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3章

静寂に包まれていた。



さっきまで聞こえていた


車のラジオも、

エンジンの振動も、

何も聞こえない。


手足の感覚もない。


意識もぼんやりとしている。


確か、運転していたはずだ。


視線を上げると、ひしゃげた車が目に入った。


見覚えのある車だ。


事故かな……。


そう思った次の瞬間、はっとした。


潰れた車中に、血まみれの人間がいた。


その顔は――


自分だった。



赤い閃光を放ち救急車が到着する。


野次馬のフラッシュが焚かれ、

さっきまでの静寂が嘘のように周囲が騒がしくなった。


車から引き出された体は、ひどい損傷だった。


素人の目にもわかるほど。


流れた血の量と、顔の白さが

もう命がないことを示している。



そして私は理解した。


私が死んだことを。



心肺蘇生を受けながら運ばれた病院で、

私の死は明確になった。


心筋梗塞による急死。


運転中に意識を失い、

車はそのまま壁に激突。


車体はひしゃげ、

私の体も酷く損傷した。


あっけなく、淡々と終わった。


自分のことなのに、実感がない。


ドラマでも見ているようだった。


相方が来るまでは。



カッ、カッ、と響く靴音。


誰かが外で話している。


荒い息遣いが、扉越しにも聞こえてきた。


制服を着た男性に付き添われ、

一人の人が部屋に入ってくる。


酷い顔をして

足元がおぼつかない。


見間違えるはずもない。


相方だった。


事故の説明を受けながら、

身元確認のために私の顔を見る。


震える体。

揺れる視線。


そして――


私の顔を見た瞬間。


見開かれた目から、光が消えた。


「……あの人です」


ぽつり、それだけ言って、

相方は部屋を出ていった。


歩いている姿は、

まるで一本の糸で吊られているように

生命が感じられなかった。



事故の後処理が終わり、

相方は家に帰ってきた。


顔から大粒の涙が溢れ

その場に崩れ落ちる。


息を荒げ、呼吸もままならない。


私は慌てて駆け寄った。


抱きしめようと手を伸ばす。


だが――


手は空を切る。


なんで。


なんで、いなくなっちゃったの。


ああぁあ……。



言葉にならない嗚咽。



そばにいる!



届かない声

抱きしめることも

背中を撫でることもできない。



ここにいる。


ごめん。


ごめん。


ここにいるよ。



触れない相方を、

それでも抱きしめようとしていた。


相方は泣き続け、

その場でうずくまり動けない。



泣いて、泣いて、泣いて




やがて顔を上げた。


その表情を見て、私は恐怖した。


能面のようだった。


感情が消えている。


涙だけが、壊れた蛇口のように

止まらず流れている。


このままでは……。


死ぬのか?


違う!


生きてくれよ……!


叫んだ


声は届かない。


相方は依然と魂が抜けたように、

涙を流している。


その顔を見て、

私はようやく気付いた。



この人を壊しているのは

私の死だ。



このままではだめだ。


切り離す


さよならを、伝えないと。


私と歩くのは、ここまでと。


さよならを言わないと。



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