36マモ 手に入れたら使いたくなる
「さぶい」
一言で表すと、外は寒かった。カタカタ震えるラブリーエンジェルな小動物のマーモット。その名はマーリンです。
寒いというレベルを通り過ぎて凍りつくレベルである。俺の目の前にはテレビに映る豪雪地帯の地方のように、雪が降り積もっていて、俺の背丈では一歩進んだら雪のなかに封印されそうな程だ。2メートル? それとも3メートル? 除雪車もない世界で、積雪を放置していたらこうなるという見本のようなもので、一面が真っ白に埋まっていた。
積雪の重量により家屋が何軒か潰れており、それでも雪に音が吸収されて静かなことがなぜか寂しい。現代文明もあっさりと自然に負けるという象徴に感じてしまった。廃ビルもそこかしこで崩れ落ちているところを見ると、元ショッピングモールはダンジョン化しているので崩壊を免れているのだろう。危ないところでした。
「アミ、抱っこして」
なので、現代文明の寵児であるマーモットは部下にお手々を伸ばす。こんな雪の中にマーモットが足を踏み入れたら、冬眠まっしぐらである。
「ニニーが抱っこしてあげうね。ぬくぬくでしゅね、まーちゃん。毛皮がサラサラでしゅ」
ヒョイ
アミにお手々を差し出したのに、アミよりも前に手を伸ばす人が一人。ニニーヴだ。
2本足でテチテチ歩いて、アミと一緒にお出かけしたのが悪かったのだろう、ニニーはしっかりと後をつけてきて、喜んで俺を抱っこする。こうなったら暴れても無駄なのはここ最近の付き合いで理解したので、諦めて『マモベース』を取り出すことにするよ。
ズズン
積雪を踏み潰し、大きな音を立ててどデカい装甲車が目の間に現れた。
マーモットベース。海にて強襲揚陸艦と呼ばれるものであろう。数メートルはある巨大なタイヤを片側12個ずつつけており、地上走行が可能であることを示している。分厚そうな装甲は何十センチあるのだろうか? 縦幅は7メートル、横幅12メートル、長さは40メートルはあるであろう装甲車両である。上部甲板には砲台が4門とミサイルボックスが搭載されている。
予想よりも遥かに大きな装甲車だった。驚くべき大きさであるが、積雪が吹き上げて俺たちは雪まみれになって、感動よりもお口に入った雪を咀嚼するのに忙しかった。幼女は雪まみれになったことが嬉しくて、キャッキャッとはしゃぐけど、そろそろ冬眠したくなるから、一度温かい所にいかない?
「うぉぉぉ、な、なんですか、この巨大な車は!? アミ殿が召喚なさったのですか?」
そして驚く役は見張り役のヘンリーたち兵士が受け持つのであった。無理もない、俺も予想以上にかっこいいのでびっくりです。きっとマーモット型のちっこい戦艦が出てくると思ってたから予想外でぽかんと口を開けて雪が入ったほどだ。
ウィーンと3層のハッチが開き、タラップが降りてくるので、ロマン溢れる期待感マックスだ。
「でっかいおうち? まーちゃん一緒に冒険しよ〜」
こういう時は大人よりも純粋な幼女の方が行動は早く、ニニーがテテテテテテとタラップを登ると中に入る。もちろん俺を抱っこしたままで。
「おうちの中、真っ暗でしゅよ、ランプもってくりゅ?」
基本的に窓のない揚陸艦は真っ暗で、さすがの幼女も立ち止まる。
「少しお待ちを。このような揚陸艦はだいたい明かりのスイッチが入口近くにも用意されているものです」
気の利くアミが壁を探るとパチリと音がして、天井が明るくなるのであった。金属製の廊下はパイプなどは壁の中にあるようで、すっきりと綺麗だ。どこまでも伸びていそうな廊下にワクワクとしてしまうよ。
「ピギーピギーピピピ(まずはブリッジに行ってみよう。この揚陸艦のコントロールをするんだ)」
肉球のついたお手々をぶんぶん振り回して見せると、念話でなくても理解してくれたアミはコクリと頷く。
「おやつはポケットに入っているであります。今日は人参スティックで良いですか?」
全然伝わってなかったけど、おやつを貰えたからラッキー。ニニーさんや、あたちがあげるのと駄々をこねないで、俺に人参スティックください。
ニニーに抱っこされながらコリコリと人参スティックを食べてブリッジへと向かう。好奇心が勝ったのだろう、ヘンリーたちも恐る恐るついてきている。
ブリッジに入る前に分厚い扉があったが、開きっぱなしなので、問題なく中に入り━━。
「おぉ~、SFアニメに出てくる宇宙船のブリッジみたい!」
それもなにに使うか分からない謎のレーダーが大量に壁にある宇宙戦艦ヤマ◯ではなく、デスクと端末だけしか置かれていない宇宙戦艦ナデシ◯タイプのスッキリとしたブリッジだ。
ここで、俺が艦長になって、皆に指示を出すんだな。「マモベース、発進!」とか、うわぁ、想像しただけでワクワクしちゃうよ。
問題は渋いおっさんや、可愛らしい美女艦長じゃなくて、マーモットなんだけど、可愛さでは勝ってるから気にしなくて良いよね?
