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異世界でマーモットの王となりました  作者: バッド
2章 人間たちは

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37話 日常の終わり

 あたしたちになにが起こったのだろうか。2週間たった今でもなにも分からない。ただ、理解できることは、今までの暮らしはもう二度と帰ってこない、それだけはわかっていた。


 ━━数奇ラン。あたしの名前だ。茶髪のセミロング、可愛い顔立ちで年齢よりも若く見られる童顔で、140センチちょいの小柄な背丈も相まって、もう高校1年生なのに小学生と間違えられる。八重歯がチャームポイントだねと小動物を愛でるような扱われ方をされるので、耳にピアスをつけて、少し乱暴な話し方をしているが、効果があるかは疑わしい。


 要するに子供扱いされるのが嫌で背伸びをしているわけ。だけれども、皆にその目論見はバレており、ますますマスコット扱いされているのが現状だった。


 ついこの間までは、なんとかしてマスコット枠から抜け出ようと考えており、人生の最大の試練だと思っていた。


 ━━馬鹿な話だ。今のあたしが思い悩む過去の私を見たら鼻で笑うだろう。


 なにせ、今は明日死んでもおかしくない世界に生きているのだから。


           ◇


 始まりは地震であった。あたしは学校で授業を受けており、友人とラニュンでこっそりと話をしていたものだ。授業は物理で、とても眠くなる内容だったし、先生はやる気もなく教科書を朗読しているだけだ。居眠りしている生徒がいても無視しているし、おしゃべりは注意するが、ラニュンでのやりとりは見て見ぬふりをしている。


 昨今は寝ている女子生徒を起こそうと肩に触るだけで、セクハラだとか、痴漢だとか騒がれるし、スマホを取り上げようとすれば、個人情報の塊を盗むつもりかと、親が文句をつけてくるため、先生たちはことなかれ主義をしており、熱血先生どころか、まともな先生もいなかった。


(給料も安いって言うし、部活の顧問をしても残業代は雀の涙。教師ってブラック企業の見本みたいなものなのに、よくやってるよねぇ)


 軽蔑の眼で先生を眺めて、つまらないので欠伸をしながら、筆記で埋まってきそうな黒板が撮影できるようにスマホをセットする。


 聖職者と言われて尊敬されたのは遥か昔の都市伝説となり、今や性職者と揶揄されるほどなのだ。特に女子生徒たちからは距離を取るので、女子生徒としては先生など尊敬できるわけがなかった。


(まぁ、今の世の中、尊敬できる人はと聞かれて、素直に名前が出てくる人のほうが珍しいと思うけどさ)


 テストだけは万人共通で、誤魔化しようがないので、ランは黒板をパシャリとスマホで撮影しておく。つわ者は動画で撮影しているのでノートを取る必要がない。撮影されていることも先生としては緊張感がある。基本、先生の評価は減点方式だとランは考えているし、たとえいいことを言っても、生徒のために行動しても、裏があるのだろうとか、本当にその行動が良かったかは疑問ですねと、さも分かったような口ぶりで話す自称有識者のせいで、立派な先生というのは現れない。


 黒板に懸命に書いた内容を生徒がボタン一つで撮影するのを見て、先生はどう思ってるのだろうか。てっぺんハゲをごまかすために、左右の髪の毛を伸ばして無理矢理ハゲを隠している痩せぎすの先生は今日も念仏でも唱えるかのように黒板に対して説明をして、生徒たちを一瞥もしない。


 いつもの風景。授業が終わったら何をしようかとしか考えていないし、あたしはバイトでも始めようかと考えていた。バイトをするなら、冬に入るこのタイミングが良いと思ってる。クラスメイトと仲が良くなり、ある程度のグループ分けが終わったので、今日バイトだからと遊びの誘いを断っても角が立たないし、そもそもお小遣いはバイトで手にはいるお金に敵わない。


