43話 先生の真の姿
「う、うひゃひゃ、ん〜、残念だったね、数奇君。この農王には神農様に従う忠実なる信徒たちがいる。お前ら、この不良を殺せっ!」
不良を殺せとは先生のセリフではないけど、信徒と化した生徒たちはニヤニヤと笑いながら手に炎を宿す。
やばいかな、この人たちも先生と同じ力を持っていそう。炎を切って、あたしって凄いと少しドヤってる場合じゃないかも。
どうやら信徒たちを全員連れてきたらしく、さっきまでの焦った様子とは違い、先生は余裕の表情だ。
「でも、先生を倒せば皆は元に戻るはず!」
こういう場合、原因を倒せば解決する場合が多いとあたしはアニメで知っている! 剣にオーラを纏わせて、先生との間合いを詰めると、覚えたばかりの武技を使う。
『オーラスラッシュ』
炎を切れるけど、もちろん人も切れる。人を切るという禁じられた行為に躊躇いがあるけど、見動きが取れないように足を切るつもりだ。腰を屈めて、鋭く足を踏み込むと這うように一撃を繰り出す。
みかんビームや炎魔法を使えるようになっても、その身体は貧弱で、戦いのイロハを知らない先生はあたしの剣撃に全くついていけないことは、その目線でわかる。
その一撃は足を切り裂き、先生は転倒すると予想していたのだが━━。
「えっ!?」
命中はしたが、命中した個所がぐにゃりと折れ曲がり、まるでコンニャクのような感触と共に受け流されてしまう。
「クラゲっ!? 骨あるんですか、先生の足」
「神農様のお力でぇす。このようにね!」
先生が振り上げた腕が足と同じように不自然にたわみ、鞭のようにしなるとあたしへと打ち付けられる。
「いたっ!」
肩に命中して鈍い痛みに顔を顰める。でも繰り出された鞭のような腕は、鞭を使い慣れていないのか、耐えられない程ではない。ぐっと唇を噛みしめると、さらに一歩前に出る。ここで間合いを取られたら、間違いなく反撃の芽はなくなると剣聖の勘が言っているのだ。
「う、うわぁぁぁぁっ!」
『オーラスラッシュ』
なぜ剣撃を防がれたのかはよく分からないけど、手加減をする余裕はなくなったことはわかる。だから今度は胴体を勢いのままに切る。
先生の胴体に深一撃が入り込み、先生が衝撃を受けて驚きの表情で仰け反ると床に倒れ込むのであった。
その様子を見ていた信徒たちも雷に打たれたかのように身体を震わすと次々と倒れ込むのであった。
「はあっ、はあっ、や、やった!」
たったの数回剣を振っただけなのに身体が重苦しくて息も荒い。闘気を使うことはできたのに、闘気を使う地盤であるあたしの身体が追いついていないのだ。それに加えて人を切った嫌悪感が心に重石となっていた。
けれども、とりあえずの危機は去ったと思う。学校に戻ってこれからのことを考えないといけないしスロットチャンスのこともよく調べないとね。
「おぉ~、結構あっさりと倒せたな。こんなに弱いなら、やっぱり前の跡形もなく吹き飛ばしたのは、オーバーキルだったのか」
「跡形もなく?」
「あぁ、いや、スロットチャンスでその剣を手に入れたんだろ? 全部の図柄を揃えたら、とんでもない威力だったのかなと思ったんだよ」
「そっか。うん、この剣は剣聖の剣なんだけど、図柄を三つ揃えて手に入れたんだよ」
この剣はもう手放せないよね。ゾンビを斬るも良し、魔物を倒すも良し、包丁代わりにはできないかな。
「ランちゃん、今の説明で納得しちゃうの? あからさまに怪しいと思うんだけど」
「そうだね。どう見ても怪しいというか、さっきの態度からもかいきしたんじゃないかと思ってるんだけど」
「お前ら、察しが良すぎ。いや、なんでもないか、なんでもないぞ?」
「なろう小説を読んでない人なら誤魔化せたかもです」
「テンプレすぎてなんと聞いてよいのか困るほどだよ」
なにやら鍵音ちゃんと遠藤君が呆れた表情をして、見野君はワタワタと慌ててるけど、なるほどあたしも皆の会話からわかったよ!
