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ロー内恋愛ー26歳の男ー  作者: 小高まあな
第二章 虚偽表示の無効は第三者に対抗できません
6/19

2−3

「ごめんね」

 敬子さんと別れてから、ヒロ君はこっちを見ずにいった。

 敬子さんを乗せた電車はホームから出て行く。

 ホームの端っこで、距離をとったまま、あたし達は立ち尽くす。他の乗客たちは、いそいそと階段を上って行く。

「見栄、はっちゃった」

 そんなこと、言われなくても知っているよ。

「ううん、ごめんねー、一緒にいたのがあたしなんかで。サクちゃんとかだったら美人さんだし丁度よかったのにねー」

 出来るだけ声を大きく、いつものように、告げる。

 ね、でも知っているでしょう? ヒロ君はあたしなんかより全然頭がいいんだから。知らないなんて言わせない。民法94条2項。虚偽表示の無効は善意の第三者には対抗できないんだよ? 何も知らない敬子さんたちには、あたしたちはさっきのは嘘でーす、なんていえないんだよ。何も知らない善意の第三者の信頼を保護しなければいけないから。法律行為じゃなくても、嘘はついちゃだめだよ。だから本当のことにしようよ。

 だから、ねえ、

「本当にしちゃおっか」

 思わず口走る。

 言った瞬間に自分でびっくりした。

「へ?」

 ヒロ君が振り返ったので、慌てて笑顔を作る。

「本当に付き合っちゃおうか」

 よくもまあ、ぺらぺらぺらぺら次から次へと言葉が出てくるもんだ。微笑んだまま。

「え?」

 ヒロ君が固まる。

 何も言わない。

 駅のアナウンスが響く。三番線には電車が参ります。

「ちょっとー、なんでそんな顔するわけー!」

 いつもよりも声を高くして、頬をふくらませる。

「え?」

 ぽかん、としているヒロ君の肩をばしっと叩く。近づけた、だから、大丈夫。

「そんなにあたしと付き合うのが嫌なら、嘘でもそういうの言わないでよねー! 杏子さんはナイーブなんですよー! もー」

 いいながら、ばしばしと肩を叩き、行こう? と歩き出す。

「杏子ちゃん!」

 慌ててついてくるヒロ君を振り返り

「本気にしたの?」

 笑ってやる。

 ホームに電車が入ってくる。

「え、冗談?」

「本気にされた挙げ句、どうやって断ろーみたいな顔されて、あたしかわいそうー。超可哀想ぅ。これ、不法行為かなんかにならない? 慰謝料請求したーい。精神的苦痛!」

 笑ってやる。

「いや、そっか。そうだよねー」

 そうだよねーって、なんだ。思うけれども笑ったまま、階段を上って行く。

「ごめんって! ちょっとびっくりしちゃっただけで」

 ヒロ君も駆け上がり、あたしの隣へ。

「杏子ちゃんは、可愛い、いい子だと思うよ。決して、杏子ちゃんが嫌だとかそういうんじゃなくって!」

 可愛い、いい子だと思うのならば付き合ってもいいんじゃないの? いい加減、怒るぞ?

 などと思いながらも言葉に出さない。出せない。昔のあたしなら、言っていただろうに。

「いいよー別に。嫌じゃないけど、カノジョにはできないんだよねー?」

 顔を覗き込むようにして、微笑むと、そのまま階段を駆け上がる。今ぐらいの意地悪は許されるはずだ。

「ちょっと、杏子ちゃん!」

 追いついてこないでいい。しばらく、放っておいて欲しい。と、思うけれどもそんなことは言えず、ヒロ君が走りだそうとする気配があり、

「あれー、櫻井?」

 声がする。

「砂押……」

 ちらっと振り返ってみると、ヒロ君と同じ演習クラスの人だった。今の電車で来たんだ。

「おはよー」

 砂押君だっけ? よく知らないけど、今だけは感謝する。偉い!

「先、行くよ」

 一応声だけかけて、返事を待たずに、あたしは改札を飛び出した。逃げ出した。

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