ピピピと俺はご機嫌で、艦長席に向かおうと幼女の拘束から離脱して、新品の椅子に手を伸ばして保護シートを剥がそうとする。やはり新品の保護シートを剥がすのはマーモットになっても嬉しい。
「んん? なにこれ?」
と、そこで違和感に気づく。これ保護シートじゃないぞ。保護シートは通常ぴっちりと椅子に張り付いているんどけど、このビニールシートはぶかぶかだ。それが何を意味するかと言うと……。
「クリーニング済のビニールシート!?」
業者の清掃が終わると被せてくれるビニールシートに似てるので小首を傾げて不思議に思ってしまう。単純にそういう仕様なのだろうかとも思うけど、少し違和感があるな。
「……やけに擦り減ったデスクでありますね。見てください、このデスクの縁を。だいぶ使われた感があるのです」
同様に違和感に気付いたアミがデスクの縁をなぞって眉をしかめる。やはり変だと思ったのだろう、これは中古品なのか? え、だって開発で生産したものだよね?
「新品ではないように思えます。このキーボードも擦り減ったところがありますし、説明書は新品のようですが、中古品を綺麗にして説明書を置いたような感じがしませんか?」
「ぬぅ〜。この辞書みたいな説明書は新品だけど、たしかに揚陸艦は使っていた感があるなぁ。にしても、これもマニュアルを読み込まないと使えないタイプか。スキルもそうだけどシステムって不親切な仕様だよね」
「新人類かコーディネーターか、コーラル強化兵士なら自然と操作できるかもです。お勧めはコーラル強化兵士であります」
「元ネタがわかる俺が憎い」
各デスクに置いてある辞書のような説明書をモッシャモッシャとめぐりながら、うんざりとする。脳内にインストールしてくれるお手軽なタイプで良いのよ?
「慣熟訓練が必要なのか。なら、すぐに出発は不可能かなぁ」
この冬に訓練すれば大丈夫だろうか。下級マーモットたちから選抜する必要があるだろうし、すぐに出発する気だったので、落胆して、まもんと肩を落としちゃったよ。
「とりあえずエンジンを起動させます。ここはかなり寒いですし、オート機能もあると思われますし」
アミがペラペラと説明書を読みながら、艦長席に座り、いくつかのボタンを押していく。どうも起動に順序があるようだ。
俺もモッシャモッシャと説明書を読んで理解しようとするけど、なぜか俺の持つ説明書は欠落が激しくてろくに読めないんだよね。これ不良品じゃないかな?
マーモットの本能に従い、俺はブリッジの隅っこに座りせっせと巣作りをしながらマモベースが命を吹き返していくのを見守る。
ウィーンと小さな震動が艦内を震わせて、天井のライトが非常灯から、眩しいくらいの光に変わっていく。モニターにライトがついていき、金属製の壁がまるで透き通ったガラスのように変わり、揚陸艦の前面が映し出される。
「な、なんですかこれは!? 魔導兵器ですか? 帝国でもこのような物は見たことないのですが」
「魔導兵器かどうかと尋ねられると微妙なところでありますね。エンジンは超電導エンジンとされていますし、我々の知らない科学技術な可能性が高い」
ヘンリーが見たことのない光景にビビって、腰が引けているけど、俺も同じだ。超電導ってなぁに? ここにきて魔法以外の導入されて、マーモットダンスを踊りたくなるほどワクワクしちゃうよ。
寝心地が良くなるように紙くずをお手々でペチペチ叩いてならしながら、キラキラとした瞳で見守る俺に対して、アミの顰めっ面は深くなる。
「これはかなり難しいであります。少なくともオペレーターが5人は必要ですね。火力管制、レーダ管制、情報管理、艦内管理に通信兵……さらにそれらを管理する艦長。全て複雑なシステムを利用しています」
「まもーん(それって訓練に数年かかる感じじゃない? すぐに使えないじゃん!)」
せっかく開発したのに、宝の持ち腐れとなる可能性大。もはや新たなる巣に寝っ転がって不貞寝するしかない。なかなかの寝心地になったと自負してます。
コロンと寝転び、ヘソ天で目を瞑ろうとする俺だけど━━。
「……がっかりするのは早いかと。まだ切り札があるようですよ」
ん? なにか裏技でもあるの?
含みのある言い方をするアミに、俺は寝っ転がるのを止めて起き上がる。俺の様子を見たアミはフフッと微笑むと引き出しに手をかけるのだった。
◇
━━数分後。
「マモベース、発進!」
艦長席に座り、マーモットはノリノリでお手々をあげて、マモベースを発進させるのであった。
「ピギーピピピピピピ(周囲を散歩しよう)」
小鳥のように囀りながら、マーモットダンスを踊るマーリンに従い、積雪の中をものともせずに、轟音を立てて青い粒子を吐き出しながら、陸上用揚陸艦は出発する。
見張りたちがあんぐりと口を開けて、避難民の人々がその威容に驚愕する中で、瓦礫を踏み砕き、雪を掻き分けて廃墟を突き進むのであった。
果たして、周囲を散歩するだけに終わるかは、マーモットのみぞ知ることである。
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