「見野君は人間をやめたんだね! 大丈夫、いつか人間に戻るためにもあたしも手伝うから。あたしは新作で跡形もなく変わった女の子役ね」
「妖怪人間になったわけじゃねーよ! その怪奇でなくて、ゲフンゲフン、ランはともかくとして、これは俺たちだけの秘密にしてくれないか?」
「うん。そうしないとかいきの利点がなくなるもん。わかりました」
「どうやら僕たちは心強い仲間を手にしたようだ」
握手をし合う3人を見て、あたしも空気を読んでわかった風にく~るに笑みを浮かべるのだ。あとで鍵音ちゃんに説明してもらおうっと。
「うんうん、見野君は血が酸になっちゃった?」
「お前な〜、あのまま俺が止めなかったら、一瞬で中年女性になってたんだから感謝しろよ。その分、チート武器やスキルはなくなったけど……。そこは俺が手助けしてやるから大丈夫だ」
「怪奇パワーで助けてくれるんだね」
「エイリアンと妖怪人間を混ぜてるだろ、お前」
あたしを見て苦笑する見野君だけど意味が分からない。けれどもわかった風に頷くのはあたしの得意技である。
「これからどうするんだい?」
「あぁ、本来はこいつがカリバーンを手に入れて、その力を解放させて農王たちを消し飛ばすんだ。その光はビルを崩壊させてデカい音を立てて他の化け物を呼んじまう。だが、今は大丈夫だから少し休もう」
なるほど、この剣の名前はカリバーンと言うんだ。よろしくね、カリバーン。
なんの変哲もない剣に見えたけど、凄い剣らしい。にしても、オーラスラッシュはビルを吹き飛ばす力はないよ。大げさだなぁ、見野君は。
……微かに手が震えて、気持ち悪い。人を殺したのだとの意識があたしを支配しようとするけど、今はそんなことで落ち込む時間じゃない。
これから剣聖としての活躍が始まるんだねと、わざとおちゃらけて、あたしはマスターソードを手に入れた勇者のように剣を掲げて、チャララーと口ずさむけど、ハッと思い出す。
「みかんになった鈴木君や佐藤君は元に戻ったのかな?」
「いえ、彼らは更生不可能なので永遠にみかんのままです」
「!?」
ありえない声が聞こえてきて、あたしはすぐに剣を構え直して声の上がった場所へと視線を向ける。
それは倒したはずの先生の死体だった。完全に切った感触があったのに!
「けひひひ、わかりませんかぁ、わからないでしょう、これこそが神農様の偉大なる御力。新たなる人類の姿です!」
先生の身体が内部からボコボコとなにかが暴れるように膨れ上がり、なにかが突き出てくる。
それは蔦であった。体の内側から次々と飛び出てくると、最後に先生の頭が割れて、大きなカボチャが這い出てきた。それは見たことのあるカボチャで、ハローウィンで使われるやつだった。
目と鼻と口の部分がくり抜かれたカボチャが這い出てくると、蔦をまるでタコのように足がわりにして立ち上がる。あたしたちがその異形の様子に声を失っている間にも倒れていた信徒たちも同様に蔦が這い出てきて、頭からカボチャが飛び出てきていた。
「前はカリバーンで焼き尽くしたから分からなかったが、本当はこんなのが体内にいたのかよ!」
「くっ、こんな化け物が人間に成り代わっていたのか?」
「わたわたわた」
見野君たちが想像もしたくなかった光景に顔を苦渋に顰める。その様子を見て、先生は、いや元先生は蔦をゆらりと揺らすと、目の部分の穴の中に暗い炎を燃やしてケタケタと笑い始める。
「ん〜、これこそが新たなる人類ですよ? 少しの日光浴と栄養のある土からのエネルギーの吸収。地球にエコであり、人類の救世主の姿がこの姿なのです!」
「さっき立ったままなのは、日光浴を化け物がしていたってことかよ! その姿のどこが人間だっていうんだ!」
「そうだよ! あたしはその姿を知っているからね! ジャックフロストでしょ!」
敵の正体見たりジャックフロストってやつだ。皆は知らなかったのか、あたしを見て驚いてるけど、ドヤ顔をするのはあとで!
「ジャックフロストってわかれば罪悪感はゼロだよ。オーラスラッシュで伐採!」
まだジャックフロストとの間合いは狭い。オーラで強化されたあたしの踏み込みはチーターよりも速くジャックフロストの懐に入って剣を繰り出す。
『オーラスラッシュ』
剣が閃き、蔦を伐採しようと剣撃がジャックフロストに迫るが、ジャックフロストはさっきとは違い、今度は蔦にて防ごうとしてくる。でも、このオーラスラッシュは薄い鉄板ならあっさりと切ることができる威力。蔦くらいじゃ防げないよ!
