50マモ 拠点の危機
外部からの襲撃でもなく、内部の反乱でもないのに、マーモット王国は建国以来のピンチに陥っていた。
「まきゅきゅ、恐らくは陰に隠れている黒幕が仕掛けた作戦に違いない!」
ペチペチとテーブルを肉球ハンドで叩くマーモットのマーリンです。今の拠点は一万人の下級マ族が増えて、満員電車よろしくぎゅうぎゅうです。このショッピングモールはさすがに一万人を収容できるほどの大きさはないし、そもそもゾンビ映画とかでショッピングモールに立て籠もる人たちが一万人とか見たことないよ。避難所に訪れて結局避難所を崩壊させる主人公でも一万人もいるのかよとポカーンとして、群衆のなかに埋没していくに違いない。
「そうだよなぁ、俺様たちは地下に住めば良いけど、人間たちは地下に入る事もできないもんな」
「住む場所を増やすために回し車を撤去するのは断固反対しますよ。天才たる僕の理論では、このように文化的芸術的な物を撤去し始めるのが文明の衰退の始まりといいますから」
ガブはのほほんと気にしていないが、被害が直結しているルーは回し車にぺたんと寝そべり、絶対に撤去させないぞと断固抵抗の意思を見せている。撤去しようとしたら両手を上げてピギーと威嚇するので、誰も近寄れなかった。
「それにしても今回の召喚は人が多すぎよね。あ、そこそこ、そこら辺をブラッシングしなさいな」
「今のうちに隅っこを確保するよぅ。わ~い、初めての隅っこ。おやすみ〜」
下級マ族のお膝の上に乗って、気持ちよさそうにブラッシングを受けるリリーと、リリーが珍しく隅っこから出てきたので、隅っこでお昼寝するミカだ。
うん、基本的に皆はぜんぜーん危機感を感じてない。なぜならば俺たちマーモットには地下2階がある。マーモットしか入れない巣穴で、時折現れる魔物を倒して、のんびりとご飯を食べて暮らせばいいからである。いや、ルーだけは回し車が好きだから焦ってるけどさ。
「申し訳ありません、陛下。我らの苦労を押しつけるなど、臣下として最低としか言いようがありません。かくなる上はこの腹を掻っ捌いていていて」
侍みたいなことを言い始める下級マ族がいたので、ペチペチと叩いておく。彼らは俺たち上級マーモット語をまだ覚えていないから話せないはずなのに、ニュアンスでこの苦境を話し合っていると推測した模様。
「というか、推測しなくても簡単に分かるけどね、この状況を見たら」
はぁ~、とため息をついちゃう。マーモットが2本足で立ちコテンと小首を傾げてため息をつく姿はラブリ~としか言いようがないけど、現状ショッピングモールは悲惨の一言だ。
もう部屋に入れないので、新たに現れた人たちは通路で寝泊まりしているし、そもそも衣服が全然足りなかったので、カーテンやらテーブルクロスやらまで持ち出して、衣服代わりとしていた。これ、もしもなにも考えずに廃ビルで使ってたら凍死者続出だったろう。
(メイドさんの言うとおり、このシステムには悪意がある。後出しの仕様説明どころか、説明すらしないのがAIアシスタントだからなぁ。これ、他の王たちはどうしてるんだろ? ……いや、待て待て、待てよ? ジャックオーランタンは自分の眷属をどうやって増やしていた? あいつは人間を直接改造していたと言ってたな)
ショッピングモールに到着して、子供たちが何をしたかと言うと死んだ子供たちへの黙祷だった。何をしてるのかと不思議に思ってたら、話を立ち聞きしていたら、驚くことに神農の信徒となっていた子供たちがジャックオーランタンに改造されていたとのこと。
(なんというか、信徒となるとジャックオーランタンになるとか、どう考えても悪魔に魂を売り払って自身も悪魔になるってことじゃんね。メイドさんは後々真実はわかるだろうと言ってたけど、神様のふりをする悪魔たちが跳梁跋扈しているのは間違いない。でも神様の全てが悪魔か、そして俺の加護をする神様が悪魔かも分からない。AIアシスタントもそうだけど分からないことばかりだよ。でも、俺の眷属創造仕様と他の王の眷属創造仕様が違う可能性は高いな)
レイ曰く、善人すれすれラインの死せし者たちを復活させていると言っていた。今いる人たちを改造するわけではないので、その点が大きく違う。
(まぁ、今考えても仕方ないか。今は遠からず訪れる食料危機と、すし詰めとされた人たちのストレスを緩和するためにも、とにかく新たなる拠点が必要だ)
ストレス緩和も大事なのだ。ここにも実はおかしな点がある。
「なんで最初に飯屋で召喚した人たちは若い男女で忠誠心マックスなのに、今度召喚された人たちは老若男女バラバラで、俺に対する忠誠心も低いんだろ? というか、自身が下級マ族だとも認識してないよね?」
「そういえば、あの人たち、記憶が薄っすらとあるようだよねぇ。家族で固まってるし、自分たちが過去にどういう風に生きていたのか、ちょっぴり記憶が残っているみたいだよぉ。だからこそ家族愛とかで団結しているけど、しっかりと運営しないと、すぐに崩壊するかもぉ」
藁の上にヘソ天で寝っ転がるミカの意見のとおりだ。新しい人たちは元の世界の記憶があるっぽいので、なんでここにと不思議そうにしつつも、記憶がはっきりとしないためか文句を言わずに適応している。それでも時間の問題で不満が噴き出てくるだろう。
