49マモ 2回目の飯屋
元ショッピングモールに到着してからは大忙しだった。なにせ高校生100人近くが合流したのだ。しかも、拠点に住んでいるのは異世界人たちなので、通訳をしなくちゃいけなかったし、部屋の割り振りとか食料の配布、拠点のルールまで、様々なことを取り決めないといけなかったからね。
主にアミが忙しいです。
俺? 俺はというと。
「まきゅ」
倉庫から持ってきたカロリーバーを1個手に持ってテチテチと2本足で歩いて、お鼻をヒクヒク、尻尾をフリフリ、鋭い目付きで、子供たちに運んできたよ。
「うわぁ、可愛い! この子、よく躾けられてるわ」
「このカロリーバーはもらっていいのか?」
「撫でても大丈夫かな? 噛まないか? マーモットの噛む力は鉄板くらい簡単に噛みちぎるらしいからな」
過酷な生活をして疲れ果てていた学生たちの癒しとなってます。やはり、マーモットは最高の小動物で、見るだけで心が和み元気が出るのだ。あのメイドさんがおかしかっただけなのだ。
「むむ、客か、マーリン。なら、俺様たちのギュイーンを見せてやらないとな! ほら、ギュイーンをやるぞ!」
「待ちなさい。天才たる僕の華麗なる走りをみたいに決まってます。回し車を高速回転させる僕の走り、今僕は風になっています」
「隅っこで寝ているだけで良いと思うわよ? おやすみ〜」
「皆落ち着いて、お昼寝しよ? 藁を運ぼうよ〜」
元マーモットカフェの店員たる皆も張り切って、子どもたちに芸を見せて、子どもたちはようやく笑顔となっていた。
とはいえ、子どもたちというのは、日本人の視点であって、ヴェア男爵たちは大人と見なして、対等の視点で話しているようだった。アミを通してとはいえ、その内容はなかなかに難しく厳しいようで、子どもたちは苦労しそうだ。こういう時は学校の生徒会長とかがリーダーシップを取るものだと思うんだけど、どうやらリーダーシップを取るはずの学生たちは転移に巻き込まれなかったらしい。
(召喚の条件か……あのメイドさんの言うとおりだと、もしかして転移に巻き込まれなかった人たちは……。いや、反対に転移された人たちってのは実は……)
メイドさんとの会話が頭をよぎり難しい顔となる。あのメイドさんの会話を信じ切るのは、レイを信じ切っていたことと同様で、真実かファクトチェックもできないために危険な感じもするけど、本能があのメイドさんを信じても良いと思ってる。
少なくともレイよりは信用できるだろう。なぜならば、メイドさんはこちらの様子に少ししか興味を持っていないと感じたからだ。どこか事務的で、愛する人が気に掛けてるから手伝うだけで、後は野となれ花となれと事務的な様子でもあった。
こういう時は熱心に伝えてくる人よりも事務的に伝えてくる人のほうが情報の信頼度が高い。詐欺師は熱心に投資話を進めてくるが、本物は正確な情報のみで淡々と説明するだけで判断は求めないのだ。
とはいえ、レイが完全に嘘をついているとも思えない。詐欺師の手口は嘘1割、真実9割を話すこと。肝心なところで嘘をつき相手を騙す。それまでは信用を得るために誠実に動くものなのだ。配当金が毎月2割入ると美味しい投資話をしても、少額の時はきっちりと配当金を渡し、相手が信用して大金をつぎ込むと逃げるように。
(だからこそ、レイは役に立つ。王を目指せとの話、そこに行き着くまでは誠実に対応してきそうだしね。それにレイが嘘をついていても、それが悪意を持ってのものかも分からない。真実は霧の中にあり、虚言は無数にある。俺はそれを取捨選択していくだけだ)
フッとく~るに笑い、腕組みを、腕組みはできないのでお手々を合わせて、フンスと顔を持ち上げるラブリ~なマーモットであった。
『ピコンピコン。なにか通信ができなかったのですが、そちらになにかありましたか?』
『ん? 倉庫で疲れて寝てただけだよ』
噂をすれば影がさす。早速レイからの通信が来たので、すっとぼけておく。マーモットはいつでもどこでもお昼寝できるのだ。
『なんだ寝てたんですね。私がおやつを買いに行っている間に通信ができなくなったので、壊れたかと思ってパパに聞こうとゲフンゲフン。いえ、なんでもありません。では、プレイヤー、おめでとうございます、貴方は二人目の王を倒し、神を滅ぼしました。その報酬として、2回目の飯屋を使うことができます! パチパチ〜』
レイがパチパチと拍手をして、おめでとうと祝ってくれる。どうやらジャックオーランタンを討伐したことにより報酬が入った模様。
もう騙されないぞ。これはAIアシスタントで、本当は中の人がいるなんてことはあるはずがない。これは巧妙な騙しに違いない。
『パチパチ〜、ああっ、ココアこぼしちゃった! 大変っ、これパパのお手伝いを頑張ってようやく作ってもらったのに、うわわ、これ拭いて〜、あ、ポテチも落とした! うわ~ん。あ、プレイヤー、飯屋を使って王国を大きくしてください、では、またあとで』
『お嬢様、落ち着いてください、キーボードはしっかりと拭かないと結構簡単に使えなくなっ━━』
『ピー。現在AIアシスタントはメンテナンス中となります。復旧までご迷惑をおかけしますがご了承ください』
そして、ガタンとかゴトンとか音がして、すぐにメンテナンスモードになった。
うん、騙されないぞ! 多分、恐らく、これは巧妙な虚構なのだ。なんか素のレイは中学生くらいの女の子に聞こえたけど、きっとこれも虚構だろう。メイビー?
