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ロー内恋愛ー26歳の男ー  作者: 小高まあな
第五章 差し止め訴訟は不適法です。
15/19

5−2

「と、いうようなことがあったのです」

『なんか、青春ねー。年齢が青春劇にはほど遠いけど』

 いつもの電話でこずちゃんに言うと、彼女は感心したんだかよくわからない相槌を打った。

『でもさ、杏子、守秘義務があるのに! って言ってた割に、私に話たじゃない? それっていいの?』

「う……」

 痛いところをつかれて、ちょっと押し黙ると、

『外部の人間にだって言ったら駄目でしょう、守秘義務があるのに』

 こずちゃんが楽しそうに言った。

「意地悪……」

『意地悪じゃないでしょ。今のうちから気をつけておかないと、あんたドジだから就職してからもほいほい喋っちゃいそう』 

「うう……」

 ないとも言いきれないところが怖い。

『でもまあ、ええっと、郁さん? だっけ? その人が言ってることは正しいね』

「え?」

『杏子、あんた結婚するとき婚姻届を出すだけで満足できる? できないでしょ?』

「……それは、結婚式をするかどうかってこと? そりゃしたいよ」

『最初は白、次はピンク、でしょう?』

 電話越しに笑われる。からかう口調。

「それは! 幼稚園の時の話でしょう?」

『そうね。でもね、杏子。その結婚式をやるのにいくらかかると思う? まあ、ピンキリだけどさ。杏子、ローの学費二百万円だって言ってたよね? それぐらいは確実にかかるよ?』

「んー」

『結婚式もやりたいなら、それなりに貯金ができてからじゃないと。そうなると、やっぱりロー生っていうのは不利だなーって思うわけ。こういうのもどうかと思うけれども、必ずしも受かるわけじゃないでしょう?』

「まあ、ねー」

 外部の人から見ても、やっぱりそこはリスキーなのか。

『ええっと、杏子がストレートで就職したら……、25歳とか?』

「うん」

『で、その池田君? とやらは』

「29、かな?」

『で、就職してちょっと落ち着くまで2年と考えても、池田君とやらは31歳でしょう? 普通の大卒の31歳がなにしてるか、って話よ。そっちは就職2年目のぺーぺーなのにっていう』

「あー」

 耳が痛い。

「……本当、ロー生ってギャンブラーでアホー」

 小さく呟く。そんなに将来のことを見通して考えたことなかった。あたしだけかもしれないけど、アホーなのは。

『まあ、でもね』

 あたしの声色が暗くなったからか、こずちゃんがいつもより少しだけ優しい声で、

『そこまでしてなりたいものがあるっていうの、いいことだと思うよ』

「こずちゃん……」

『なんとなく就職している人もいるしさ。私も、別に今の生活が不満なわけじゃないけれども。寧ろ結構幸せだと思ってるけど』

 そこで一度言葉を切り、

『たまに、たまぁにね、うらやましいと思ってる。杏子も、あと榊原も、自分の夢のためにがんばってる人』

 こずちゃんの声が暗くなる。

「……こずちゃん、あの」

 なんとか、なにか言おうとして、

『まあ、優しい旦那様と可愛い子どもに囲まれて幸せなんですけど』

 それをこずちゃんの明るい声が遮った。

『杏子がこの幸せを手にするのはいつでしょうねー』

 ちょっとバカにするような、言い方。でもそれに今は安心する。

「ふーんだ、弁護士になって素敵な旦那様見つけて、子どもも育てますよーだ」

『はいはい、がんばってー』

 そのあと、軽くくだらない応酬をして、電話を切った。

 幼稚園の時から一緒だった。大学は別だったけれども、それまでの十年近くを一緒に過ごして来た。

 同じ道を歩いて来た。

 だけど。

「……割と簡単にずれちゃうんだな、人生って」

 ほんのちょっとだけ寂しくなった。同じものを見て来たはずなのに。

 机の上においてある憲法の争点を手に取る。ヒロ君の字でされた書き込みを見る。ちょっと可愛い字。

「……がんばろう」

 勢いをつけて立ち上がると、机に向かった。

 法科大学院生は、貴重な二年乃至三年を勉強に捧げているのだ。ギャンブラーでアホーでも、ギャンブルの勝率はあげることができる。

 負けられない。

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