4マモ お腹すいた
段々と意識が覚醒してくる。なんか温もりが感じられて幸せな気分。ゆっくりと目を開くと、毛皮の塊がぴったりとくっついていた。
ガブたちが俺に身体を寄せ合って、寝てるのだ。すやすやと寝ていて気持ちよさそう。マーモットは群れを作って、身体を寄せ合って寝るのだ。マーモットになった今は俺も身体を寄せ合って寝るのが大好き。
ブラックスライムを倒したから、ここは安全になったのかな。
「うぅ~ん、今何時だろ。どれくらい寝てたのかなぁ」
ぬくぬくの毛皮をどけつつ、起き上がる。窓の外を見ると、まだ悲鳴が聞こえてくるけど、最初の頃よりも遥かに少なく、しかも悲鳴も遠い。
「ここは一応安全か……でも油断は、んん? 寒い?」
ぬくぬくの塊から抜け出ると、冬に相応しい寒さを感じる。窓ガラスが壊れて、冬の風が入ってきているからだ。……しかも、エアコンも止まってるぽい!
「あわわ。まずいな。マーモットは寒いと冬眠するんだよね。でもここで冬眠は危険すぎてできない! なんとかしなくちゃ!」
冬眠している間に人間に捕まって、テーブルに乗せられて食べられちゃうかもしれないし、魔物に襲われるかもしれない。巣穴を作らないといけないけど、コンクリのビルで巣穴は掘れないよ!
「いや、慌てるな〜。まだ暖気は残ってる。その間になにが起こったかを考えないと。え~と、まずこれだ。『貴方は異世界で初めてモンスターを倒しました!』。これ、これだよ。異世界? ゲートが開いて魔物がやってきたとかではなく異世界?」
ステータスボードに表示された気になる一文。てっきり異世界と繋がるゲートとかが開いて魔物が現れたと思ってたけど、俺たちが異世界転移したのかな? このステータス表示を信じるとしたら、そうなんだろう。
外も大騒ぎなところを見ると、一部の地域が異世界に転移したとかかなぁ。小説で学校全体が異世界転移したとか聞いたことあるけど、このビル周辺が飛ばされたのかな?
マーモットにあるまじき頭の回転を見せつつ、俺は考える。そうなると、魔物が生息する地域にグーッ。
グーッ。
お腹空いた。いつもは朝昼夜の3食とオヤツ。もうご飯の時間過ぎてるや。
考えるのはあっさりと止めて、テテテと四本脚で走って厨房に行く。ぴょこんと厨房を覗くけど、し~んとしており、誰もいなかった。
「冷蔵庫〜、冷蔵庫〜。おいらは頭の良いマーモット〜」
冷蔵庫に近寄ると念動力でパカリと開くとキャベツや人参などの野菜がたくさん入っていた。うんうん、やっぱりマーモット用にたくさん野菜あるや。
念動力でキャベツをささっと浮かべると、1枚いただきまーす! あ~ん。
シャクシャク。うん、美味し〜。キャベツ大好き!
「あ~! マー君だけご飯食べてるぅ。ミカにもちょーだい、ちょーだい!」
「あ! 俺様にも寄越せよ!」
「もちろん僕の物ですよ」
「新鮮なキャベツねぇ」
「こら、まだまだあるから! こら、奪おうとするんじゃない! シャクシャクシャクシャクシャクシャク」
シャクシャク音が聞こえちゃったのだろう。ミカたちが転げるように走ってくると、俺が食べているキャベツに噛みついてくる。仲間が食べてるのに、我先にとキャベツをくわえて奪おうとする餌に関しては仲間意識ゼロなのがマーモットなのだ!
もちろんこのキャベツは俺のものだから誰にもあげないよ! 急いで食べるけど、敵もさる者。反対側からキャベツをくわえて食べていく! 手で押し退けて懸命に食べることしばし、激しい奪い合いから、ようやく理性を取り戻して、キャベツをバラバラにすると、それぞれが食べるようにするのだった。
無駄に1時間くらい経過したよ……。
◇
「ふぅ〜、お腹一杯。もう寝よっか。藁は敷き詰め直したよ〜」
「待て待て待て。ちょっと待て。ここで寝ると死んじゃうから! まずは生き残ることを考えないと!」
ミカたちが満足そうに腹を撫でると、寝ようとするので慌てて止める。おかしい、全ステータスが10加算されているのに、本能に忠実すぎるだろ。知力は? 知力も加算されてるんだよね? ステータスには表示されなかったけど、隠しステータスとかだよね? 信じてるよ神様!
「もうご飯持ってくる人いないよ! ここで俺の言うことを聞かないとご飯食べられないかんね!」
「えっ!? そうなの? それじゃ待つ〜」
「ご飯が食べられないのは嫌だしな」
ちゃんと聞いてくれる気になるのは、ミカとガブ。
「冷蔵庫に入ってるじゃないですか。あれだけあれば一生食べられますよ」
「食べてるところを奪えばいいんじゃない?」
冷蔵庫という単語を知っているところから知力は多少上がっていると分かったが、あくまでも多少であることを教えてくれるルーと、危険な思想のリリー。
「えっとね。もう野菜とかは自分で確保しないといけないんだよ。だからまずは生き残るためにスキルを取得して欲しい。さっきスライム倒して経験値手に入れただろ? ステータスボードって呼び出せる?」
「うん。呼び出せるよぉ。これでスキルを取得すれば良いんだよね? 経験値は千貰ったぁ」
おぉ、知力は一応仕事をしてくれるらしい。これなら安心だ。
「まずは『念動力』を取得して━━」
「エイッ。『ギュイーン』を取得したよ!」
「おりゃぁ。『ギュイーン』を取得したぜ!」
「ふむ。『ギュイーン』を取得しました!」
「ポチ。『ギュイーン』を取得したわよん!」
全員迷いなく『ギュイーン』を取得した。
知力さん、仕事して? なんで皆ギュイーンを取得するわけ!?
