第二章 愛されるために
私は窓の外を眺めていた。
「……お嬢様」
向かいに座る侍女のエマが心配そうに私を見る。
「泣いてもいいんですよ」
「泣いたら、戻ってきてくれるかしら」
「……」
「戻ってこないわね」
私は笑った。
「だったら泣く意味なんてないわ」
本当は。
泣きたかった。
レオンハルトのことが好きだった。
幼い頃から。
彼の婚約者になることが決まったときは、本当に嬉しかった。
だから私は頑張った。
王太子妃になるために。
王妃教育を誰よりも真面目に受けた。
外国語を三つ覚えた。
外交文書を読めるようにした。
国内の貴族関係を把握した。
王国の財政状況まで勉強した。
殿下が苦手な数字は私が補った。
彼が外交で失言しそうになれば、さりげなく話題を変えた。
彼が困っていれば助けた。
疲れていても笑った。
嫌われないように。
王太子妃として相応しくあるように。
そしていつか。
彼に心から愛してもらえるように。
けれど。
私が努力している間。
彼は別の女性を愛した。
「……馬鹿みたい」
窓に映った自分の顔を見ながら呟く。
「私、何のために頑張っていたのかしら」
その夜。
私は初めて王太子妃教育の教材をすべて箱にしまった。
翌朝。
父の書斎を訪れた。
「お父様」
「クリスティーナ」
父は何も聞かなかった。
ただ。
「よく帰ってきたな」
そう言った。
その一言で。
私は初めて泣いた。




