18話 魔術
「読まないという手はないが、意図がわからんな。それにどこから情報が漏れた?」
ドラヴェルトは、基礎魔術書と銘打たれた本を見つめながら顎を撫でる。
可能性が高いのは母が兄弟には伝えてしまった。もしくはアシュレットか使用人がどこかで偶然知ってしまい、アスリオスに伝えたという線だ。
まず母の線は薄いだろう。
向こうから口止めを提案したという事もあるし、リスクを考えると兄弟に漏らす事すら危険なはず。
一方で使用人から漏れたというのは十分に考えられる話だ。
師匠が治癒術を使えることはこの屋敷に住む人間なら、ほとんどの人間が知っているだろう。
わざわざそんな人物を教師に選び、一般的な知識だけを教えるのはむしろ不自然だと聡い者なら十分に勘づける可能性が高い。
(もしくはこの世界特有の技術で知りえたか……)
前世ではこの世界のマナにあたるエナジーを感知する方法は、無数に存在した。
(今の知識では可能性を絞り切れんか。となると後は意図じゃな)
意図に関してはドラヴェルトを嵌めるためか、それとも逆に手助けして自分の味方にするためか。アスリオスと対面した印象では、どちらもありえそうで結論は出ない。
(いずれにしろ今の儂が考えても仕方のないことか。それより授業まであまり時間がない。今は少しでも魔術書を楽しむべきじゃな)
色々と考えるのを諦めたドラヴェルトは、さっそく魔術書を読み始める。
最初は大雑把に、そして二度目は気になる点を細かに読み込む。
初心魔術書という今思えば役に立ちはしたが何とも微妙な魔術書に比べ、この本は属性魔法の体系的な紹介に加え、簡単な魔法の陣の例やその呪文の内容までしっかりと載っていた。
内容は概ねドラヴェルトがマグノリアから聞いた通りのものだ。
魔術の行使にはまず第一段階としてエーテルをマナに変換すること。そして変換を無意識に行えるようになるまで修練することとある。
第二段階では基本的な陣の描き方と描く順番を修練する。
才能によっては省略可能な線に気づけることもあるが、最初の内は基本的な陣の描き方をマスターすることが何よりも大切なことのようだ。
基礎を固めてこその応用ということらしい。
最後の第三段階では基本的な呪文を丸暗記。
例として挙げられているのが、ブレイタという火属性魔法とアクシタという水属性魔法。それぞれ『我が敵に火を浴びせよ』と『我が敵に水を浴びせよ』と何とも単純でふわっとした弱そうな呪文だ。
ここまで読んでドラヴェルトが思ったのが、別に第一段階から第三段階を並行して学べばいいのでは。ということだ。
だが本によるとそれは近道のように見えて遠回りらしい。魔術の修練は困難極める道であり、一段階ずつ確実に習得し、次の段階へ進むことが古代文明でも推奨された真の魔法使いに通ずる唯一の道である。
と本に力強い文字で書かれていた。
「ふぅむ。まさかフォースの同時習得も推奨せんとはな。これは弱った」
本にはマナとフォースの同時習得は、せっかくマナの変換用に適応しようとするエーテル器官の成長を妨げる、魔法使いを目指す者にとって非常に愚かで嘆かわしい行為と書かれていた。
加えて、過去にフォースとマナ両方行使することを夢見た者は数多存在するが、結局それは皆すべて夢で終わり、悲惨な最後を迎えた。とまである。
(これはこの本を書いた著者の主観ではないのか? わからん)
こういった大げさで煽るような類の本は、魔法界隈でよく見かける。
大抵は自分をよく見せたいだけのもの。それか自分の進んだ道が間違ってはいなかったと、自分自身に言い聞かせているかのどちらかであることが多い。
「それにしても魔術では火と水属性の術しか使えんとはな。この世界の魔法は思ったより使えんのか?」
特殊な遺物を用いれば、魔法でのみ使用可能な上位属性を行使出来る場合もある。と記載されているものの、基本的に魔術は火と水の二属性のみ。
しかも才能がなければどちらか一属性が限界であると書かれていた。
本によれば上位となる魔法では、火と水の発展系である炎と氷に加え、雷、風、土、闇、光の五属性も扱えるようになるらしい。
だが実戦で用いるならば基本の二属性に加え、その他五属性のうちの一属性が一般的な魔法使いの限界のようだ。そして別々の属性魔法を同時に扱うのは魔法使いでも非常に難しいとされている。
ふとドラヴェルトの頭に一つの疑問が浮かぶ。
(ならば治癒術は何属性になるのだ?)