『ギュイーン:マーモット専用スキル。擬似喧嘩で強くなる。1回擬似喧嘩をするごとに経験値100取得。百回まで効果は発動する』
なるほど、なるほど? どうやらマーモット専用のボーナススキルらしい。レベル表記がないから使用したら終わりなんだろう。
ポチッとな。
『ギュイーンを取得しました』
擬似喧嘩で、仲間に負けるわけには行かないからね! ギュイーン!
擬似喧嘩とはなにか? マーモットが敵との戦闘を予想して仲間と喧嘩をすることをいう。二本足で立って、両手を組んで背筋を伸ばして力比べをするのだ! それをいわゆる『ギュイーン』と呼ぶのだ。ギュイーン。
ギュイーンは大人気なんだよ。ギュイーンを見れたと喜ぶお客がどれほど多いか。ギュイーン。
大切な経験値は『ギュイーン』に変わった。経験値を貰えるのは嬉しいけど百回は時間がかかる。経験値を稼ぐまで、安全な場所を用意しないといけない。
残り一万か……。皆は寝てていいよ。
◇
「え~と、まずはサバイバルの定番だけど、衣食住。マーモットは寒くなると冬眠するから、寒さ対策は絶対に必要だ。服と住処……簡単なのは服だけどマーモットは服を好まない。暖かい住処が必要か。それにもちろん食べ物も確保しておかないと」
サバイバルの基本であるが、人間とマーモットは全然違う。マーモットは可愛いけど、サバイバルとなると、デメリットがたくさんある。
これが人間なら話は簡単だった。今は12月。ますます寒さが厳しくなるからと、まずは防寒対策として厚手の服を集めて、暖をとるために窓を塞いだり、暖炉を作ったりと様々な方法をとれる。
でも、俺たちはマーモットなのだ。藁の上で皆は幸せそうに身体を寄せ合って寝ているだけで先のことは全く考えていない。文字が読めて、家具の名前や意味を知っても、それが行動に繋がっていない。赤ん坊レベルであり、知識を活用するのはまだまだ時間がかかる。
「無防備に寝ちゃって……野生の欠片もないなぁ、俺の愛すべき仲間は」
ミカの毛皮をそっと撫でながら優しく微笑む。マーモットの微笑みって、あるんだよ。ホントだよ。
大事な仲間だ。命をかけて助ける愛すべき兄弟ともいえる。だからこそ、ここでミスることはしたくない。なにせ俺はマーモット王にして転生者。これでもたくさんのなろう小説を読んできた。この場合の対応もたぶん大丈夫!
「とりあえず、異世界物のテンプレスキル『アイテムボックスレベル1』を取得と」
『アイテムボックスレベル1:亜空間に140キロまでの物を仕舞える。ただし生命体は保管できない。内部では時間が停止している』
アイテムボックスと願うと、目の前の空間が裂けて、白い部屋が垣間見える。どうやら亜空間倉庫のようだ。
「お決まりの仕様だな! それじゃ、野菜類をドンドコ仕舞うか。テレキネシス運搬〜」
持ってて良かったテレキネシス。ポイポイと野菜類を入れていく。が、じゃがいもを初めてとして、いくつかの野菜は弾かれる。
「んん? そうか、じゃがいもとかは種芋とかにできるから、まだ生命体扱いで入れられないのか。キャベツはオーケー、ゴボウアウト。……根野菜が多いっぽい。まぁ、仕方ないか。時折、なにか粉っぽい物が出てくるのは野菜類についた微生物なのかな?」
やけに細かい仕様のアイテムボックスである。
「……ちゃんと取り出せるか心配になってきたぞ。え~と一覧表示とかないから、直に取り出さないとダメなのか。それじゃキャベツを一枚、ん? キャベツを一枚取り出す……? なんか扉の前で手が弾かれるぞ?」
テレキネシスで運搬していた時は気づかなかったけど、手を伸ばすとゲートの境目で透明な壁があるかのように手が入らない。ペチペチ叩いても駄目。なにこれ? 手がなんで入らない……あぁっ!
「手は生命体扱いでアイテムボックスに入れられないのか! たしかにその通りだ! これまで同じ条件のアイテムボックスに手を突っ込んでアイテムを取り出す主人公とか小説で見たことあるけど、たしかに実際はこうなるよ! ひ、酷い罠だ……保管したら道具を使うか、魔法やスキルを使わないと取り出せない仕様だ!」
なんという悪辣さ。たしかに手を突っ込むのも実はアウトなんだよ! 恐るべき真実を知っちゃったかも! 異世界物を書いてる小説家に余計なことに気づいたなと闇に葬られないようにしないと!
「にしても、これ最初にアイテムボックスのスキルを取得した人は詰むな……入れるときに気づけば良いけど、出す時に気づいたら悲惨だよ。食べ物とかだと、取り出せないよと泣くことになるかも」
お腹が空いてるのに目の前の食べ物を取り出せることができないで餓死とか、悲惨すぎる。
「これは残りのスキルは慎重に取得しないと、ヤバい予感がひしひしするよ」
これまでのスキルの特性から、気を付けて取得しようと警戒するマーリンだった。
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