53マモ 神様神様詐欺
鍵音はショックを受けて、走り去った。なにせ本来のルートではあっさり死んでたというのだから、本人としては死ぬ恐怖も相まっている。
「うぅ、わたわたわた、私はこれから死ぬのかなぁ、こういうパターンだと、本当のモブは皆の盾とかになって死んじゃうんだよね。そして、『本当の未来よりも長生きできたから私は幸せだったよ』とか辞世の句を口にしてフェードアウトしちゃうんだー」
やや被害妄想の気もあるが、元々高校に入学するまでは、陰キャのコミュ障だった鍵音だ。その心は小心者で、あんたは死にましたと言われて平然とできるわけがなかった。
「うぅ……皆は神様に選ばれたのに私だけ選ばれてないし。力が力が欲しいよ。誰か力をくれないかな、伝説レベルの神様で美少女だとなおいいけど」
なので他力本願をすることに決めた。自分の力の弱さは知っているし、この危険な世界で修行とかをする時間もなさそうだからだ。しかも自分は高校から美少女になっている。男たちの食い物にされるべく、大皿に乗っているも同然なのだ。
まぁ、外に出るのは怖いし、人気のない場所とかだとホラー映画的な展開だと化け物に殺される可能性があるので、人がたくさんいる所にいるのだが、厨二病的なセリフで祈りを捧げていた。
普通ならば、そこで助けなど来るわけがなかったが━━。
『力が欲しいのぉ?』
どこからか声がかけられて、自分で祈りを捧げてあれだが、驚いてしまった。こんな願いは宝くじで1等をくださいと祈るも同然だからだ。
なので、驚きで声をかけられても返すことも出来ずにいたが、幸運なことに声は続く。
『大天使ミカエルだよぉ。あなたの加護をするから信徒になるぅ?』
甘い女の子の声、これは信用できそうだと、了承しようとするが
『俺様こそは大天使ガブリエル。俺様の信徒になるか?』
『天才たる僕は最高天使ルシフェルです。ついでに僕の信徒にもなりなさい』
『私は大天使リリス。今なら4人全員の信徒となれるから、了承しなさいな』
まさかの他の天使たちも声をかけてくれた! 約1名怪しい天使もいるが、4人の加護である。
(やったぁ、まさかの4人だよ。そっか、私は死ななければ、チート的な能力を持つ人間だったんだ! ふふふ、これなら皆と安心して行動できます)
死ぬはずの未来で死ななかったモブのもう一つのパターン。天才的な力を持つキャラだと思って狂喜乱舞である。
「ママ〜、あのおねぇちゃん、鹿せんべいを持って鹿まみれになる人みたいにマーモットが群がってるよ〜?」
「きっとキャベツを持ってるのよ。あとで私たちもキャベツを用意しましょうね」
マーモットと戯れるお部屋にて祈りを捧げていたので、母娘がなにかを言っていたが、喜んでいた鍵音はまったく耳に入れなかった。ノシンと鍵音の頭の上に乗っていたり、まもんと肩に寄りかかっているマーモットがいたけど、小動物に関わっている暇はないのだ。
「はい! 私は4人の信徒となります!」
こんなチャンス二度とないはずと、SNSで知り合った投資家の投資の誘いに乗るようにあっさりと信徒となると誓うのだった。
「こ、これは!?」
了承したら、肉体に膨大なエネルギーが流れ始めるのを感じて鍵音は驚愕してしまう。
『よろしぃ、そんじゃこれからはミカの信徒ねぇ』
『ガブリエル』
『ルシフェル』
『リリス』
『4人の力を一つにし、あなたに超越的なスキルを差し上げましょう。悪魔を封印し、その力を扱えるチートスキルだよぅ』
そうして鍵音は光に包まれて━━。
(やった! これからは私が主人公だよ! これからはデビルサマナー鍵音としてブイブイ言わせちゃうんだ。自伝の用意もしておかないといけないかな)
万能感を感じ調子に乗るのであった。
◇
「なにこれ?」
