51マモ 拠点作り
ニホンマーモットの本来の巣穴はアリの巣に似ている。寝室やご飯の保管庫、トイレもあるし、居間もあるしお風呂もある。高度な社会性を持つ驚きの知性を持つ存在、それがニホンマーモットなのだ。マーモットの生態が違うと思う人はニホンマーモットの生態を調べてもらえば納得してもらえると思う。詳しくは民明書◯辺りに載っていると思うので調べてみると面白いかもね。
「うぅ、これが本物の巣穴なんだ。俺たちマーモットはこの巣穴こそが最高のおうちだったんだね」
俺は感動しながら、高ステータスで振るわれる腕で土をホリホリ掘っていきどんどん巣穴を広げていく。高地の草原に似たダンジョンの丘のように盛り上がっているところをホリホリだ。
「そうだな、俺は皆の寝室を作るぜ、ルー手伝ってくれ」
「わかりました。天才たる僕の指示に従ってくれれば美しく暮らしやすい巣穴になること請け合いです」
マーモットたちは群れで体を寄せ合って巣穴で寝る。今までは巣穴を掘ったことがないけど、本能が知っていて、ガブもルーも大喜びで、尻尾をぶんぶん振りながら奥を掘っていく。
「ちゃんと隅っこも作るのよ。そうね、私はリビングルームを作るわ。ソファと冷蔵庫は必須よね」
「それじゃミカは床はフローリングにして、浴室も作るねぇ」
リリーとミカもせっせと働き、通路をコンクリートで補強した後に、ソファと冷蔵庫、浴室を作っていく。通路は冷たい感じを与えないために、クリーム色の壁紙まで張る凝りっぷりだ。もちろん電灯もつけてエアコンも設置済み。窓もつけようかな、吹き抜け部分も作ろうか?
これこそが野生のマーモットの暮らしだ。下級マーモットが入れないと困るので天井は五メートルくらいの高さにして、ショッピングモールの家具屋から持ち出した絨毯も敷いてと。
コロンと寝そべると快適で良い感じ。これこそが野生生活。俺たちはそろそろ野生のマーモットに近くなったといえるよね。
「ふふ、こんな力もダンジョンマスターはあるのね。少し楽しくなってきたわ」
リリーだけは土を掘るとブロック状に変わっていた。石も木も全てブロック状になっていて、床にブロックを並べていく。
何をしているのだろうと見ていると、コンクリートに変わったり、絨毯に変わったりしてた。どこの地雷クラフトゲームだとよツッコミたいけどダンジョンマスターだからこれくらいの力はあるんだろうね。
マーモットに転生して数年。初めて俺たちは野生に帰り、本気で巣穴作りをしたのであった。俺もリリーのスキルに変更して、クラフトを楽しもうっと。100万匹が住める巣穴にするんだ!
◇
━━マーモットたちが夢中になって巣穴を掘っている間、人間たちは突然現れた草原に呆然としていた。
そして、アミは内心オロオロと動揺していた。創造されしマーモット族の頼れる怜悧な顔立ちの美軍人は常に動揺せずに、常在戦場で冷静さを崩さないが、それも限界があり、表向きは冷静で怜悧な頼りになる顔つきをしているが、内心はキャパオーバーだった。
無理もない。廃墟が半径1キロメートルとはいえ、ただの草原となったのだ。しかも境界を越えた先は雪積もる廃墟であるし、極寒の風は春のそよ風となっている。絶対に普通ではない。
しかもである。
「ここはいったいどこなんだ? ショッピングモールで目覚めたと思ったら、今度は廃墟が草原になったぞ?」
「マ王様のお力というやつでしょ? あなたはきちんと説明を受けていないからよ。転生する際にマーモット族になるって下級マーモットが説明してくれたじゃない。マ王様ってアミさんかしら?」
「おとーしゃん、マーモットに触っても良いかな? あの子たちと一緒にあしょんで良い?」
新たなるマ族の会話が聞こえてくるがその内容は最初に選ばれしマ王様に忠誠厚いマ族1000人と違い、どう考えても一般人だった。
(無理ですっ、この人たちにボスを崇めよとは言えませんっ。さすがに変だと思われてしまいますっ。かくなる上は……)
いくらマ王様に忠誠を誓うアミだって、小動物を崇めよとは今は言えない。ボスは偉大な方だが、地面に頭を突っ込んで夢中になって巣穴を作る小動物が貴方たちの支配者と伝えると頭がおかしいのか、本当ならば反乱を起こそうとすることは確実であった。
なので、軍人たるアミは苦渋の選択をすることにした。
「草原に変化したのは、魔女の能力であります。詳しくは言えませんが、ここに貴方たちの家を作ると良いでしょう」
誤認しやすい情報で、人々に説明することとした。普通はこの説明で納得するのは難しいことはマーモットでもわかる。だがアミは日本人を信じていた。
「『魔女』? 『魔女』ねぇ、なぁるほど、俺の歩んだ世界に存在しなかったことと、その強力なスキル。あんた憑依者だろ?」
異世界転移転生ものに慣れすぎている人種であると。
「わかってるんだよ。こういうパターンがある可能性があることもな。ジャイアントゾンビが出現しなかったこと。俺も見たことのないチートスキル持ち。へっ、あれだろ? パターンとしては憑依者特典でチート持ちだけど、この世界の転移者は元から固有スキルが特別だから除外するとして、それならこの世界はゲームの世界とそっくりであんたはガチゲーマーとかか? 知識チートでスタートから強くなったとかなんだろ?」
