最終章 わたしのしあわせ
数年後。
王国と帝国の関係は、かつてないほど良好になっていた。
その中心にいたのは。
元・悪役令嬢。
今では。
「皇太子妃殿下」
誰もが敬意を込めて、そう呼ぶ。
私は窓辺に立ち。
帝国の街を眺めていた。
後ろからカイルが近づく。
「何を考えているのです?」
「昔のことを」
「……王国の?」
「ええ」
あの日。
婚約破棄をされた自分。
泣きながら父の胸に飛び込んだ自分。
自分には価値がないと思っていた自分。
全部。
遠い昔のことのようだった。
「後悔していますか?」
カイルが尋ねる。
私は首を横に振った。
「いいえ」
そして。
彼の胸に寄りかかる。
「婚約破棄されてよかったと思っています」
「……私は複雑ですね」
「どうして?」
「そうでなければ、あなたは私のところに来なかった」
「ふふ」
私は笑った。
「でも、殿下が私を見つけてくれた」
「見つけたのではありません」
カイルは私の髪に口づける。
「ずっと見ていました」
「……」
「あなたが誰かの隣にいるときも」
「……」
「あなたが泣いていた夜も」
「……」
「そして今も」
私は彼を見上げる。
「これからも?」
「もちろん」
彼は笑った。
「死ぬまで、あなたを選びます」
私は微笑んだ。
かつて私は。
愛されるために生きていた。
完璧な婚約者になろうとした。
王太子に必要とされる女性になろうとした。
けれど。
本当は。
そんな必要などなかった。
私は。
私のままでよかった。
そして。
私を捨てた男がどれほど後悔しても。
どれほど謝っても。
もう。
私の人生には関係ない。
なぜなら。
私の隣には。
一度も私を疑わず。
一度も私を捨てず。
何度でも私を選んでくれる男がいる。
そして。
私自身も。
自分の人生を選んだから。
――私はもう、悪役令嬢ではない。
愛されることを待つだけの令嬢でもない。
私は。
自分で幸せを掴んだ、一人の女なのだから。