鍵音が飛び出して、慌てて追いかけていったランが俺を放置したので、俺ことマーリンはテチテチと憩いの間に移動して一休みしようとしてたんだけど━━。
「魔本だよぉ、落ちてたの」
そうして、一冊の本を見つけました。装丁は青で金で文字が描かれた豪華な本だ。珍しくミカたちは噛みちぎることもなく、本をペチペチ叩いてる。
「魔本って、魔法でも使えるようになるのか? せっかくの異世界なのにテレキネシスしか使えなくて残念だったんだよね」
「んとね、この本は悪魔を封じることができるみたい。封じた悪魔の能力を使えるんだって。あと、近くに悪魔がいたら、検知、強制顕現もできるんだって、便利だよねぇ」
「そんな本が落ちてたの!? ラッキー、これは俺が使っていいの?」
「ミカはおうちに藁を敷くのに忙しいから別に良いと思うよぉ」
ふむふむ、なんてナイスなタイミングだ。神様モドキの悪魔たちを炙り出すことができるなんてね。早速、スロットとかいう面白いスキルを持つランの神様に確認しに行こうっと。
テテテテテテ
ダッシュでランを探す。鍵音を探すために一人で行動しているからちょうどよい。
「まずはフォルトゥナとかいう奴が詐欺師かどうかマ王的な面接をしてやるぞ」
神様か悪魔かを見極めるのは極めて困難だと思ってたのに、まさかの便利アイテムをゲットしちゃった。なぜにそこら辺に落ちていたかは不明だけど、過程よりも結果を大事にしておきたいマーモットです。
「あ、いた」
ショッピングモールを探索していると、ランを発見。都合のよいことにゴミ置き場で他には誰もいない。ゴミ箱の中とか、タンスの隙間に人間はいるのかな? 探すとこおかしくない? まぁ、それを気にする場合じゃない。
「お~い、鍵音ちゃんどこ〜? 神様なんていない方が多いんだから気にしないで〜。ほら、スロットで出たタワシあげるよ〜」
果たして本当に探す気があるのかは不明だけど。
「あ、マーモットが本を持って2本足で歩いてる! 可愛い〜、芸ができるなんて優秀なマーモットなんだね」
本を持って移動するには2本足で歩くしかなかったのだけど、レアなみたいでランは大騒ぎだ。分かる分かる、マーモットが歩くだけで人は幸せになるもんね。
さて、それはそれとして魔本の力を見せてもらおうか。
「魔本よ、悪魔がいないか探知せよ!」
『悪魔探知』
お手々を魔本にのせて、魔力を注ぐと、魔本が光り輝き、周囲に不可視の魔力波を流していく。床や天井、荷物などは魔力波を受けても何もないが……。
『前方五メートルに悪魔を探知しました』
レーダーよろしくピコンと反応あり。凄い、本当に悪魔を感知できるのか。反応はランの頭上、予想はしていたが神様ではないらしい。
「なら次は顕現だ。奴を受肉させ、本体を顕現させよ、魔本!」
『顕現』
命じた瞬間に、ごそっと体内から魔力が失われていき、一瞬目眩でよろけてしまう。だが、魔力を大量に引き抜かれた甲斐はあったようで━━。
ランの頭上にピンク色の大きな肉塊が現れると蠢きながらその姿を変更させていき、人型へと変わっていく。
そうして、肉塊は俺たちが見守る中で、羽衣を着る神秘的な女性の姿となるのであった。
「私こそが運命の神『フォルトゥナ』。定命なる者よ、私を受肉させてまで復活させるとはそこまで大変なことがありましたか?」
「わ、わあっ!? フォルトゥナ様が現れたよ、もしかして私はペルソナに目覚めたのかな? トリガーはマーモットの鳴き声だったんだ!」
優しげな微笑みと、柔らかな人を安心させる歌声のような美しい声。人間なら一瞬で魅了されるに違いない。しかしマーモットなのでそこまで影響は受けないのだ。そして、ランよ、マーモットの鳴き声をトリガーに発動するなんて、大変すぎるだろ。いつもマーモットを抱っこしてダンジョンを探索したりするつり?
