15話 兄
「どうしたんだい? ヴェル。照れなくていいんだよ。さあ兄の胸に飛び込んでおいで」
まずい、どう対応するのが正解なのだ。
ドラヴェルトは正解を導くため必死に頭を働かせる。
発言とその容姿から、年上の兄弟ということまではわかる。
ならば何も気にせず飛び込むのが正解か?
だがどうしてか長年生きた経験が、目の前の男に簡単に気を許すなと告げている。
「どうしたんだい? あぁ、そういえば母上から聞いたよ。以前の記憶を失ったんだったね。残念な事だけど、生きてくれているだけで兄としては嬉しいよ」
「……ありがとうございます兄上」
「堅苦しいけど、仕方ないか……。そうだ! 僕のことを忘れてしまってるようだから互いに自己紹介といこうじゃないか。いいかなヴェル?」
「はい」
ドラヴェルトは頷く。
「じゃあ僕からいくよ。僕の名前はアスリオス・ブラン・フォルノスパーダ。二番目の兄さ。ヴェルとは六歳違いになるのかな、趣味はもちろん剣術。それとこうやって弟の面倒を見ることさ。よろしくね」
「ドラヴェルト・ブラン・フォルノスパーダです。十歳です。よろしくお願いします兄上」
「うーん堅苦しいなぁ。あっ、もしかして後ろのお姉さんのせいかな? 少し怖いかもしれないけど、僕の従者だから大丈夫だよ。ね、リンデール?」
リンデールと呼ばれた銀髪の女性は、アスリオスの方を鮮血のような赤い目を細めて少し見た後、ドラヴェルトに向かって一礼する。
「そうですか。兄上と従者の方にお会い出来て嬉しいです」
本当は嘘だ。
内心面倒な事この上ないと思っている。
それに言葉の節々が軽く感じることも影響しているだろうが、なんとなく裏がありそうな人物のように見え、どうしても警戒してしまう。
(どこか芝居くさい言葉と口調に大げさな動き。素直に信用するのは危険な人物じゃな)
女性のような長い髪をしているが、艶がありしっかり手入れしているのは見てわかる。
だから一見まともそうには見えるが、それがかえって目の動きを悟らせないような灰色の丸眼鏡を目立たせている。
ドラヴェルトは一旦、要注意人物として適切な距離を保った方が良いだろうと判断する。
こういう雰囲気の輩は前世でもよくいたからだ。
そして何度か痛い目にあったことがある。
「ありがとう。僕も嬉しいよ。ここには偶然立ち寄ったんだけど、こうして会えるとは思わなかったな……。そうだね。これも初代剣帝様のお導きかもしれない」
「はい、そうかもしれませんね」
「そうだ! 良い機会だし僕が少しヴェルのことを手伝ってもいいかな?」
「アスリオス様それは……」
アシュレットが割り込む。
「あぁ、話には聞いているよ。ヴェルの訓練に干渉してはいけないってね。でもそれは使用人やうちの家門の剣士たちが言われただけで僕は何も聞いていない」
「ですが……」
「僕はヴェルの兄だ。少しくらい弟を手助けしてもいいじゃないか。そうだろう? 弟を助けもしない兄には絶対になりたくないんだ、僕はね」
その言葉にアシュレットは何も言えなくなったのか、無言で一礼して下がった。
「それじゃあさっそく始めようか、ヴェル。今はどれくらいのことが出来るのかな?」
「エーテルを意識的にフォースに変換出来るようになったくらいで、本格的な訓練はこれからです。だからまだ人見せられるようなものではありません」
せめてもの抵抗で、遠回しに今はやりたくないという含みを持たせる。
「なるほど、まだ無限の可能性を秘めた段階というわけか。うん、いいね。僕もヴェルくらいの頃はそんな感じだったけれど、毎日がワクワクして楽しかったなぁ。……おっといけない。それじゃあさっそくフォースを実際に使っていこうじゃないか」
「いきなりですか?」
「フォースはね、習うより慣れろなんだ。そうだろう二人とも?」
アスリオスの言葉にアシュレットとリンデールの二人が頷きで答える。
どうやら兄との訓練は避けれそうにないか。
ドラヴェルトは心の中で大きくため息を吐いた。




