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19話 泥棒猫と少女の笑い声

 目が覚めた。よく寝た感じがする。時計を見ると7時。

 7時間半しか寝てないのに、寝た感じがするとは……。僕は、おかしくなったのだろうか。

いや、それが普通か。

 顔を洗いに洗面所へ向かう。いつも冷たいんだよな……。あ、そうだ。


「『火よ。我が命に従い我が元へ来い』」


 赤い魔方陣が現れ、影が現れる。


「ミイナさんと契約して、すぐに呼び出して貰えるなんて、光栄ですわ。何の用ですの?」


 てっきり、高笑いしてくるかと思っていた。大人しいな。

 僕は、水を溜めておいた洗面所に指差しして


「これをぬるく暖めてくれ。冷たくて顔が洗えない」


 アリスは、えっ? という顔をして


「……ミイナさん、これだけで呼んだんですの?」


「火属性の君しか出来ないことだ」


「……わ、わかりましたわ」


 アリスは洗面所の水に向かって手をかざし赤い光を浴びせた。


「できましたわ」


「そうか」


 指先を恐る恐る入れ確認。うん、丁度良い暖かさだ。

 遠慮なく顔を洗った。もう冷たい水に怯えることがなくなるな。良かった。


「よくやった。もう帰って良い」


「え、ええ。わかりましたわ」


 アリスは赤い扉を作って帰っていった。

 顔を洗って身支度もしたことだし、1階へ向かう。

 食堂に着くと、グラッドが手を振っていた。先に食べていた。


「おはようございます」


「おはよう。よく眠れたか? 緊張して寝れなかったりしなかったか?」


「子供扱いするな。そんなことで寝れなくなったりしない」


「そうか。朝ごはんは、しっかり食べろよ。しばらく歩くからな」


「ああ」


 食堂のメニューを見つめる。よく考えたら、マールさんのご飯も今日で最後か。

あのシチューは絶品だったから、もう1度食べておこう。ついでにパンも頼もう。

 しばらくすると、食事が来た。……うん、うまい。マリアって所は和食らしいし日本を思い出しそうだな。楽しみだ。

 にしても、食事に関して聞いたことのある名前ばかりだが……異世界なのに何でなんだろうか?


「ちゃんと、マールさんやアリシアに別れの挨拶しておけよ?」


「ああ、わかってる。……ごちそうさまでした」


 グラッドと同じくらいに食べ終わると食器を片付け、僕は忙しそうなマールさんに声をかける。


「マールさん!」


「なんだい!?」


「今日、アクアマリンを旅立つことにしました!」


「なんだって!? ちょっと待ってな!」


 マールさんは、見事な手際で何かを作っていた。


「ほら、これ持っていきな。お昼にお食べ。お代はいらないよ!」


 渡されたのは、レタスとハム卵が入ったサンドイッチだった。


「ありがとうございます」


「気を付けて行くんだよ! いつか、元気な姿で帰ってきな! また美味しいご飯を作ってあげるよ!」


「はい。いってきます」


 食堂から離れる。次は、アリシアだ。

受付に着くと、冒険者の依頼許可を出して忙しそうなアリシアが居た。


「アリシア」


「あら? ミイナちゃんが来てくれるなんて嬉しいわぁ。どうしたの?」


「今日、アクアマリンを旅立つことにした」


 そう言うと、アリシアは悲しそうな顔をして


「本気……なのね」


「ああ」


「そっか。早いわねぇ。どこへ行くつもりなの?」


 グラッドのように、止めはしないようだ。言い出したら覆さないのを理解しているのだろうか?