「なにはともあれ、フォルトゥナとかいう女神かどうか確認してやるぜ」
『理解』
敵の正体を露見させる万能の鑑定。相手の神髄を見極めるマ王のスキル。キラリンとお目々が輝き、鋭き眼光にて敵の正体を見破る。
『運命を切り開き、人の願いを叶えてあげる運命の女神フォルトゥナ』
あれ? 本当に女神?
『願いを叶えるにあたり、偶然性を取り入れたスロットを使う。スロットのコインは寿命であり、使いすぎて若くして老人となって絶望する人間を見て愉悦に浸る性格のため、ソロモン72柱の一柱ヴォラクと名付けました!』
『悪魔じゃん! 前のセリフいるぅ? もう素直に大悪魔ヴォラクと言えば良いのに!』
『彼女は未だフォルトゥナの仮面を被っているため、女神フォルトゥナなのですよ、プレイヤー。ですが、ご要望通りに固有スキル『マ王の真言』即ち『マ言』を経験値一万を消費し取得しました。大悪魔の真名を言葉に、その正体を暴いてください』
『マ言:力あるマーモットの真言にて偽りを破る』
なんかまた勝手にスキルを取得されちゃったが、『龍言』みたいにかっこいいから今回は良いか、マ王にふさわしいスキルだよね。
『マーモットの王マーリンの名において、偽りの仮面を被りし悪なる者ヴォラクよ、その正体を表せ! 太陽の日差しのもとに、善なる存在のもとに、可愛いマーモットのもとに命じる!』
ノリノリでピギーとぷにぷに肉球が可愛らしい、もふもふな小動物マーモットだ。その言霊には力が乗り、フォルトゥナのフリをするヴォラクを暴く。
「ぎ、ぎぇぇぇ、なんだ、なんなのだぁ、熱いっ、私の身体が熱いっ! と、溶ける、神隠れの術が……。そんな馬鹿なぁっ!」
美しき女神はその身体から煙を噴き出し苦しみのたうち、皮は溶けて皺だらけとなり、背中から骨だけで作られた翼を生やす。誰をも魅了する美しい顔立ちは老婆となり、乱杭歯が剥き出しとなり、黄色く濁った瞳が憎々しげに俺を見てきた。
「ど、どういうことじゃ? このヴォラクの魔法がマーモットの鳴き声を聞いたとたんに解けるとは!? マーモットの鳴き声に破魔の力でも宿っていたと?」
どうやら俺のかっこいい真言はピギーとしか聞こえなかった模様。失礼な話である。
「しかも私が受肉しているっ! これでは肉体を滅ぼされたら数万年は復活ができなくなる。危険じゃ。危険すぎるぞ、マーモットよ! かくなる上は、この拠点のマーモットを皆殺しにして、ゆっくりと受肉を解除するしかあるまいっ」
ガキン
ヴォラクが叫ぶと同時に俺は魔本で剣を防いでいた。いつの間にかランの瞳は虚ろとなり、剣を抜いて襲いかかってきたのだ。
「だが、受肉できたということはこの世界に直接介入できるということ。ふぇっふぇっふぇっ、考えなしの愚か者だが、こいつは一流の剣士よ。こいつに人間を殺させ、後に自分のしたことに哀しみ、絶望する感情を味わうとしようぞ。ついでにマーモットも狩ってくれるわっ」
浮遊するヴォラクの下で操られたランが剣を構える。
「やれやれ、お前の野望は最初にマーモットと出会ったことで終わりだとわかってないようだね」
マ王の力を見せてやるから、驚くなよ?
俺は盾代わりの魔本を手に、ピピピと鳴くのであった。
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