12話 変換2
「そうなのですか。師匠と同じ色とは嬉しいですね」
「えぇ、そう言っていただけると私も嬉しいです。同じ色といえばマナの色が近しい程、マナの融通や集団で唱える術が行使しやすくなり、また術の効き目もより高くなります。知識として覚えておいて下さいね」
ドラヴェルトは頷く。
「わかりました。これでもう魔術は使えるのですか?」
「理論上は可能です。ですが意識してエーテルからマナに変換している今の段階では厳しいですね」
「やはりそうですか……」
ドラヴェルトは肩を落とす。
「魔術を行使するにはマナ変換を行い、その状態を維持しつつ頭の中で陣を描きながら呪文を唱えなければなりません。全て意識しながら行うのは非常に難しく、失敗するリスクも高いのです」
「なるほど……」
納得のいく説明だ。
「瞑想の姿勢ではなくどんな状態でも変換を無意識に行えるようになってから挑戦するのが理想ですね」
「わかりました」
この世界はやはり前とは異なる世界か。
術に関する情報と学んだ歴史からドラヴェルトはそう確信する。
そして面倒な事にこの世界で魔法を使うには、中々に面倒な手順を踏まなければいけないようだ。
前の世界では変換などの作業は必要はなければ、陣を描く必要もなかった。
極論、この世界で言うマナが十分あればどんな魔法でも使用が出来るとされていた。
だが実際には魔法に対する理解や知識が必要不可欠。
力だけはあるお貴族様が火を一つ起こすだけで全ての力を使い果たしてしまう。
なんてことがよくあった。
それでも魔法自体は力さえあれば誰でも使える可能性があっただけ、この世界に比べると良かったのかもしれない。
とはいえ感覚的にこちらの魔法は決まりが多い分安全で、向こうの魔法は可能性もあるがその分間違えた場合の危険性も高い。
だから良し悪しかもしれないが。
「いくつか質問があります」
「ええ、どうぞ」
「瞑想をせずとも変換出来るようになるのはどれくらいかかるのでしょうか?」
「才能があればすぐにでも。なければ一生かかっても残念ながら不可能です。ドラヴェルト様は才能がおありなので一月もかからないと思いますよ」
そう言ってマグノリアが微笑む。
「ありがとうございます。では陣と詠唱にはどのような役割があるんでしょうか?」
「いい質問ですね。陣は術の内容を指定し、詠唱は術の効果を増幅する役割を持っています」
「なるほど。では陣は省略出来ないものの、呪文は詠唱せずとも問題ないという認識で合っていますか?」
ドラヴェルトは念のために確認する。
「はい、その通りです。ただ陣には一般的な決まった形もありますが、才能や経験によって形や描く順序が大きく異なることもあります。基本的には単純な陣で済む方ほど才能や実力があると思っていいですね」
先日、マグノリアが治癒術を使った時はほぼ円だけのかなり簡単な形の陣だった。
初歩的な治癒術だったらしいが、師匠はやはり才能がある人物なのだろう。
「ありがとうございます。今、基本的にはと言われましたが例外もあるのですか?」
「はい。マナ消費量が増え安定性も下がりますが、ある程度の範囲内であれば実力より単純な陣で術を行使することが出来ます。ですから戦いなどで駆け引きが必要な時は、あえて単純な陣を描いて相手を警戒させる。といった戦法を取ることもありますね」
「消費量はどの程度増えるのですか?」
「省略の程度によりますが、数倍から数十倍ですね」
数倍から数十倍か。
緊急時や短期決戦以外で陣を省略するのはあまり得策とは言えないな。
「なるほど。では呪文にも陣のように決まった型のようなものはありますか?」
「陣ほどではないですが型はありますね。ですがどの国も大本を辿れば古代文明の遺跡から発掘された魔法書を元に術や魔法を習得しているので、どこの国でも非常に似通っています」
どこも古代文明の遺跡を元にか……。
「ありがとうございます。では最後の質問ですが、呪文を詠唱することによってどれくらい増幅されますか」
「詠唱の増幅度合については大体二、三倍程度でしょうか」
ニ、三倍か。その程度なら場合によっては詠唱を省略するのも戦術として有効だな。
「ありがとうございました。それではさっそく治癒術の方をお教え願えますか」
「ヴェル様。先ほど申し上げた通り、まずは意識せずにマナ変換出来るように訓練致しませんと……。それに公爵夫人様から、マナの変換が終わったら次はフォースに変換する訓練を行うように申し使っておりますので」
「なんと! どうしてですか!」
ドラヴェルトは思わず立ち上がって叫ぶ。
「マナの変換に慣れ過ぎてしまうと、エーテルをフォースに変換する流れを習得するのが難しくなるからです。ですから今の内にどうしてもやっておかなければなりません」
「ぐぬぬ……。わかりました。ではフォースへの変換が出来たら治癒術を教えて下さると約束して下さい」
「もちろんです」
「絶対ですよ」
「はい」
いつになったら術を学べるのか。
そんな悶々とした気持ちを抱えながら、ドラヴェルトは何とかその日のうちにフォースの変換に成功した。




