2話 コスプレ男はストーカー。
「おい、大丈夫か!?」
コスプレ男が僕を抱きかかえ、心配そうに見ている。
しかも、横抱き……お姫様だっこだ。生意気な。
……助けてくれたのか? そんな目で見るな。泣きそうになる。
「何故助けた。僕は死のうとしたのに。とりあえず今すぐ下ろせ。殴るぞ」
とにかく、先制攻撃だ。拳を作って脅してみる。だが、僕の手は震えている。
脅しにならないじゃないか。右手のバカ野郎。
コスプレ男は、びっくりしたような顔をしてから
「……可愛げのない奴だな」
と言って僕を下ろした。変な奴だ。
普通なら説教だろ。死んではいけない、言葉遣いが悪いとか。
ミイナはグラッドに警戒しつつ、腕を組んで周囲を見てみると我が家や見慣れた景色は無い。
ミイナの目に映っているのは青空と川。そして川のせせらぎが聞こえてくるだけだ。
……ふむ。ここはどこだろうか? 仕方ない、こいつに聞いてみる事にしよう。
「コスプレ男。ここはどこだ?」
「コスプレ……? 俺の名前は、グラッドだ」
「君は、人の質問が答えられない愚かな奴なのか?」
「……お前は……。まぁ、いい。ここはアクアマリンの近く、マリン川だよ」
アクアマリンのマリン川?随分へんてこな名前だな。
このコスプレ男は嘘を言っているに違いない。痛い嘘だ。こういう奴と係わっては行けない。
ミイナはそう判断した。
「そうか。じゃあな」
別れを告げ背中を向けたままヒラヒラと手を振りながら、よくわからない道を適当に進む。まったく、ようやく自殺する勇気が出て実行したと言うのに。
しばらく出来ないじゃないか、勇気チャージ中で。
「おい、待て。どこへ行くつもりだ」
「君はストーカーか? 警察に突き出すぞ。子供に手を出した男だとな」
これ以上、関わらないでくれ。君を信じたくなってしまう。また裏切られて傷つきたくない。
「今にも倒れそうな痩せ細った女が、こんな場所で生き残れるはずがないだろう。家まで送る」
「君に送ってもらう必要は……」
必要はない、と言おうとした時だった。
グラッドはミイナの手を強く掴み、自分の背後に移動させた。
「なにするんだ!」
ミイナは、グラッドを睨んで怒鳴った。
「下がってろ。いいか? そこから動くなよ?」
グラッドはミイナを子供を諭すように優しく声をかけると、鞘から剣を抜き構えている。
……中二病が進行しすぎだ。と頭を抱えたミイナだったが、よく見るとグラッドの前には、大きな牙が鋭く尖り、唸り声をあげている黒い狼が5匹居た。
グラッドは1匹の狼に向かって走り出し、噛みつこうと襲いかかってきた狼に対して剣を横にして、口に剣を入れ込み、そのまま真っ二つに切った。
黒い血が吹き飛び、返り血を浴びる。
それをみた狼は、左右から2匹同時に飛びかかってきた。
慣れた様子で、タンタンとジャンプして回避し、狼の背後に回り尻尾を切った。
キャンッ!!と悲鳴を上げ痛そうにその場で悶えている。
周囲の狼たちはそれを見て、ピタリと動かず固まった。
「どうする? まだ俺と戦うか?」
ニヤリと余裕の笑みを狼たちに向けると、キャンキャンと鳴きながら怯えた様子で慌てて走り去っていった。
走り去る様子を見送った後、周囲を確認し剣を鞘にゆっくりとしまい、ミイナの方を振り向いた。
「……大丈夫か? どこも怪我していないか?」
「助けは必要ない」
ミイナは不機嫌そうに答える。
「大丈夫そうだな。家はどこだ? 送っていく」
「人の話を聞け!」