しずくの元へ行こうとすると、アリスに『火炎』で妨害される。
どちらも大したダメージもなく、どっちも勝てる気配がない。
それを続けること、3時間後……リアリーに異変があった。
「っ……!」
リアリーは、息切れはしていないが、酷く疲れたような表情をし始める。
そして、少しずつ、速度が落ちていく……。
恐らく魔力がなくなりかけているのだろう。
本来、召喚士がいる場合は、召喚獣が魔法を使うのに召喚士の魔力がなくなる。
だが、召喚士がいない彼女は、自身の魔力を大幅に消費するしかない。
そもそも、ここの土地と、召喚獣となる前に住んでいた魔力が膨大にあった土地とは違う。
この土地に存在していれば、多少の魔力は消費するはずだ。
いくら彼女が優れているとはいえ、これだけの戦闘をしていると、魔力は限界に近いのかもしれない。
リアリーが走ろうとした瞬間、ガクッと倒れこんだ。
それを見計らったかのように、しずくは唱えた。
「『氷の壁』
氷の壁がリアリーの周囲を囲んだ。透明の牢屋と化す。
透明の牢屋の中で、不機嫌な顔をしたまま座り込んでいる。何もしてこない。
メイド立ちして、しずくは近寄り微笑みながら
「得意の蹴りはしないのですか?」
「……」
「降参しますね?」
リアリーは一言も喋らず、不服そうな顔をする。
「貴方は負けたんですのよ? 約束は守りなさいな」
「……はぁ……わかったわよ。解放して」
氷の壁がすうっと消えた。
「証は?」
リアリーは座ったまま、ジト目で手を差し伸べている。
ミイナは、戸惑ってしまい近づこうとしない。
「……なにその顔。もう何もしないわ。いいから早く渡して」
「ご主人様、私がお渡ししましょう。証を」
しずくにペンダントを渡して、しずくからリアリーへと渡された。
リアリーは、ペンダントを受け取ると見つめながら握りしめ
「『風は一時、汝と共に歩もう』」
ペンダントは緑色に輝き、ヒュオオオ……という音を立て静まった。
ジト目のまま、ミイナの方へ振り向き
「ほら、ぺちゃぱい」
ぽいっとミイナに向けて投げた。
リアリーは、くはぁ~……と大きなあくびをして
「眠い。寝る。起こしたら殺す」
そう一言いうと、ふらりと立ち上がり緑色の扉を作って中へと入って行った。
……あんだけ時間かかった戦いしたのに、あっさりしたもんだ。
ペンダントを空にかざす。澄んだ綺麗なダイアモンド、青く輝くサファイア、燃え滾るようなルビー、そして、キラキラと輝く緑色のエメラルド……。
「これで、4人……か……」
ふらっと眩暈がして倒れそうになる。しずくが支えて僕に微笑んだ。
「ご主人様、帰りましょう」
「……ああ……帰ろう……」




