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ロー内恋愛ー26歳の男ー  作者: 小高まあな
第六章 名誉毀損で告訴します。
18/19

6−3


『そりゃあまた、イブに大変なことしたわねー』

 こずちゃんが呆れたように言った。ここで、大変な目に遭ったではなく、あくまでもあたしがしでかしたこととするのがこずちゃんだ。

「うん、恥ずかしいし。本当反省」

『でも、大丈夫?』

「なにが?」

『その人、あんたの意中の相手の元カノなんでしょう? そんな人に喧嘩売って』

「ん?」

『だから、喧嘩相手があんたの意中の人にちくったりしないのかなって。あんたの意中の人、別に喧嘩相手のこと嫌いなわけじゃないんでしょう?』

 あたしは少し黙って、こずちゃんが言ったことを整理する。

 敬子さんがヒロ君に、あたしにこんなことを言われたと言う。ヒロ君は、あの感じだとまだちょっと敬子さんに未練があるっぽかった。あたしは、ヒロ君が昔好きで、今も多分ちょっと好きな人に喧嘩売ったことになる。

「ああああああー」

 がくっとうなだれる。しかも、言い方が不勉強そのものだ。

「やっちゃったかも」

『御愁傷様』

「こずちゃぁぁぁん」

 電話口に泣きつくと、

『うんうん。お正月にはそっちに帰るから、その時暇をみて聞くよ』

「……こずちゃん、優しい」

『慰めてあげる』

「ふられるの前提で言わないでぇぇ」

『何言ってるの』

 こずちゃんはちょっと呆れたような声で、

『結局あんたまだ告白してないんだからふられるわけじゃないでしょう? 可能性がなくなるだけで』

「もっといやぁぁ」

 あたしが叫ぶと、こずちゃんが五月蝿いなーと呟き、階下から母の静かにしなさい! の声が聞こえた。


 なので、冬休みに入ったにもかかわらず、クリスマスにもかかわらず、次の日あたしは学校に向かった。

 敬子さんからヒロ君に話が行く前に、とりあえずなんらかのアクションをとろうと思ったのだ。どういうアクションが正解なのかわからないけど。

 とりあえず、自習室についてから、ヒロ君を適当なところで呼び出して、なんて思いながら自習室のある建物に入る。そのまま机のある二階に向かい、

「杏子ちゃん?」

 背後から声をかけられて、心臓が飛び出そうになった。

「ひっ、ヒロ君」

 しかもなんでいきなりヒロ君本人。

「あれ、今日なんかあったっけ? 珍しいね、休みなのに学校来るの」

 ヒロ君にまでそう言われてちょっと自分を顧みて反省をしつつ、

「ちょっ、ちょっと」

「そっか」

 言ってヒロ君は笑い、自習室のロックを外すために、学生証を出す。

「あ、そういえばさ、昨日さ」

「う、うん」

 やばい、どうしよう、もう怒られるのかなっ。

 ヒロ君は、学生証を出す手を止めて、ちょっと小声で、

「設楽さんからクッキーもらったんだけど」

「うん?」

「あれって、俺以外ももらった、よね?」

「え、うん……」

 頷く。結構大量に配っていたけど。

「特別なわけじゃないよね?」

「うん」

「はー、だよねー」

 あぶねー、勘違いするところだったー、とか言いながら、ヒロ君がロックを解除する。

 それにちょっと拍子抜けする。

 なんだ、それ。期待したのか。どういうことだ。

 ちょっと不満に思いながら、その背中を睨むようにして見ると、

「あとさ」

 自習室の中に入ったところでヒロ君が振り返る。

 まだ背中を睨んでいたあたしは、慌てて視線を上にあげた。

「昨日、ごめんね」

「え?」

「敬子」

 さらり、と言われて、息が止まりそうになる。

「あ、あの、あたし、あの」

「なんか酷い事言ったっしょ。忘れて」

 ごめんね、と言いながらヒロ君が自分の机の方に向かう。

「ちょ、まっ」

 慌ててその手を掴んで、引き止めた。

「あの、あたし、ごめんなさい。敬子さんに酷い言い方して、迷惑かけて」

 ごめんなさいっと頭を下げる。

「杏子ちゃん」

「あの、本当、あたし、なんにも関係ないのに。しかもかなり適当なこと言って。法律わかってねーみたいな」

「杏子ちゃんってば」

 二度目に名前を呼ばれて顔をあげると、ヒロ君がちょっと楽しそうな顔をしていた。

「なんで杏子ちゃんが謝るの」

「え、だって」

「まあ、敬子は確かに怒ってたけど。怒ってたから今更俺に連絡してきたんだけど」

 こういうときだけ連絡してくんじゃねーよ、と小さくヒロ君は呟き、

「でも、俺の事はともかく、杏子ちゃんたちのことまで、ロー生全部ひっくるめてバカにされる筋合いがないのは確かだろう?」

 ヒロ君が優しく微笑む。

「敬子も最初は応援してくれてたんだけど。あまりに結果を出さない俺に呆れて離れていったわけ。そういうの、俺は知ってるからいいけどさ。気分悪かったでしょ、ごめんね」

「あの、ううん、ごめんなさい」

「いいってば。庇ってくれたんでしょ、嬉しいから」

 ちょっと泣きそうになる。見られたくなくて顔を伏せた。

 それから手を掴んだままのことを思い出し、慌ててその手を離す。離す前に、一度ぎゅっと握ってから。

「ごめんなさい、ありがとう」

 顔を上げる。

「ん、こっちも。ありがと」

 それからヒロ君は、

「あー、なんかテンションあがんないから、どっかにお茶しに行かない?」

 だるそうな顔をして言った。ちょっとだけ、白々しい演技。

「勉強は?」

 小声で聞いてみると、ちょっと笑われた。

「杏子ちゃんに言われるとはなー!」

「何それ」

「いやいや」

 それから彼は楽しそうに、見蕩れるような笑顔を浮かべ、

「クリスマスだし」

 そして、行こう? と歩き出す。

 あたしはちょっとその背中を見て、

「うん」

 小走りで、入ったばかりの自習室のドアを出た。

「あ、俺が誘ったけど、お金ないから奢んないから」

「えーけち」

「けちでもいいの」

「クリスマスなのにー」

 とかいいながら、ヒロ君とお茶できる、それだけであたしには十分クリスマスプレゼントなのです。


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