ギィン
だが必殺のオーラスラッシュは蔦に僅かに食い込むだけで火花を散らすだけに終わってしまう。
(意外と硬い! でも、今度はフルパワーでいくよ)
剣が弾かれることに驚きながらも右足を支点に体を横回転させて下からの掬い上げ。さっきよりも遥かに多いオーラを込めての一撃は、さっきの蔦では防げない!
自信の一撃であった。なのに、体をくねらせると蔦を緩めて、一撃を回避してしまった。人間では絶対に不可能な回避に動揺してタタラを踏んで体勢を崩してしまう。
「っ!」
「残念でしたぁ。そぉれ、先生からの愛の鞭ですよ、アイアイアイ! 愛の乱れ打ち!」
ジャックフロストはせせら笑うと、複数の蔦を鞭のように振るってくる。剣にて防ごうとするが、不規則な軌道と、防いでもしなりながら剣を超えて打ち付けてくる。体のあちこちが打ち付けられてものすごく痛い!
「でも、オーラで強化してるんだからぁぁぁ!」
歯を食いしばり、無理矢理間合いを詰めると、カボチャの頭に蹴りを突き出す。まさか無理矢理間合いを詰めてくるとは思わなかったようで、蹴りは見事に命中し、ジャックフロストを吹き飛ばす。
「ごハァッ」
ジャックフロストは床に転がっていくけど、蔦を伸ばしてすぐに立ち上がると、小さく炎の息を漏らす。悔しいけど、ほとんどダメージを与えることはできていないようだった。そのかわりに怒りは確実に買ったみたい。
「このクソガキがっ。不良のくせに、不良のくせに。これからの日本を背負う農王に傷を与えるとは万死に値する! 猛炎よ、燃え盛る炎よ。敵を焼き尽くす力となれ!」
『メギダイン』
ジャックフロストの頭上に、視認できるほどの魔力が集まっていくと、巨大な炎の塊となる。遠くとも熱を感じ、触れたら灰に変わることは間違いない。
「熱血、熱血、熱血! 貴様らを焼きつくしてくれる━━くおっ」
狂ったように笑い、ジャックフロストが魔法を放とうとして━━その顔に瓦礫が命中して、炎の塊があらぬ方向へと飛んでいき、廃ビルの壁を大爆発とともに破壊する。
「ナイスストライクかな? 隙だらけだったよ、先生」
投げ終わった体勢でニヤリと笑うのは遠藤君だった。どうやら窮地を見て瓦礫を投げてくれたらしい。
「ははは、へははへは、先生を馬鹿にしやがって! お前ら、こいつらを焼き殺すのだ!」
ジャックフロストが怒り狂い、信徒たちに指示を出すと、信徒たちがこちらへとじわじわと近づいてきて、包囲をしてくる。どうやら確実に倒そうとするみたい。
あたしのオーラも限界だし、鍵音ちゃんは手のひらに本を呼び出して、祈りを捧げているが何も起きていない。
あたしたちは絶体絶命のピンチとなった。でも、飄々とした風に一人だけ余裕な男子がいた。
「へっ、先生、失敗したな」
「失敗? 命乞いにしてはたわけたセリフですねぇ」
いぶしがるジャックフロストに、飄々とした男子、見野君はおかしそうにニヤリと笑う。
「今の炎でデカい音を立てちまったな。この音を聞いて、すぐに奴が来るぜ!」
「来る? 貴様らのほかに不良がいると?」
「あぁ、頼りになる本物の不良だぜ」
「不良だと?」
見野君の言葉通りに、床が地震が起きたかのようにカタカタと震えて、なにかが近づいてくると、ビルの壁が爆発したように崩れてなにかが入ってきた。
衝撃で巻き起こった砂煙が視界を埋め尽くしてなにも見えなくなっちゃう。
「ゾンビジャイアントのお出ましだ! 先生にこのとっておきの不良が倒せるかな?」
見野君の得意げなドヤった声が響き、風とともに砂煙が薄れていくと、ゾンビジャイアントの姿が現れる。
「ゾンビジャイアントって、奇妙な旅人に出てくる調査艦レッドスプラウト号にそっくりなんだね」
あたしはビルに飛び込んで来たゾンビジャイアントを見て、ポツリと呟くのであった。
◇
「あわわ、やっちゃった。だって、マーモットの手だとZRボタン押しにくいんだもん」
装甲車内にはピキーと鳴いて、コントローラーを持つマーモットがいたりした。
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