 学生というのは付き合いでお金がかかるものなのだ。バイトをしている友人たちの中には、父親のお小遣いの数倍はあるから、羨ましそうに睨まれることがあるよと笑って話していたのを聞いて、あたしもバイトで稼いだお金で両親に食事を奢り、どんな顔をするのか見てみたいとのいたずら心もある。


 授業中であるのに、まったく別のことを考えていたことで天罰でも落ちたというのだろうか。授業中に別のことを考えていた罰にしては残酷すぎる事件が次の瞬間に発生した。


「え、地震? やだぁ」


「おい、揺れてるぞ。震度2はあるかも」


「皆、机の下に隠れるんだ、スカートが捲れないように気を付けろよ」


「お前、それ覗く気満々じゃねーか」


 カタカタと机が震え始め、スマホが床に落ち、皆が退屈な授業でちょうど良いイベントだと騒ぎ始め、おちゃらけようと立ち上がって焦ったふりをするニヤニヤ顔の男子も出てくる。日本人は地震に慣れているから、多少の地震では驚くことなどないし、大地震など来ないと根拠のない自信もあったので、これは退屈な授業におけるスパイスとなるだけのはずだった。


 しかし次の瞬間、自分たちがどんなに危機感を持っていないか理解する。


 ドシンと激しい縦揺れが起こり、誰も彼も立ち上がっている人は転び、座っている人もひっくり返る。窓ガラスは一斉に割れて壁にヒビが入り、天井からパラパラと瓦礫が落ちてきて、今まで感じたことのない大地震が発生した。


 大地震だと誰も彼もが考えた。


 だが違った。


 皆が悲鳴をあげる中で、誰かが叫ぶ。


「見ろ、外を! な、なんだよあれ」


 誰が叫んだのかはわからないし、今となってはどうでもよい。その叫ぶ声に皆が外を見て絶句したのだ。


 なぜならば、外は宇宙だった。真っ暗な訳では無い。宇宙船で宇宙を飛行するように、満面の星空のもとで、学校は移動していた。まるで小島として切り取られたかのような学校が宙に浮き、宇宙を飛んでいた。


 本当に驚いた時は言葉を失うものだと、本などで知識としては知っていたが、まさかあたしたちがそんなことになるとは想像もしていなかった。


 時間にしたら数十秒といったところだろうか。星々の光に照らされて、学校が移動していたと思ったら、急に景色が戻り、また激しい縦揺れが発生すると、元の見慣れた街並みに戻った。いや、見慣れてはいない。


「ま、街が……」


 街は廃墟と化していたから。眩しいくらいのガラス張りの高層ビルは、半分以上崩れ落ちており、ガラスはすべて割れて骨組みだけとなっている。学校前にあるコンビニは焼け落ちており、煙が立ちのぼり、家屋に車が追突していて、クラクションが鳴りっぱなしだ。道路のそこかしこに人が倒れていて、どこからか泣き叫ぶ悲鳴が聞こえ、懸命に走る人が目に入ってきていた。


 窓から見えていた平和で退屈な景色が、一瞬で危険で恐怖を催す景色へと様変わりしていたのだ。


 地震だけでこんなことは起きない。なにせ高層ビルは崩れ落ちるには地震が発生した時間を考えると早すぎるし、そもそもコンビニが焼け落ちているのがおかしい。火事になるのでなく、まるでコマを飛ばしたかのように黒焦げとなっているのだから。


 集団幻覚だろうか。なにかガスでも漏れて、皆の精神がおかしくなっていた、とかだとマシな方だった。それぞれ時間の経過がバラバラだったような廃墟が眼前に広がるなかで、しかしながらそれ以上考査をすることは不可能となった。


 なぜならば、教室内も既に異常が現れていたから。


「きゃぁぁぁ、なに、なにこれ?」


 耳をつんざくような悲鳴が響き、ぼうぜんとしていたあたしたちは正気に戻った。


「どうし、え、な、なにこれ?」


 悲鳴をあげた人と図らずも同じセリフを口にして、唖然としてしまう。


「た、てふけ、これ、なにか、へんなの」


 隣の席に座る女友達の顔に、半透明の粘体が張り付き蠢いている。グニョグニョと蠢く粘体に口を塞がれて、みるみるうちに友達の顔が青ざめて苦しそうに変わっていった。


 なにがなんだかわからない。助けようとすると、立て続けに悲鳴が上がっていき、周囲の皆にも粘体が張り付いていく。一体どこからと疑問に思うが、嫌な予感がして頭を守るように両手で覆うのとほとんど同時になにか重たいものがずしりと頭にのしかかってきた。