ウ~ンウ~ンと考え込むけど、これ詰んでない? 外は豪雪で一歩外に出れば死ぬ可能性は高い。新たなる拠点作りなど不可能だろう。
「まったくもぅ、この間一人で考え込むなって言ったでしょう? 私の能力を忘れたのかしら?」
ブラッシングをされて満足そうなリリーが眠そうにうつらうつらとしているけど、ちょいちょいと手を振る。
なるほど、そういえばリリーの能力は拠点改造にぴったりだ。また悪い癖が出ちゃったな、反省。
「リリーのダンジョンメイカーで拠点を広げれば良いのか。なら、話は簡単だ。どこかで偉業を成し遂げて、経験値を稼いで拠点を大きくしよう」
ダンジョンマスターの能力を使うためにも経験値を稼がないとな。リリスは全ての経験値を使ってしまったはず。拠点を大きくするためにもかなりの経験値が必要となる。もう一人くらい王を倒さないと駄目かな。
「え? 経験値は20000あるわよ? マーリンが稼いだじゃない?」
「……ジャックオーランタン戦でリリーはいなかったよね?」
「パーティーはどんなに離れていても経験値が入る仕様のようね。もう酒場に置いておくとレベルが上がらずに結局放置するという時代は終わったの。今は酒場にいても同じ経験値が入るし、隅っこで寝ていてもレベルは上がる仕様なのよ」
「現実となると物凄い理不尽な仕様だよね! 助かるけどさ、本当に助かりはするんだけどさ!」
リリーの言うとおり、昔のRPGは多数の仲間がいるのにパーティーに入れていないと経験値が入らない仕様だったので、レベル差がついて新たなる仲間も使わない仲間も全員クリアまでお蔵入りとなってしまっていた。昨今のゲームでは緩和されていて、馬車にいるどころか、酒場でのんびりしていても経験値が入る仕様がデフォルトとなっているのだ。
でもそれが現実となった時、なんかモヤモヤするのは気の所為だろうか。命懸けで戦闘を終えたメンバーと同様に、酒場で飲んだくれていた仲間がレベルアップしているのである。
解せぬ。
まぁ、便利ではあるんだけどね! 俺も隅っこに座ってゴロゴロしたいや。
◇
「リリーが持っている経験値は20000。ダンジョンタイプを変えるの?」
「違うわ。どうやらダンジョンタイプはエリアごとに変化も可能みたいよ。最奥がホラーマンションタイプのレベル1だけど、レベル2は大勢の人々が住めるようにするつもり」
リリーがダンジョンを広げるというので、皆でテチテチとショッピングモールの正面玄関に移動して、雪を踏まないギリギリに立つ。雪ってちみたいから触りたくないのだ。
「レベル2はどんなタイプにするのですか? 天才たる僕が思うにキャベツ畑がお勧めです」
「そのタイプは探したけどないのよ。だから2番目にするわ。万能タイプの草原で、半径1キロのダンジョンよ」
肉球ハンドを雪積もる地面につけると、妖しい笑みで(マーモット視点で妖しい。人間視点だと寝そべっているように見える)ステータスボードを押下するリリー。そして、その横で真似をして雪の上に寝っ転がり雪まみれになるニニー。今日も母親に怒られることは確実だ。
「草原ダンジョンよ、創造するから出てきなさい」
「ねーねー、リリーちゃんはなにしてりゅの?」
寝そべるリリーを抱っこしようとするのでミカをその腕にそっと置いて、リリーを見守る。地面に光線が走り、廃ビルの向こうまで飛んでいく。半径1キロと言っていたから、その半径をカバーする大きさなのだろう。
何をしているのだろうと、人間たちの何人かも見ているなかで、ダンジョン化が始まった。予想するに、きっと雪原にチラホラと草が生えるんだろうなぁと軽く思ってた。その予想は甘すぎたとすぐにわかったんだけどね。
具体的には、だ。
ゴゴゴと轟音が響き、廃ビルや廃屋、放置車両も光の中にまるで真夏のかき氷のように溶けていく。積雪すらも淡い光となって消えていき、空を埋める漂う雲も消えていき、視界の中の全てが移り変わり、春の優しい日差しの振り注ぐ、そよ風がお昼寝を誘うぽかぽかの草原となるのであった。
遠くには厚い積雪と、真冬の雲空が見えているが、まるで線でも引いたかのようにダンジョン内は春の世界だ。冬の中の春だから、小春日和というのが正しいかな?
「どうかしら? モンスターをポップする経験値もないから、単にここは草原というだけよ。各自で小屋でも巣穴でも作れば良いわ」
ゴクリと息を呑み、驚きが声にならない。ダンジョンマスターの力を甘く見てたわ。まさか廃墟を消滅させるとはね。
そうか、これなら資材を集めれば家屋は建てられるし、畑も作れる。
━━なによりもだ。
「巣穴掘ろうぜー! あの起伏がある丘がよくない?」
「おー! 俺様だけの部屋も作るぞ」
「ここなら思い切り走れます」
「隅っこがないのが問題ね」
「ニニーもはしりゅ! 待って、まーちゃん」
マーモットの本能に従い、俺は喜んで、草原へとはしゃぎながら飛び出す。草原に巣穴を掘って、自宅を作るなんて最高だ。ここは楽園かな?
なにもかも忘れて、俺たちは巣穴を掘るべく大はしゃぎで走り出すのであった。
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