頭脳明晰な俺は、AIアシスタントのドタバタは聞かなかったことにして、飯屋のスキルを確認する。うん、さっきの会話は聞かないことにした。そうしないと中の人がいるかもと、もしかして子どもではないかとの疑いが俺の判断を鈍らせるからね! あと召使いもいるいいとこのお嬢様とか思っちゃうからね!
なにはともあれ、『飯屋』の出番ということだろう。
◇
『飯屋』スキル。死せし者たちを復活させて、己の眷属とする能力だ。
「現在は1000人の眷属に、200人の異世界人、100人の地球人と。次に1000人を喚び出すと……うーん、大丈夫かなぁ?」
私室にてソファの上にぽふんと座り、ピキーと鳴いて考え込む。いたずらに飯屋で召喚する前に、現状を確認中。小さなお城レベルに広いショッピングモールだから、2000人に増えてもなんとか持つと思う。でも、居住者はかなり狭い思いをするかもしれない。
雪積もるこの極寒の季節で、ショッピングモールに閉じ込められるのはかなりのストレスとなるのではなかろうか?
「とりあえず使ってみたらどうかなぁ。せっかく手に入れたスキルなんだから、使わないと勿体なくない?」
ソファを食い千切り、中の綿をせっせと運び出しているミカが迷う俺に声をかけてくる。ソファはそろそろマーモットの巣にふさわしい姿になるだろうことは間違いない。リリーが綿の抜けたソファの穴に興味津々で潜り込もうとしてるし。
「でも、ミカの言うとおりだとは思うわよ? 領地経営系シミュレーションゲームでアンロックされたアイテムを使わないと、スタートに躓いて後悔することにならないかしら?」
ちっこい体を穴に押し込めて、まもんと顔だけだして、リリーも話に加わってくる。マーモットが顔だけ出している光景はかなり可愛い。
ミカとリリーの言うとおりだ。領地経営系シミュレーションゲームではアンロックされた機能は取っておくのではなく、すぐに使うものなのである。新たに1000人の人口が増えるのはマイナスとはなるまい。
「よし、決めた! アミに部屋の割り振りとかは任せて、『飯屋』スキルを使うよ!」
2人の忠告もあるし、俺は『飯屋』スキルを使うことにする。難しいことはアミに任せた! なぜならば俺はマーモットだから難しいことは考えられないのだ。
「次元の狭間にて眠る死せし者たちよ。マーモットの王たるマーリンが命じる。『飯屋』よ。ご飯あるからここにきてー!」
テキトーな詠唱をして、お手々を上げてピキーと鳴く。召使いよろしく壁際に立っていた下級マ族たちがパチパチと拍手をしてくれて、ステップを踏んで調子に乗ってマモダンスも見せちゃう。
この時、俺は気楽に考えており、なんだかんだと言っても、1000人くらい追加しても大丈夫だろうと思ってた。
ゲーム的に考えると、ランクアップとかしててもおかしくないのに、全然思わなかったのだ。マーモットだから仕方ないとの意見もあるので、それを採用します。
結局のところ、なにが起きたかと言うと━━。
部屋中に魔法陣が生まれて、眩く輝く魔力の光に包まれて、まきゅーとお手々で目を塞いでしまう。
「な、なんだこれ? なにが起きてるの?」
「巣穴に隠れるのよ。早く隠れるの」
「まぶちーねぇ」
ものすごく光ってるし、魔法陣は数え切れない多さだ。リリーはソファの穴に潜り込み、ミカはのほほんと眺めている。どうやら、この現象は応接室だけではなくて、外も大騒ぎになっているのが、悲鳴にも似た叫びでわかる。
嫌な予感。使ってはいけないタイミングだったのかも。
『ピキー、ピギーピピピ。キャンセル、今のなし、使ったことにしないで?』
『飯屋が発動し、一万人のマ族が復活します』
え、なんだって? マーモットは耳がよいけど、もう一回言ってくれないかな? 何人を復活させるって?
プルプルと震えて、慌てて部屋を走り回るマーモットの抵抗も虚しく、魔法陣から下級マ族たちがどんどんと現れてくる。
━━その数は一万人。すぐに分かったことだが、拠点内全部に現れた。
一万人である。ショッピングモールはデズニーランドのようにアトラクションのある敷地の広い遊園地ではないのだ。
そこに裸の下級マ族たちがひしめき合って召喚されたのである。
「うわおっ、なんだこれ?」
「は、裸の女性?」
「これ見るなって、人多すぎ、なにこれラッシュ!?」
「落ち着け、皆落ち着くんだ!」
阿鼻叫喚である。なにしろ一万人である。応接室もぎゅうぎゅうとなってしまった。
うんうん、こういう時はだ……。
「リリー、俺もその巣穴に入れて?」
マーモットらしく巣穴に隠れようっと。
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