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8話 師匠2

「満足していただけたようですので、そろそろ授業を始めさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」


 ドラヴェルトはマグノリアの問いかけに頷く。


「ではまず授業を始める前にお尋ねしたいことがございます」

「はい、なんですか?」

「ヴェル様は治癒術にずいぶんとご興味がおありのようですね。フォルノスパーダ公爵家の皆様が剣の次に治癒術を重視されているのは存じ上げておりますが、どうしてそこまでご興味を?」


 どういう答えが良いだろうかとドラヴェルトは悩む。

 素直に答えるなら昔から興味があったが無難だろう。だがそれだと自分が知らない過去のドラヴェルトと矛盾が生じてしまう可能性がある。



 いや、アシュレットや母に疑問を持たれていない現状を見るに今更か。

 だが念のためにここは母の言葉を借りておこう。


「攻撃は剣で十分です。だけどそれでは怪我を負い治療を求める人が助けることは出来ません。だから僕は剣と治癒の両方を扱える人になりたいんです」

「そうなのですか、理由はよくわかりました。ではまず治癒術についての知識やご経験を教えていただけますか?」

「恥ずかしいですが、昨日「初心魔術書」という本を読んだばかりです。術も使うどころか本の通りに瞑想をして、自分の身体の中にエーテルのような力があるとわかったくらいです」


 ドラヴェルトは恥ずかしさから苦笑いする。



「昨日初めて瞑想をされて感じられたということですか?」

「はい、そうです」

「それは素晴らしい才能ですね。それならばそう遠くない日に治癒術を使うことが出来るようになると思いますよ」


 マグノリアが微笑みながら言った。



「本当ですか!」

「ええ、私がサポートいたしますので、一度瞑想して出来るところまでで構いませんからやっていただけませんか?」

「わかりました!」

「背中に少し手を置かせていただきますね」

「はい!」



 ドラヴェルトは床の上に正座になり、へそと額に指を当てた後に背筋を伸ばし瞑想する。瞑想を始めてすぐ体内、具体的には心臓のすぐ傍辺りにエーテルの存在を感じる事に成功した。


 ドラヴェルトは今度こそエーテルのマナ化を成功させようと心の中で『エーテルよマナに変われ』と念じる。


 エーテルが金と黒の二つのエネルギーに変わるが、混ざり合い弾けるように消えてしまった。


 諦めずにもう一度挑戦する。

 だがやはり途中で変換したエネルギーが混ざり合い散ってしまう。


 直感で金色の方がマナ。黒は違う何かだと感じるがどちらとも違うものなのだろうか?



「やはり駄目か……」


 毎回ここまではいくのだ。だがここから先にがどうしても駄目になる。

 一体何がおかしいというのだろうか。


「少しおしいですね。マナと同時にフォースが生まれています。せっかく変換したマナがフォースに反応して消えてしまっていますね。武家出身の方にはよくある事です。ですがご安心下さい、解決方法がございます」


 後ろからマグノリアの力強い言葉が聞こえる。


「本当ですか!? ところでフォースというのは一体何なんでしょうか?」


 ドラヴェルトは身体を捻ってマグノリアに尋ねる。


 フォースという言葉は聞き覚えがある。

 アシュレットが言っていた言葉だ。

 だがそんな言葉は魔術書には書かれていなかった。



「フォースをご存じではない……。本当ですか?」

「はい」


 マグノリアは明らかに困惑した様子で、何度か部屋のドアの方に目線をやって腰を浮かせる。


 だが結局椅子に座り直し、どこか落ち着かない様子で口を開いた。


「フォースとはマナと対を成す存在です。マナと同じくエーテルを変換することで生み出す事が出来ます。剣技を使う上で必須とされているものですが、本当にご存じありませんか?」

「……はい、知りませんでした。実はここ数週間より以前の事をあまり覚えていないんです。申し訳ないですが、何も知らない子供だと思って教えてもらえませんか」


 フォースとはそのようなものだったのか。

 自分が失敗したことに気づいたドラヴェルトは、動揺を表に出さないように注意しながら言い訳する。



「いえ、私も多少話は伺っておりましたが、想定が甘かったようです。申し訳ありません」


 マグノリアは膝に軽く手を付き、頭を下げた。


「重ねてお詫びいたしますが、治癒術を学ぶ前にまず基礎的な教養や歴史から学ぶことに致しましょう」

「ど、どうしてですか?」


 もしかして何か問題があったのだろうか。


「魔術を学ぶ上で無知は罪です。当たり前のことも知らずに、魔術を学べばどのような危険が起こるかわかりませんから」

「で、ですが……」


 身に染みるほどにわかる話だ。

 しかし術を学ぶ機会を逃してなるものかと、ドラヴェルトは食い下がろうとするが上手い言い訳が浮かばない。



「私のことを師として慕うのでしたらこれは譲れません」


 力強い目をしてマグノリアがキッパリと言った。


「……わかりました。師の教えに従います」

「ではこの世界の成り立ちから説明します。近いうちに様々な形式で確認テストを行いますので、真面目に取り組んでくださいね」

「はい……」

「この世界は偉大なる龍神が創造したと言われており――」


 これはあくまで弟子として、師の教えに従うだけ。

 それに努力をすればいつか術は教えてもらえるのだ。

 ドラヴェルトはマグノリアの話を聞き流しながら、自分を慰めることしか出来なかった。


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