「こ、このっ! なんなのよ、ちょっと待ってよ!」


 自分でも何を言ってるのか分からない感じで、覆い被ろうとしていた粘体を慌てて無理矢理剥がして床に叩きつける。幸い粘体の粘着力は弱いようで、両手で掴めばあっさりと引き剥がすことができたのだ。


 同様に、他の皆も粘体を引き剥がしており、喉に入り込まれたのか、しゃがみ込みえずく人もいるけど、総じて怪我人はいなさそうで安心すると共に、床に叩きつけた粘体を見て、嫌悪と怒りが湧いてくると共に疑問も浮かぶ。


「これ……もしかしてスライム?」


 触手のないクラゲのようにグニョグニョと蠢き、半透明の体の中心に細胞核のようなものが見て取れる。あたしの眼の前にいるのはどう見てもスライムだった。アニメやゲームに触ったことのない人でも、名前くらい知っている有名すぎるモンスターだ。


 問題は今は現実でゲームやアニメの中の世界ではないということ。現代に置いて存在しない空想の存在のものだ。


 獲物を見つけて、じわじわと近づいてくるスライムに生理的な嫌悪感が生まれる。これがドラク◯のスライムなら可愛げもあったけど、リアル系の酸を使うスライムは細胞のように神経が細胞核から広げていて、可愛さなど欠片もない。

 

「このやろう、踏み潰してやる!」


「うひひ、異世界転移きたこれ」


「おらぁ、シュート!」


 しかしこのスライムは最弱設定らしく、驚かされた分の怒りも相まって、皆は反撃に移る、弱点は考えなくともあきらかで、細胞核を潰すとあっさりと溶けてなくなる。


 それを見てあたしも足を振り上げる。これが犬や猫やマーモットの形をした化け物なら罪悪感があって、足を振り下ろすことはできなかったかもしれない。だがスライムは粘体で酷く現実離れをした化け物だったため、生命体との意識は薄く、プチリと踏み潰せた。

 

 意外と簡単に倒せるのねと、驚きすぎた気恥ずかしさもあって安堵し━━。


『おめでとうございます。貴方は異世界で初めてモンスターを倒したことにより、経験値100を取得しました。また、初のモンスター退治という偉業につき、経験値1000と固有スキル『幸運』を取得しました』


 脳内に直接話しかけられたように、いきなり声が響き、ビクリと身体を強張らせてしまう。周りを見ると、やはり同じように身体を強張らせている人たちもいて、この現象があたしだけではないことを教えてくれていた。


『ひ、ひいぃぃぃ、からだ、俺のからだ溶ける!』


 だがその驚きもまたもや悲鳴で閉ざされてしまう。まだスライムを剥がせていない人がいるのかと声のもとに顔を向けると━━。


 これまでのスライムとは違い、黒いヘドロのようなスライムに覆われて、鼻を突くような異臭と、じゅうじゅうと煙を上げて、身体を溶かされる男子の姿があった。

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― 新着の感想 ―
倒す度にグレードアップするスライム? それとも男子には黒スライム?
初のモンスター退治で経験値を貰えていたのは個人的に初なだけで世界で初めてってわけじゃなかったんだ。 てっきりマーモットがモンスター退治をしたのが世界初だから多く経験値が貰えている物だと思ってたよ。
 ついに大転移に巻き込まれた一般人サイドのお話が!(´⊙ω⊙`)マーくんたちモフモフがコミカルだったのと比較してあまりにもハードサバイバル学園パニックものなJK数奇ラン視点、マーモットより体格で圧倒的…
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