第2話
書き始めましたけど、核心へはまだまだ遠そうです。
…窓から差し込む朝日が眩しい。
どうやら今朝は夢と朝日の影響で目が醒めたらしい。
時計の針が指し示す時刻は七時五分。いつもより十分ばかり早いことになる。
「…さて、どうするか」
十分という時間を有効に使う方法を考え始めたが、そういう考えが浮かぶという時点で既にしっかりと睡眠は取れているわけで、これ以上眠りは必要ないはずだ。
そうと決まれば行動は早い。寝間着を脱いで制服に着替え、布団を畳んで一階に降りる。まずは朝食を摂らなければ。
台所には先客がいた。
「あれ?今日はいつもより早いんですね」
調理場から包丁の野菜を刻む音と共に、鈴鹿の声が聞こえてくる。
「ああ、悪い夢を見ちまって、それで起きたんだよ」
返事をして椅子に架ける。食卓には既に二人分のおかずが用意されていた。
ほうれん草のゴマ合えにだし巻き卵、キッチンから味噌の香りが漂ってくるということはこれに味噌汁も加わるらしい。
「ふう…」
朝の何気ない風景にホッと胸を撫で下ろす。
いくら夢とはいえ、あんな惨劇を間近に見てしまったのは何とも後味が悪い。そんな光景を見て、今の平和が揺らがないものとして在ることに心底感謝する。
「お待たせ、今日は豆腐とワカメの味噌汁です」
鈴鹿は味噌汁の入った鍋ごとこっちに持ってきた。手際よく二人分注ぎ分けると、片方をオレの前に置いた。
「それじゃあ、食べましょうか」
「そうだな、冷めたら料理にも鈴鹿にも申し訳ない」
朝食を両親に代わって作っていた人物は雁宮鈴鹿。オレの実の妹で、高校一年生。見た目は相当な美人で、内面もその外見に相違ない、オレの誇れる妹である。
「鈴鹿、昨日遅くまで何やってるかと思ったら、いりこでダシ取ってたんだな」
「あ、うん。兄さんが前に作ってくれた時に美味しかったから作ってみたんだけど…」
あくまで鈴鹿は謙虚な姿勢を崩さない。
「完璧だぞ。ついに鈴鹿も一人前だな」
オレは味噌汁のおかわりを要求する。鈴鹿はおかわりを注ぎながら微笑んだ。
「いいえ、兄さんにはまだまだ及びません」
鈴鹿の黒くて長い髪が揺れる。その不意打ちな鈴鹿の艶やかさに思わず目を奪われてしまう。
「兄さん…?」
鈴鹿は味噌汁椀片手に不思議そうにオレを見ている。
「な、なんでもない。なんでもないから気にしないでくれ」
「…?」
なんだかとても気恥ずかしいので、二杯目の味噌汁を思い切りかき込んだ。