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20話 魔術3

「……ェル様……ヴェルト様、ドラヴェルト様!」

「んんぅ……? なんじゃ騒がしい」


 誰かが自分を呼ぶ声が聞こえ、ドラヴェルトはゆっくりと目を開ける。

 

 視界には自分を見下ろすマグノリアの顔。

 最初は不安に満ちた表情だったが、すぐに安堵へと変化し、そして怒りへと変わった。


「ドラヴェルト様。お一人で勝手に魔術を使われましたね?」

「ま、魔術? まだやり方も知らないというのにどうやって――」

「ではあれはなんですか?」


 マグノリアが指さす方に顔を向ける。

 そこには開きっぱなしの魔術書が置かれていた。


 ぐ……まずい。


「あ、あれはですね。兄上からの贈り物で、授業までの暇つぶしにと読んでいただけです」

「それは……本当ですか?」

「も、もちろんです」


 ドラヴェルトは長椅子から体を起こし、コクコクと何度も頷く。


「偉大なる龍神に誓って本当に嘘はありませんね? もし嘘だとしたら師弟関係は解消させていただきます」

「……すみません。一人で使いました」


 項垂れ自白する。


「やはりそうだったのですね」

「魔術書でお気づきに?」

「それもありますが、ヴェル様に典型的なエーテル欠乏症が見られましたから。陣を省略されましたね?」

「はい」


 そこまでわかるものなのか。

 とドラヴェルトは感心する。


「やはりそうでしたか。陣はいわば設計図です。簡略化は出来てもまったく無しにすることは出来ません。今のヴェル様のように、際限なくマナとエーテルが消費されて終わりです」

「なるほど……」

「私がもっと危険性について言っておくべきでしたね。申し訳ございませんでした」


 マグノリアが深々と頭を下げる。


「いえ、師匠が謝られるようなことは……。勝手に一人でやった僕が悪いのですから」

「ところでどのような魔術を使われたのですか?」

「えっ、あーそれはそのひ、火の魔術です! あっ、ところでこの本には治癒術を学ぶと魔術を使えなくなる可能性があると書かれていたのですが、本当なのでしょうか?」


 いくら師匠といえど、真実を言うわけにはいかない。

 ドラヴェルトは咄嗟に誤魔化す。


「使えなくなる可能性があるというのは、事実です」

「どうしてでしょう? どちらもマナを使いますよね?」

「はい、その通りです。議論は絶えない話題ですが、理由ははっきりとはわかっておりません。火と水以外の第三の属性を用いるからという説が主流ですが、それを裏付ける古文書なども発見されておりませんから」


 はっきりとはわからない……か。

 勘と経験から考えると、今言った説が当たっているように思う。


「あの、ここだけの話にしてもらいたいのですが……」

「はい、なんでしょう?」

「実は魔術にも興味があるのですが、このまま治癒術を学ぶのはよくありませんか?」

「それはヴェル様の才次第としか言えませんね」

「やはりそうですか」


 そうなると剣術家に生まれた自分の血筋では、同時習得するのは厳しいかもしれない。魔術を優先したいが、半年後の試験を考えると治癒術をやらざるを得ないか。だがそうすれば……。


 ドラヴェルトは悩む。


 転生直後は最悪の場合、こんな家など出ていけばいいと考えていたが、今ではそれなりに情も湧いてきた。


 何かいい案はないだろうかと、ドラヴェルトはマグノリアの顔を見る。


「一般的にですが、陣なしに魔術を使いエーテル欠乏症に陥るのは、才がある人間だけと言われています。それに変換習得の早さを考えると、ヴェル様なら魔術と治癒術両方を学ばれても問題ないと思いますよ」

「本当ですか!?」

「はい」

「ではさっそく魔術の方を――」


 言葉の途中でマグノリアが首を横に振る。


「まずは治癒術をしっかりと覚えましょう。ヴェル様はフォースや剣術の修練もされているのですから、あれもこれもと手を出すと中途半端になってしまいます。それと念のため魔術書はこちらで預からせていただきますね」

「ぐっ……はい、わかりました」


 負い目があるドラヴェルトは頷くしかなかった。

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