見野というアホが訳知り顔で絡んでくるほど、日本人は異世界ものに慣れ親しんでいて、アミのアホな説明をすっかり信じ込んでいるので一安心である。異世界ものを知らない人たちはなんだそれと頭を傾げるが、そこは空気を読む日本人たちなので、とりあえず納得したフリをしていたりもした。
「ここは残念ながらゲームの世界ではないのであります。自分の固有スキルが他の人たちよりも強力だったというところでしょうか」
「そっちかよ、そうか、ハズレスキル『マーモット遣い』だけど、実は最強になれるスキルでした、とかだろ? ハズレスキルが実は強いとか古典的なテンプレだもんな」
新たなる小説が書けそうな題名である。『異世界でマーモットの王になりました』とかに近い。自分の中の常識に惑わされて、アミの事も疑わないので、内心ヒヤヒヤものであったが予想通りで安堵しているアミである。
「スロットでタワシがまた出た私よりもハズレスキルなの? もしかして仲間かな?」
「幸運はぁ!?」
「マーモットを幸運にも撫でられたの」
「お前のはハズレスキルじゃねーよ! なんでそんなことに幸運を使うの!? こいつは見捨てて、チートアイテムをもらえば良かった!」
「酷いよ、マーモットの噛む力はとても強くて、大怪我するから気をつけないといけないんだよ? 再生能力のある妖怪人間じゃないんだからね」
というか単にこの人たちがアホなだけではとの疑いも、見野と数奇のやり取りを見る限り思うが考えないことにする。
「一万人の家屋を作るには、資材がありませんよ、アミ殿。外に出れば手に入るとは思いますが……」
心苦しそうな表情のヴェア男爵の言うとおり、見かけは資材が足りない。一万人という人間の家屋を建てるには、危険であるが外に出て資材を━━。
「あのあのあの、資材、ここここ」
「資材ですか? むっ、それは……」
鶏の変化した姿かと思われるコミュ障の美少女本屋が手のひらに乗せたものを見せてきて、アミは首を傾げる。
なにせ、小さなサイコロ状の塊だったのだ。
「なるほど、本屋さんの言うとおり、アミさんの能力はチートスキルの中でも最強クラスなんですね。ああやって使うんでしょう?」
物腰の柔らかい遠藤という人間が、指差す先はマ王様たちだ。マ王様たちは手慣れた様子でブロックを巣穴に張り付けて並べると━━手のひらサイズのサイコロが大きくなり、巣穴にピッタリと張り付くと、ぴかりと光り巣穴を補強した上に見栄えのよい煉瓦のような通路となる上に床はフローリングに変化するのであった。
「おぉ~、これ私知ってる! カクカクとしたブロック状の家屋を建てる地雷クラフトじゃなくて、ごく自然な普通の見た目に変える仕様のマモクエビルダーズタイプだ!」
目を光らせて得意げに叫ぶ数奇の言うとおり、マモクエビルダーズタイプとは、掘って手に入れた資源が手のひらサイズに小さくなるので、それらを家の形とかに並べると資源が大きくなり家になるお手軽なシステムだ。苦労しなくとも、幼女でもお家を作れるシステムは、マーモットにピッタリであり、巣穴はモダンで快適な物に変化している。
そして、石や土、木を次から次へと高速ドリルのようにマーモットクローでブロック状にしていくマーモットたちだが、資源を余らせてそこら中にブロックを散らかしていた。
「わ~い、ニニーもお家作ったげる! んと、素敵なお家を作るのよ〜」
もちろん幼女がそんな面白そうなことを見逃すことはなく、ちょこちょこと並べていくと、家屋の形になった途端に光り、豆腐状のお家に変わる。幼女に建物センスはない模様だが、石造りのお家ができてご満悦で、ふんふんと鼻を鳴らすと、床に寝転ぶのであった。
それを見た人々も最初は驚いていたが、ゲームに慣れているためか、すぐに気を取り直すとブロックを集めて、建物を作るべく並べ始める。正直言ってたくましすぎる人々だ。
「とりあえずアパートとかにしたらどうだ?」
「一軒家にしておきましょうよ。これなら簡単に作れるわ。念願の一軒家よ、一軒家、私たちの稼ぎじゃ無理だった一軒家よ」
「俺プラモとか不得意なんだよ、細かく作れるかなぁ」
我先にとブロックを集めていく人々。一万人分のブロックだから大変そうだが、マーモットクローが振るわれるたびに資材ブロックは大量に生まれており、争うことなく人々は家を建てていく。この状況に慣れたか、先見の明がある者は、お店形式にして建てたり、これからも増えるだろう人々のためにマンション・アパートを作っていき、一万人の家屋は半日も経てばショッピングモールを囲むように住宅地として生まれ変わるのであった。
マーモット王国は遂に街を手に入れたのである。人口一万人の拠点を手に入れて、マーリンは本格的に活動を始めることとなる。
身を寄せ合ってすよすよ寝ているマーモットだが、恐らく活動を開始する予定だ。
なにせ、建物は作れても家具はまったく足りないので。
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