「マリアだ」


「そう。あそこなら、アクアマリンから近いし良いわね。

グラッド? ちゃんとミイナちゃんを守るのよ。わかってるわね?」


 アリシアは、グラッドに言い聞かせるように言った。


「ああ、わかってる」


「それなら良し。あーあ、もうムサイ男どもしかいない。癒しの子猫がいなくなっちゃうなんて寂しいわぁ」


 アリシアは、やれやれと両手を上げ、ため息をつく。

そして僕を見て、微笑んで


「また遊びに来てちょうだいね。待ってるわ」


「マールさんのご飯を食べには来るが、君の為に、会いになんか来ないからな」


 また、アリシアに会いに来たい。そんなこと僕が言えるわけがない。


「おい、その言い方は……」


「やーん、素直じゃないミイナちゃん! 可愛いわぁ」


 僕の頭を撫でてくる。ハグまでしてきた。今回だけは許してやろう。

いつもだったら言い返すが、言わないでおく。しばらくは会えないだろうしな。

 少しすると、僕を解放してくれた。


「突然だから、何も持ってないわね……。あ、そうだわ。ちょっと待っててね」


 アリシアは封筒と、紙、筆ペンを用意して、すらすらと何かを書いていく。

紙を封筒に入れ、最後に特殊な印鑑で封を閉じた。


「はい。これをマリアの冒険者ギルドに渡しなさい。きっと良い待遇になるわよー」


「そんな権利が君にあるのか?」


「ああ、ミイナは知らなかったんだな。こんなんでもアリシアは冒険者ギルド受付嬢の取締役。

つまり、アクアマリン冒険者ギルドの偉い人なんだぞ」


「ええ!? こ、こんな奴が!?」


 ヤバイ。思わず口に出してしまった。しかも、指を指して。


「あらぁ……2人とも酷いわね。よく言われるから慣れているけどねぇ」


 そりゃよく言われるよな。こんな危ない奴が取締役だなんて。


「ほら、早く出発しないと野宿になるわよ? いってらっしゃい」


「「いってきます」」


 僕とグラッドは口を揃えてそう言うと、ギルドを後にする。

後ろを振り向くと、アリシアが、大きく手を振っていた。

 顔が見えたままで振り返すのは恥ずかしいから、前に進んだまま手を振り返す。

大きく振らずに、軽くひらひらと。


「いいのか? あんな別れ方で。もう少し素直になった方が良いんじゃないか?」


「ふん。僕は、これでも十分、素直にやったつもりだ」


「……そうか。それならいい」


 グラッドは、そう言って頭を撫でてくる。


「子供扱いするな」


「はいはい」


 グラッドは撫でるのを止めた。

 少し進むと、何やら騒がしい。騎士が大声をあげている。


「盗みだ! 捕まえろー!!」


「またアイツか! あの猫め! 今度こそ捕まえてやる!!」


 10人くらいの騎士がドタバタと走って行った。


「泥棒か? 騎士は忙しそうだな」


「そうだな。猫とか言ってたな……指名手配のアイツだな、アレが見れるかもしれないぞ?」


「アレってなんだ?」


「この前、言ってたろ。この高い壁を上る事が出来る奴がいるって。それが猫だよ。

見れるかわからないが見に行くか」


 騒ぎの方向へ向かう。広場だった。黒いニットの猫耳帽子を被っている少女。

 着ている服は、上は、ワンピースのようなキャミソールで白黒のボーダー、胸下に黒いリボンが付いている。

背中は見えていて、下には黒い短パンが、ちらちらと見えている。

 健康的な美脚が眩しい。


「鬼さん、こっちらー」


 少女は楽しそうに、そう言って騎士達を挑発する。


「猫! 今回こそは貴様を牢へ入れてやる!」


 騎士の1人は、そう言って槍を突き刺してくるが、猫と呼ばれる少女は、ひらりと華麗に回避した。

 他の騎士も、槍やら、剣やらを振り回すが、10対1なのに、いとも簡単に回避していく。


「にゃははっ。旦那ぁ、まだまだ修行が足りませんなぁー? それでは、みなさん、さよーならー!」


「待てっ!!」


 猫は、笑顔で手を振る。八重歯がキラリと光った……ような気がした。

 急に猛ダッシュしたと思えば、そのまま壁がある方向へ走っていく。

途中で攻撃を仕掛ける騎士たちの攻撃を避けながら、壁を上って行った。

 重力なんか無いように、走って上っていく。高い壁のてっぺんに立ち、ひらひらと手を振って

そのまま、ジャンプして外へ出て行った。


「……あれ、死なないのか? 飛び降りだぞ? あんな高い所から」


「どうだろうな。いつもああやって飛び降りているが、

またどこかの街に現れるし、何か魔法でも使って着地しているんだと思うぞ」


 一方、また逃げられた。と落ち込んでいる騎士たち。

ざっと見た感じ、40人くらいいる。よく攻撃を避けれたものだ。

 彼らは、外までは追いかけないらしい。持ち場に戻って行った。


「ミイナ、先へ行くぞ」


「ああ」


 広場を後にして、真っ直ぐ行くとアクアマリンの門まで着いた。大きな橋を渡る。

 ……そういえば、アクアマリンからマリアまで、どのくらい歩くのだろうか?


「グラッド。マリアまで、どれくらい歩くんだ?」


「ん? そうだな……今、8時くらいだろ? 着くのは、16時くらいだな」


「は、8時間かかるのか!?」


「そりゃそうだろ。普通だぞ?」


「馬車とかないのか?」


「ないぞ。そんな金もってないからな」


 なんてことだ。8時間なんて歩いたことないぞ。

 帰りたい。アクアマリン冒険者ギルドで引きこもりたい。

 いや、そういう訳にも行かないし……どうしよう……。


 そんな事を考えつつ、前に進んでいく。10分ほど歩いて気付いた。

 歩いているのは、いつも川沿い。そう、マリン川の川沿いを、ひたすら歩いていることに。


「グラッド。マリアは、この川があったりするのか?」


「ああ、このまま川沿いに行けば、マリアの門に着く」


 やはり、間違いは無かった。僕が疲れない為には、マリン川を利用すればいいだけのことだ。


「『水よ。我が命に従い、我が元に来い』」


 青い魔法陣が現れ、水が噴出し……しずくが現れた。


「ご主人様、お呼びでしょうか?」


「竜になって、僕とグラッドを乗せて、このまま川を上れ」


「畏まりました」


 しずくは、川に入り、水竜の姿になった。

 僕は、しずくの背中?に乗る。


「どうした、グラッド。乗らないのか?」


「自力で行かないのか?」


「8時間もかけていられるか。グラッドが乗る気がないのなら、僕は先に行くぞ」


「い、いや、乗る。乗ります」


 グラッドも、しずくの上に乗った。


「では、ご主人様、グラッドさん、行きますよ」


 しずくは、そう言うと凄い速さで川を上っていく。

 うん、これなら、マリアまで直ぐに着くな。召喚獣での移動、楽で良い。


「ふふっ。ふふふふ。ふはははははは!」


「お、おい。ミイナ、怖いんだが?」


 凄い速度で、マリン川を上っていく水竜と、少女と青年。

 水音と、少女の笑い声だけが、静かなマリン川を騒がしく上って行った。

 彼らが通り過ぎた後には、彼らを襲おうとした魔物が、水竜に引かれて吹っ飛ばされた。

川から陸に追い出され、ビチビチと虚しく音を立てる魔物たちだった。

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